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サニーランドは殺さない

突然襲撃してきた暗殺者バッタンキュー・ニューデセックス。

彼女はロディーヤ軍の指揮能力を下げるために有能な軍人たちを暗殺していた参謀総長側の人間だった。

そんな暗殺者に勝ったと思ったリリスとシュトロープだったが返り討ちにあってしまった。


果たして打開することはできるのだろうか。

リリスの両足を留めているケーブルは複葉機の機体の下をとおり尾翼で折り返しバッタンキューの手の中に繋がっていた。


バッタンキューがケーブルを引けば引くほどリリスは回転するプロペラに引きずり込まれてしまう。


「リリスっ!ケーブルを撃って切断しろっ!!」

「くぅ…!」


リリスが足の先にピンッと張っているケーブルを切ろうと銃口を向ける。


「不可能っ!脱出不可能だっ!!」


バッタンキューが勢いよくケーブルを引くとリリスは引っ張られ起こしていた身体を地面に叩きつけられてしまう。


(まずいっ!このままだとバラバラにされるっ!!)


リリスは地面をズルズルと引きずられギュルギュルと回転するプロペラが眼前に近づいてくる。


「終わりだっ!お前たちを殺して大尉を殺して雑魚は一掃っ!死ぬがいいぜっ!」


バッタンキューがそう言ってケーブルを引っ張ろうとした瞬間、リリスは落ち着いた口調で言った。


「よかった、しっかりと聞こえる。

プロペラの近くまで来てわかった、しっかりと作動している…っ!」


リリスのその発言にバッタンキューのケーブルを引くと手が止まる。


「なっ…何の話だお前っ!何の話をしているっ!」

「聞こえない…?プロペラの回転する音に混じって、別の音がするのを」

「音ぉ?」


バッタンキューがよ〜く耳を澄ますとどうやらプロペラの回転する音に混じってキュルキュルと何か巻き込まれていくような音が聞こえた。


バッタンキュー操縦席から身を乗り出し機首を覗くとエンジン部とプロペラの間に輝くピアノ線のようなものが回転に巻き込まれていた。


「なっ!?何だこれぇっ!

よくわからんがスロットル停止だっ!これ以上の回転は許さないぃぃっ!!」


バッタンキューはわけもわからず慌ててスロットルを手前に引いてプロペラの回転を止めようとした。


ゆっくりと回転が緩やかになっていく中、三人の耳にとある音が聞こえた。


ピンッ


何かが外れたような音がはっきりと聞こえた。


「…外れた音がした、すぐにそこを離れたほうがいいよ」

「何の音だ今のはぁっ!!」


リリスの言葉を耳にも入れずバッタンキューが再度絡まったピアノ線を覗くとピアノ線の終わりにピンのようなものがついていた。


「こっ…こっ…!こっ…!?これはっ!?手榴弾のピン!?馬鹿なっ!」


バッタンキューは急いで操縦席から飛び降りたがその瞬間、複葉機は大きな音を立てて爆発した。


エンジン内部に仕掛けられた手榴弾が爆発しエンジンを巻き込んで大きく爆発したのだ。


「なっ…何だ今の音は…!」


その爆発の衝撃で兵舎で寝ていたイーカルスたちも起き始めてしまった。



黒煙が充満する格納庫、次第にモヤが晴れるとそこには爆発で破壊された複葉機ホワイトデイが黒い残骸と化してその場に存在していた。


爆風で飛ばされたバッタンキューは地面を這いずりながらつぶやく。


「なんで…こんな仕掛けが…いつの間に…ありえない…あんな仕掛け事前に仕掛られるわけがない…」

 

弱々しく這いずるバッタンキューの背後から二つの人影が彼女を覆った。


「はっ!?」

「…大尉の案でね、夜間に襲撃されたりしても鹵獲されないようにこういう仕掛けを施しているの」


それを聞いたバッタンキューは二人に言い放つ。


「バカがっ!そんなことして、もし夜間の出撃命令出も出たらどーするっ!解除に時間がかかるだろっ!!」

「これは方向舵昇降舵ともに壊れていて使えない機体、さも出撃できます風に装って置いてあるけどそれは真っ先に目が行くように。

奥においてある機体はこの仕掛けは施されていないし使える機体、この壊れた機体に目をつけたのが運の尽きってこと、絶対に機体は渡さないし何なら一人ぐらい殺してやろうっていう大尉の強い意思の現れだよ」


そんな大尉の策をリリスの口から説明されるとバッタンキューは力が抜けたような声で言った。


「…なるほど、道理で殺害命令が下るわけだ」


リリスに向けシュトロープは言う。


「こいつ参謀総長側の人間だ、詳しく色々聞けそうだな」


その言葉に反応するようにバッタンキューはいきなり言った。


「…参謀総長の計画を知っているのか…」

「うん、この二人だけだけどね」


リリスのその言葉を聞くとバッタンキューは大声で言った。


「ちくしょうっ!!これ以上有益な情報を与えるわけにはいかねぇっ!俺は金と地位を約束されて買われた軍人だっ!参謀総長の計画も知っているっ!汚ぇ犬だが意地はあるっ!秘密の保持の為に死んでやるぜっ!!」


そう言うとバッタンキューは口の中をゴニョゴニョと動かし始めた。


「まずいっ!彼女自害する気だっ!」


シュトロープとリリスは慌ててバッタンキューに駆け寄る。


「やめろっ!!」

「もう遅いぞシュトロープっ!抜けた歯茎に挿した歯の形をしたカプセルから青酸カリのカプセルを取り出したっ!これを飲んで苦しい苦しい言ってのたうち回りながら死んでやるっ!」


彼女の舌の上にはすでに白いカプセルが乗っかっていた。


今にもバッタンキューが青酸カリのカプセルを飲み込もうとした瞬間、リリスが彼女の身体を強く抱きしめ、バッタンキューの口に強い接吻を交わした。


「んんっ〜!?///」


リリスがバッタンキューの身体をガッチリとホールドして舌を無理矢理ねじ込んで来たのだ。


「何やってんだっ!リリスっ!」

 

シュトロープは突発的のリリスの行動に驚いてしまった。


口づけをされ、口の中をリリスの舌で念入りに探し回さるバッタンキューは次第にリリスを突き放そうとする抵抗の手を緩めてしまう。


段々とリリスに身を委ねそうになるバッタンキューだったが、リリスは彼女の口の中を舌で探し回ってそして顔を離した。


「獲ったっ!!これで命は救われたっ!!」


バッタンキューの口の中を舌で探し回って見つけた青酸カリカプセルをリリスは歯で噛んでいた。

すぐにペッと付近に吐き捨てたリリスは力が抜けてその場に座り込むバッタンキューに言う。


「ごっ…ごめんっ!手荒なことしちゃって…!」

「…っ!///、離れろっ…!バカが…っ!」


バッタンキューは明らかに動揺した素振りと口調でリリスから目をそらした。


三人のいる格納庫の外から声が聞こえてきた。


「おいっ!誰かいるのかっ!今入るぞっ!!」


イーカルス大尉の声が外から響いてきた。


「っ!?みんな来ちゃった…シュトちゃん、弁明お願いっ!私はこの子を外に運ぶからっ!」 

「わっ、私がか?」

「お願いっ!」


リリスはお姫様だっこでバッタンキューを裏口から外ヘ出ようとしていた。


「…しょうがないな、なんと言おう…」


集まってくるイーカルス大尉やエマールに頭を抱えるシュトロープ。



格納庫の裏に座り込んだリリスだバッタンキュー。


「…なにが聞きたい」

「えっ…」


リリスはバッタンキューからの質問に少し驚く。


「…俺から聞き出したい情報があるんだろが」

「…それは、おおよそ想像がつくよ。

きっと有能な軍人を殺すように言われたんでしょ?」


バッタンキューは顔を埋めて答える。


「この仕事を参謀総長からもらったときは心底喜んだ。

報酬の金と地位を与えてくれるって言われたからな、それがあればたとえ売国的な行動も厭わずにできた,しばらくこれで食っていっていたがもう終わりだ、俺はお前に殺されて虫の餌に終わるんだ」


そうつぶやくバッタンキューにリリスは身体を寄せてきて言う。


「じゃあもう、暗殺稼業はしないね?」

「しないというか、できなくなる、だろ」


リリスはバッタンキューの手を握ってきた。

暖かく柔らかいリリスの手が彼女の黒い革手袋を包み込んだ。


「参謀総長の計画に心酔してないのなら、いくらでもやり直せるよ、また清い軍人として」

「…無理だろ、俺はお前を殺そうとしたんだぞ…ましてや上官の大尉も」


リリスはにっこり笑って答える。


「私は参謀総長の計画を阻止したいだけ、人を殺すのが目的じゃない、だから貴方と友達になって総長から引き剥がしたい。

心酔しているなら無理かもしれないけど…貴方がお金と地位を諦めてくれるのなら…っ!」

 

リリスの熱のこもった言葉がバッタンキューの耳に入っていく。


その熱い眼差しはバッタンキューの目にキラキラと映った。


「…はぁ、狂ってるぞ、お前」

「うん、とっくにね」


バッタンキューは主税の抜けた笑いを浮かべると上空の星空を見上げた。


「なんか、そうだな…お前の言葉を聞いていると金も地位もどうでも良くなってくる…

…俺を許してくれるのか…?」

「うんっ!もちろんっ!はいっ、もう過去の自分には戻らないって約束して。

指切りっ、しよっ!」


リリスは眩しいほどの笑顔でバッタンキューに小指を差し出した。


「…約束する。

お前のその気高い愛情に俺は尊敬の念を示す!」

 

バッタンキューはリリスと小指を交え一緒に唱える。


「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ますっ、指切ったっ!」」


そしてリリスはバッタンキューに親しみを込めてこう言った。


「よろしく、キューちゃんっ!」

「…キューちゃん、気に入った、今日から俺はキューちゃんだな」


格納庫の裏で二人の少女が先程のいざこざなんかなかったように和解し打ち解けた。


その二人を夜空の星と月は見守るように包み込んでいたのだった。

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