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張り巡らせる罠

参謀総長のロディーヤ敗戦への京鶴を共有したリリスとシュトロープ。

そんな二人のいる航空隊の大尉に何者かの魔の手が忍び寄っていた。

参謀総長とルミノスが送った暗殺者が航空基地に赴いてきていたのだ。

日は沈みすっかり当たりは紺色に包まれていた。


空には幾億の星の光が瞬きいている。

大きな満月の月明かりが航空基地の建物や地面を仄かに照らしていた。


イーカルス大尉もアルチューネ軍曹もエマールもすっかり就寝して寝息を立てていたが明かりのついた格納庫にはリリスとシュトロープの二人だけで会話をしていた。


シュトロープは並べられたドラム缶の上に、リリスは積まれた角材の上に腰掛けていた。

 

二人がわざわざ複葉機が格納されている格納庫で話していると言うことは会話の内容はもちろん参謀総長の計画のことだった。


「参謀総長の計画のことだが、逆にリリスはいつ知ったんだ?」

「う〜ん…徴兵されてしばらくしてからかな、私の上官の少尉が教えてくれたんだ」

「そうなのか、少尉はどこで知ったんだ?」

「参謀総長が直接教えてくれたみたい」


リリスの言葉を聞いてシュトロープは驚きの声を上げる。


「は…?そんなアホな話があるか、なんでわざわざ言う必要があるんだ?それともその少尉に教えたかったのか?」

「…まあ突き詰めればそうだったみたい、単純にその計画だけが絡んだ話じゃなかったけど…」


うつむくリリスにシュトロープはそれ以上詳しく聞く気にはなれなかった。


シュトロープが何気なく上を見上げると暗い格納庫の天井の鉄の梁あたりがキラリと光った。


「リリスっ!危ないっ!」


シュトロープが突如ドラム缶から降りリリスの首根っこを掴んだ瞬間。


バンバンバンッ!!


発砲音が格納庫に響き渡った。


二人はすぐにドラム缶の後ろに隠れたため三発撃たれた弾丸を防ぐことごできた。


「何っ!?」

「天井に誰かいるっ…!私達を狙って撃ってきたっ!」


天井を支えている鉄の梁の上に誰かが乗っていた。


「しょーがねぇ〜なぁ」


この人物の手にはハの字に銃身を折ることのできる中折式のリボルバーが握られていた。


「ここからじゃ撃てねぇな」


その人物は近くの吊り下げられたクレーンを掴んでスルスルと降りてくると地面に降り立った。


「誰…あの人…」

「わからないが、確実に殺しに来ている、下手な動きはできないぞ」

 

リリスをかばうように守っているシュトロープが小声で言った。


「ちっくしょう、明かりがついているから大尉がいるかと思ったけどよぉ、いたのは兵卒上がりじゃねーかよ〜っ!」


その人物は近くのドラム缶を蹴っ飛ばして威嚇してきた。


「俺はよぉ、この航空隊の大尉を殺しに来た、すでに外で作業していた整備兵は喉掻っ切って殺してやった、やっと目的の大尉かと思ったんだがよぉ〜っ!まずはお前たちを殺して大尉も殺すっ!そして残った雑魚と建物航空機は爆破だっ!『聖者の行進』はどこへでも這い進むっ!!」


彼女が残った三発をリリスたちが隠れたドラム缶の群れに向かって歩きながら発砲した。


バンバンバンッ!!


中折式のリボルバーの銃身を勢いよく折って、薬室の空薬莢を勢いで外へと飛ばした。


六発撃った空薬莢がカランカランと地面に転がる。


そしてポケットから新たに弾頭がついた弾丸を六発空中に投げると折り曲げた銃身を持った手を動かし薬室ですべて受け止める。


そして銃身をもとに戻して発砲できるように装填したのだ。


「そこにいるんだろう?大人しく出てこいよ」


ゆっくりと近づいてきた瞬間、リリスとシュトロープは身を隠していたドラム缶を蹴っ飛ばした。


「なにくそっ!」


勢いよくやってきたドラム缶が彼女の身体に直撃した。

思わず地面に倒れ動けなくなった瞬間、シュトロープの手に握られていたオートマチックの拳銃を殺しに来た彼女に向けて発砲した。


彼女はすぐに立ち上がり近くの資材に身を隠した。


リリスとシュトロープはすぐに近くの別のドラム缶に身体をスライドさせた。


「その銃どこで…?」

「さっき棚に置いてあったのをもらった」


二人はドラム缶から格納庫全体を見渡す。


「さっきやつがどこに隠れたか見たか?」

「見た、あそこの資材の影に」

「よし、このドラム缶を盾にして進むぞ」


二人はドラム缶を手で持ちながら積まれた資材へと慎重に進んでいく。


「そこにいるのはわかっているんだ、すぐに降伏して出てきたほうが見のためだ」


シュトロープが資材に向かってそう呟いた。


「出てこないのなら…先手必勝だぜっ!!」


シュトロープはドラム缶から勢いよく飛び出し資材の裏へと銃口を向けた。


「…あれ」


資材の裏に銃口を向けたがそこには誰もいなかった。

ただ影となった空間だけがぽつんと存在しているだけだ。


「リリス、いないぞ」

「ええっ…たしかにそこに隠れたはず…」


リリスがそういった瞬間、近くのドラムがゴトッと音を立てた。


二人はその音がしたドラム缶の方へと目をやった。


そこには一つ、ぽつんと孤独に置いてあるドラム缶が存在した。


「…今、このドラム缶、音を立てたな」

「うん…間違いない、音がした…何かが動くような音が」


それを見たシュトロープは一人ほくそ笑んだ。


「なるほど、資材の裏にいる間にドラム缶の中に隠れて移動して不意を突くつもりだったんだろうが…もうお前は袋のネズミだ、窮鼠猫を噛もうにも自分から蓋しちゃっているんだから反抗もできない。

さぁ選べ、大人しく出てくるか、それとも私のこのオートマチックでドラム缶ごと貫いてやるか」


二人はしばらくそのドラム缶を見ていたがシュトロープはついに引き金を引く決意をした。


「呆れたぜっ!最後に名前ぐらい聞いてやろうかと思ったが…これで終いだっ!!」


シュトロープはドラム缶向けバンバンッ!と勢いよ発砲した。


「全弾発砲した、これで確実に殺した。

リリス、この拳銃を元の位置に戻してきてくれないか」

 そう言ってシュトロープは全弾撃ち尽くした拳銃をリリスに手渡した。


ドラム缶には穴が空き二人は確実に殺したと確信したのだ。


だが撃った衝撃でドラム缶が倒れると二人の目には衝撃的な光景が目に入った。


チュー、チュー


なんとドラム缶の中から出てきたのは二匹のネズミだった。

開放されたネズミはそそくさと格納庫のどこかへと消えていった。


あ然とする二人に突如大声が聞こえた。


「間抜けめっ!!お前たちが追い詰めていたのは文字通りネズミだったぜっ!俺がさっき資材の裏で捕まえたネズミがよぉっ!お前たちを逆に追い込んだっ!!もうその拳銃に弾はねぇっ!!」


彼女はなんと格納庫に格納されていた操縦席の中に隠れていた。


あ然とし気が緩んだ二人に向け横からリボルバーの引き金を引こうとした瞬間、リリスはシュトロープから受け取った拳銃の銃身を握り下から振り上げた。


「…今だ…っ!」


ちょうど相手のリボルバーを持った手の位置に水平のところでマガジンキャッチと呼ばれる弾倉を固定している引き金の根本のボタンを中指で押して遠心力で空の弾倉をものすごい勢いで飛ばした。


「なっ…!何ぃーーーっ!!?馬鹿なっ!遠心力で弾倉を飛ばすなんてっ!そんなアホな話がぁーーっ!!」


勢いよく飛んできた弾倉は彼女のリボルバーを持った手に命中。


「うわぁーっ!」


飛んできた弾倉は手に衝突、驚きと痛さでリボルバーをその場に落としてしまった。


三人はその場に固定されたように固まった。


「…動くなよ、今拳銃の新しい弾倉を見つけた」


シュトロープが弾の入った弾倉をリリスに手渡すとリリスは弾倉が失われ空間ができたグリップに新たな弾倉を装填してスライドをして銃口を向けた。


そしてリリスはゆっくりと近づきながら言った。


「手を上げて、名前を名乗って」


彼女の言う言葉に渋々従ったように名前を言った。


「…バッタンキュー・ニューデセックス」


赤黒いミディアムボブに茶色の目。

頭に継ぎ接ぎの茶色のレザーキャスケットを被っており、キャスケットの後ろにレザーのうさぎの垂れ耳が垂れている。


スチームパンク風の丸いゴーグルをつけている。

ゴーグルには小さなルーペのような拡大鏡が両眼に取り付けてありこれで度数を変える。


襟や袖もフリルのブラウスに黒いリボンタイと茶色のハーネスベルトを装着、左胸部分を包む皮の胸当てがハーネスに縫い付けられている。


その胸当てには簡素化して心臓のデザインの銀のプレートが貼り付けられておりそこから大動脈と肺動脈の細い管が伸ばされており大動脈の管には赤い液体が、肺動脈の管には青い液体が封印されている。二つの色の管の先端は彼女の黒い革手袋の甲のハート型の透明の薄いケースにそれぞれ繋がっていてこのケースの中はそれぞれ赤と青に別れて繋がっている、左右にそれぞれの色の液体が満ちている。


アシンメトリーの黒いプリーツのミニスカートを着用、脚は黒いニーソックス、黒いレースアップブーツ。


バッタンキューの特徴的な服装は一目見ただけですぐに脳に記憶できた。


リリスがゆっくりと拳銃を持って近づいてくる。


バッタンキューはすでに観念仕方かと思われたが突如叫びだした。


「かかったな!罠に!」


リリスがケーブルの輪っかの部分に足を踏み入れた瞬間輪っかが閉じリリスの両足は身動取れなくなった。


「スロットル全開いぃーっ!!」


そう叫ぶと眼前の複葉機のプロペラが回転し始めた。


ケーブルの先端は機体の下を通り尾翼で折り返して操縦席のバッタンキューが握っていた。

バッタンキューは尾翼を滑車にしてケーブルを引っ張るとリリスがプロペラに引きずり込まれてしまうというわけだ。


「まずいっ!リリスっ!」


両足をケーブルに縛られ自力で動けなくなったリリスはケーブルを引っ張るとバッタンキューによってみるみる回転するプロペラに引き込まれていく。


ケーブルのもう片方の先端はバッタンキューが、反対の先端はケーブルを巻き取っているケーブルホルダーがガラガラと回転してリリスが吸い込まれていくのを許してしまう。


「このまま八つ裂きにしてやるぜぇーっ!!リリスっ!!」


操縦席で勝ちを確信するバッタンキューと窮地に立たされたリリス、果たしてこの状況を打開することはできるのか。

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