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月と燃ゆる

大聖堂内で血を血で洗う乱戦が繰り広げられ、エロイスたちは敵を抹殺していっていた。

だがある敵の一手により落とされたシャンデリアにロイドは足を負傷し、動けなくななってしまった。

ウォージェリーへと銃剣を突き立てるため走るエロイス、果たしてその結末は。

飛びかかったエロイスは煙の中から姿を表し、着剣した歩兵銃をウォージェリーめがけて近づこうとした瞬間。


バンッ!バンッ!


大聖堂の広い空間に二発の銃声が鳴り響いた。


(…えっ…?)


ウォージェリーめがけて飛び込んできたエロイスはそれ以上前に進めずその場に倒れ込んでしまった。


エロイスが恐る恐る足を見ると。

両足のふとももから血が吹き出ていた。


「あっ…あぁっ…!」


足を負傷した彼女は流れる血を抑えようとするかの如く足を抱える。


「くぅっ…痛い…っ!痛いっ…!ああっ!」


のたうち回るエロイス。


煙が晴れるとそこは地獄の跡だった。


気づけば誰も戦っていない。

戦える兵士などいなかった。


敵味方全員死ぬか致命傷に倒れるかだった。


「はっはっはっ…これだよこれ、見たまえ。

もはや敵も味方も全滅、死ぬか動けなくなるか」


ウォージェリーは嬉しそうに手を叩いて喜ぶ。


大聖堂内部には三種類の軍服を着た死体がゴロゴロ転がっていた。


ロディーヤの野戦服を着た兵士、武装聖歌隊の野戦服を着た兵士。

そして白の裁判所の軍服を着た兵士。


「くっ…流れ弾の当たらない内陣に…ゆうゆうと座って……」

「私はだね、自身の死ぬが生きるかなんてものはどうでもいい、ただ戦争行為、ありとあらゆる戦争行動や戦争犯罪が大好きだ。

お前はこの私にあとわずか届かなかった」


両足を撃たれその場に這うエロイス。

のんびりと椅子に座り彼女に自分の理念を離すウォージェリー。


「さぁて、死ねなかったのは悔しいが、そろそろお前も終わりだな。

おい、この子の地獄へ送ってやってくれ」


短機関銃を持った二人の兵士がエロイスに近づいていく。


(だめだ…足が…動かない…)


エロイスは絶望的な状況に立たされていた。



その頃、大聖堂の麓の広場では銃撃戦が繰り広げられていた。


月下の元、死体が月明かりに照らされている闇にぽおっと浮かび上がる。


ダンテルテ少佐とシェフィールド・S中尉は噴水のそばに身を低くして隠れていた。


「シェフィ、私があいつらの人肉を削ぐ、敵の顔を出させないよう援護射撃を頼んだ」


半自動小銃を手にとっていた中尉は激しくうなずいた。


「よし…今だっ!」


敵が弾を込めている瞬間に『アミ』を持った少佐が飛び出し、敵陣へ突っ込んだ。


中尉は突き進む少佐を後ろから中尉が敵に顔を出させないよう射撃を加える。


ダンテルテ少佐は『アミ』を発砲しながら障害物に隠れながら敵に近づいていく。


「…っ!」


援護射撃をする中尉の目に敵兵が映った。


不気味な笑顔の仮面の奥の瞳には広場の横の建物の二階に光るものを見つけたのだ。


二階にはロディーヤ兵が歩兵銃にスコープをつけて狙撃銃に改造した銃でダンテルテ少佐を狙っていた。


だが少佐はそれに気づかないし、気づいたとしても拳銃の『アミ』の射程では届かない。


このままではダンテルテ少佐が撃たれてしまう。


だが中尉は声を出すことができない。


中尉は震える足で噴水から飛び出して少佐の元へ向かう。


「っ!?シェフィっ!なぜ援護射撃をやめたっ!?」


少佐の進む足が思わず止まりその場に振り返る。


そしてその瞬間、二階の窓から大きな銃声が響き、一発の弾丸が闇夜を切り裂いてやってきた。


「戻れっ!シェフィっ!戻れえーっ!」


中尉が少佐の身体に飛び込んだ瞬間、弾頭が肉に着弾する音がした。


水音とともに血しぶきが舞い散る。


中尉と少佐はその場に倒れる。


「…シェフィ」


倒れたダンテルテの胸にぐったりとした中尉が倒れ込んでいた。


その首元に空いた穴からは血がドロドロと流れ出ていく。


ダンテルテは中尉を抱えてすぐそばの塹壕へと運んでいった。


「必ず戻ってくる…

…もう、返事はできないか」

 

ダンテルテはそう言い残し塹壕から出ていった。



中尉は塹壕の中でぐったりと座っていた。


被っていた笑顔の仮面の口から血の筋が流れている。


首から大量に流れ出る血液が武装聖歌隊の野戦服を赤く赤く染め上げていった。


「ェ…エロ…イヒュ…君に…こっ…ヘを…与え…」


中尉は震える手でポケットから一枚の単語を取り出した。


『good』


そう書かれた単語の用紙を取り出すとがそこでついに力尽きた。


ぐったりとした掌の単語は段々と血で染まっていった。

その単語用紙は血で染まり『good』の一文字が消え『god』へ変貌したのだ。


シェフィールド・S中尉は塹壕の中、月光を全身に浴びながら息絶えた。


中尉の顔の笑顔の仮面はこころなしか、月光に照らされ少し悲しげな表情をしているようにも見えた。



大聖堂の中は不気味なほど静まり返っていた。


両足を撃たれ地面に這いつくばるエロイスにウォージェリーの二人の護衛が短機関銃を持って近づく。


「くっ…その銃を…私に…向け…」


そんなエロイスの言葉も気にせず、護衛の二人は短機関銃の銃口をエロイスの頭部に向けた。


エロイスは死を覚悟し目を瞑ったがその時、エロイスの後ろから銃声が聞こえた。


思わずエロイスが目を開けると目の前の護衛の一人の額に穴が空いていた。


兵士はそのままエロイスの横に思いっきり倒れる。


エロイスが振り向くとそこには銃口から硝煙を吹かしている半自動小銃を握ったロイドが足の痛みに耐えながら発砲したものだった。


「…ロイド…っ!」


エロイスの呼びかけにロイドはニヤッと笑ってもう一発発射した。


その弾丸は残った護衛の胸に当たった。


「ぐわっ…っ…!あのっ…ガキ…っ…!」


護衛の兵士は悔しそうに言い残してその場に倒れた。


「これが…限界…よ…エロイス…あとは…任せた…」


シャンデリアに足を挟まれたロイドはその場で気を失ってしまった。


「ロイド…っ!クソっ…お前…っ!必ず討つ…っ!」


エロイスは歩兵銃を血で汚れた手で構える。


「あと何発残っている?」

「一発だ、お前を殺すのには十分すぎる」

「ほう、いい戦争だ、果たして当たるかな。

興奮してきたぞ」


エロイスはプルプルと震える手で銃口を椅子に座るウォージェリーに向ける。


「この一発で決める…っ!」

「当てて見ろっ!この私を殺してみろっ!」


エロイスは顔に怒りを浮かべながら這いずったまま引き金に手をかける。


照星の先にはニヤニヤと笑っているウォージェリー。


エロイスは人差し指に力を込め引き金を引いた。

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