漆黒の英雄
エロイスの策略により一気に大聖堂内部の敵を始末することのできた武装聖歌隊。
内陣で座っていたウォージェリーは指をパッチンと鳴らした。
果たして彼女の一手とは?
ウォージェリーが指を鳴らすとエロイスの突入する軍歌の音に混じって別の足音が聞こえてきた。
(なっ…なにか変…私達の靴音の他に別の足音が…っ!)
ロイドはそうは思いながらもクロッシングへ向かって突き進む。
(クロッシングについたら内陣にいるあの戦争狂に一突き…っ!やるしかない…っ!)
エロイスにはその足音が聞こえてないみたいだった。
そして翼廊の左右から突入したエロイスとロイドがあと少しでクロッシング部分に合流できると思ったその瞬間、周歩廊から短機関銃を手に持った軍人たちが飛び出してきた。
ペイブック用のポケットが胸に2つ付いた白い上着にハイウエストの黒いベルト。
白いズボンと黒い靴。
制帽は黒いツバに白い顎紐白い天張りの制帽を着用しているその軍人たちは白の裁判所の兵士たちだった。
「なっ!?」
「にぃっ!?」
エロイスとロイドは思わず連携するかのように驚いてしまった。
「この内陣と主祭壇を囲む内陣癖の外は周歩廊となっている、その周歩廊には礼拝堂が三つある。
戦争をより悲惨なものにするために配備しておいてよかったよ」
ウォージェリーがニヤリと微笑んでそういう。
エロイスとロイドはそんな新しい敵の出現を前に思わず考えがよぎる。
(この敵を倒してあの戦争狂を殺す…いや…その前に…殺されるかもしれない…)
(こんなの…勝てるかしら…私に…下手したら全滅する可能性だって…)
ネガティブな考えが走っていた二人の脳裏に一瞬よぎった。
(でも…)
(だけど…)
二人は半自動小銃をしっかりと握り込んだ。
((やるしかない…っ!!))
彼女の脳はまるでテレパシーをしているかのように同じ考えだった。
「足を止めるなぁーーっ!!死体になっても激突するぐらいの勢いで行くぞーっ!!」
エロイスかそう喝を入れると後ろの兵士たちも「おおーっ!!」と雄たけびを上げた。
敵の兵士が短機関銃を乱射する。
弾丸は光る矢と鳴り武装聖歌隊の兵士たちにも浴びせてくる。
一発の弾がエロイスの顔面を横切った。
「…っ!!」
横切った頬からは赤い横線が出来、そこから血がわずかに滴り落ちた。
「ぎゃぁーっ!」
「うげぇっ…!」
仲間たちが次々と凶弾に倒れていく。
「うぉぉーーっ!!」
エロイスが着剣した歩兵銃を兵士の心臓めがけて突き刺した。
それに応じるように運良く敵の弾幕を潜り抜けられた仲間の兵士たちも発砲しながら近づいていった。
ロイドたちは突如現れた敵を手榴弾で対処した。
丸っこい手榴弾や柄付きの手榴弾を大量に投擲して破片の雨を食らわせる。
「ぐぇぇっ!!」
「うギャァァァーっ!!顔がっ!?顔がァーっ!!」
爆発し飛び散った破片を全身に受けた兵士たちは攻撃することも忘れただ激痛に泣き叫ぶ。
「それっ!地獄の亡者の仲間入りよっ!」
ロイドたちが半自動小銃を構えて発砲した確実にとどめを刺した。
だが敵の兵士たちはまだまだ大量にいる。
いつの間にか敵味方入り乱れる乱戦へと突入していた。
「死にさらせっ!クソガキっ!」
一人の兵士が短刀をエロイスの背後から突き刺して来ようとした。
「は…っ!?」
小銃を構えたがとっさにその攻撃を交わしたとき敵のナイフが小銃に当たりそのまま手放してしまった。
敵は外れたナイフをエロイスの方ヘ軌道修正して再度切りつけようと振り回す。
(くっ…!!銃を拾う隙がない…っ!)
エロイスはそう考えたが敵兵が彼女に突き出したナイフを受け流すとその腕をガッチリと掴んで軍服の上から思いっきり噛み付いた。
「い゛っででででっ!!!畜生っ!!このクソガキっ!!離しやがれっ!!」
「う゛ぐぅぅ〜〜っ…!!」
エロイスはそれでもガッチリと噛み付いて離れない。
そして最終的には軍服と腕の肉ごと噛みちぎってしまった。
「ぎぃゃゃゃーーっ!!!?このっ!!ちくしょーーーがぁぁーーっ!!!」
エロイスはペッと衣類の切れ端と肉を吐き出すと敵の首に手をかけた。
そしてそのまま押し倒し馬乗りになっても思いっきり首を絞める。
親指で喉仏を潰し確実に殺しにかかる。
「がっ…かはっ…!!」
敵の手が首を絞めるエロイスの腕にからみつく。
「くっ…!早く…早く死んで…っ!」
「…かはぁっ……!」
敵の口から赤色の泡がブクブクと拭き漏れる。
首を絞め続けるエロイスの背後からのもうひとりの敵兵が現れた。
拳銃の銃口を向け、発砲し用とした瞬間。
「エロイスっ!危ないっ!」
「っ!?」
ロイドが拳銃を構える敵兵の脇腹に着剣した歩兵銃を突き刺した。
「ぎゃぁぁっ!」
敵兵は刺された箇所から大量の血を吹き出し、断末魔を上げながら倒れた。
「…ロイド…」
「そいつはもう起き上がれない、動ける人間を殺していこう」
「…うん…っ!ありがと…」
「立てる…?」
ロイドが差し出した手をしっかりと握りしめエロイスた立ち上がった。
大聖堂内では理性を忘れた獣と獣同士のような戦いが繰り広げられていた。
着剣した歩兵銃を振り回す兵士やお互いが死ぬまで殴り合う兵士。
スコップやナイフで刺し合ったり切りつけ合ったりている。
「くっ…こんなに敵味方入り乱れるんじゃあやたらむやみに発砲はできないわ…
ここは…拳で…」
ロイドが身廊にて敵の首に腕を振り敵を倒した瞬間、別の敵兵が手榴弾を高い高い天井に向けて投げた。
手榴弾は爆発し、天井から吊り下がっていたシャンデリアが音を当てて落下してくる。
「えっ…」
その瞬間、ガラスがジャラジャラと割れる音を含んだ轟音が鳴り響いた。
「っ!?ロイドっ!!」
敵の首元にナイフを突き立てていたエロイスが叫んだ。
シャンデリアの下には複数の武装聖歌隊とロイドが倒れていた。
ロの足はシャンデリアに潰されて赤く染まっている。
「エロ…イス…っ!あのっ!戦争犯罪者を…っ!殺せっ!!」
血で汚れた地面に這いずるロイドがエロイスに向けてそういった。
「…わかった」
エロイスが振りかえるとそこには護衛二人の間の椅子に座ってニヤニヤと眺めているウォージェリーがいた。
内陣壁に囲まれた三人のいる方向へエロイスは着剣した半自動小銃を手にとって突撃していった。
人間の血しぶきや悲鳴、手榴弾の爆発音が響く凄惨たる戦場。
それを心のそこから楽しんでいるウォージェリーに向って一直線。
刹那、手榴弾がエロイスの前方で爆発し煙がたった。
ウォージェリーの目の前は煙に包まれて視界が悪くなる。
その煙の中から英雄は現れた。
飛び上がり、銃口の銃剣を突き刺そうと構える殺気あふれる少女兵がウォージェリーのメガネに写っていた。
果たして、ウォージェリーを葬る事はできるのであろうか。




