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地上の光

いよいよアズへと奪還の攻勢を仕掛けることになったわ武装聖歌隊。

他の中隊はアズを囲み、都市にいるロディーヤ兵ので注意をそらしその好きに下水道から通ってやってきたエロイスたち第一歩兵中隊が敵兵が占拠している広場と大聖堂を奪い返す。

ダンテルテ少佐とシェフィールド・S中尉が戦闘の第一歩兵中隊は暗く隧道の様に広い下水道の中をランプで照らしながら進んでいく。


アーチ状のレンガ造りの下水道ので中央には下水がゆったりと流れその両端の陸を湿った壁伝いに進んでいく。


兵士たちが持つランプによって長く大きく出来上がった人影が下水道の壁に描かれていた。


そんなゆらゆら揺れる人影とともに中隊は下水に落ちない様に慎重に進んでいくのであった。



「ううっ…臭いわ…吐きそう」

「ロイドはまだ慣れてないんだね」

「当たり前よ、私はこの顔の火傷が原因で徴兵が保留になったのよ、治まってきた頃にこの武装聖歌隊に入ったわ、妹を養うためにね」


ロイドはそう言うと胸ポケットから一枚の写真を取り出す。


白黒のその写真には立派な背広を着たスーツ姿の若い男と椅子に座り小さい女の子を膝に乗せている上品そうな女性。

そしてその隣にはロイドらしき少女が白いワンピースを着て写っていた。


「このお母さんの膝の上にいるのが妹?」

「そうよ、昔は活発だったんだけど、今はちょっと反抗期気味なの、両親の気持ちがよくわかるわ、大変だもの」

「へぇ、いいなぁ、私一人っ子だからなぁ…妹かお姉ちゃんが欲しかったな」


鼻孔にまとわりつく嫌な湿気の匂いを吸い込みながら闇の中をランプで切り開いていく。


しばらく歩いていると少佐の足が止まった。


「…?どうしました少佐?」


ドレミーが尋ねると少佐は言う。


「南京錠がかかっている、壊すから下がっていろ」


少佐たちの前に立ちはだかったのは下水道の全体を区切る鉄格子だった。


鉄格子の扉に阻まれて足が止まってしまったのだ。


少佐は懐から愛用している専用のオートマチックの拳銃『アミ』を取り出した。


異様に長い銃身を握り、扉に施錠されている南京錠目掛けて銃床をハンマーの様に振り下ろす。


壊れて外れた南京錠はゴトンと床に落下し、下水の川の中へ消えていった。


扉は開かれ鉄格子の向こうへと歩く中隊。


下水の酷い匂いもすっかり慣れここなら安心かと思える歩道静かな下水道を歩いていると次第にトンネル内に薄っすらと轟音が鳴り響いてきた。


「…この音は…」


エロイスがそうつぶやくと中尉はポケットから単語を取り出す。


「『ここより先』『地上』『戦闘状態』『総員』『心せよ』『ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ』」

「シェフィの言うとおりこの先すでに先遣した仲間たちが戦闘を行っている、私達はもう少し奥へと移動し中央付近で地上に出る」


少佐がそう説明すると中隊は駆け出しで下水道の中を移動し始めた。


頭上の地上から響き渡る銃撃の声、歩兵砲が火を噴く衝撃と着弾する衝撃で下水の水面が震え動く。


駆け抜けていく兵士たちの軍靴の音がそんな戦場の叫びを掻き消さんとばかりに共鳴していた。


走っていくと段々と地上の音は小さくなりまだ戦闘が激化していない中心部へと向かっていることが感じ取れた。



中隊は下水の流れる方向とは別方向に曲がった道を通ると少し広い空間に出た。


その空間の壁には地上へとつながる階段らしきものが存在している。


「あそこから地上へと出られる、ここの地上はまだ戦闘が始まっていないようだが敵兵がいる可能性が高い。

気合を入れていくぞ」


ダンテルテ少佐はシェフィールド・S中尉に指示を出すと中尉は一人階段を登る。


中尉は階段の出入り口の鉄扉に手をかけゆっくりと扉を開いた。


中尉はその開いた狭い隙間からあたりを見渡す。


しばらく眺めたあと階段を降りて少佐に単語の書かれた紙を見せる。


「『地上』『異常』『ナシ』」

「なるほど、敵はいないんだな」


中尉は首を縦に振って答える。


「よし、第一歩兵中隊、これからアズの街へと出る、警戒を怠らないように」


少佐と中尉に続きエロイスたちも階段を登っていく。


そして上官二人が扉を開いた。


突如として射し込んできた日光に目が眩むがすぐに視界は晴れ、兵士たちは続々と地上に出ていく。


下水道の出入り口ははアパートが石畳の道路に沿って立ち並ぶ歩道に存在した。



エロイスたち中隊は歩いて異動していくとその街の現状が浮き彫りになってきた。


中世の佇まいを感じさせる昔ながらの建物は昔日の面影を残して寂れている。


木材の骨組みと瓦礫の山、僅かな外壁を残して街の殆どが壊滅的な状態にあった、まるで終末のように閑散としていた。


「こんなに荒らされていたなんて…」


ロイドも思わずその惨状に声が漏れる。


廃退した街には人の気配が全くと言っていいほど無く空に昇る煤煙や鉄臭い血煙、薬莢の臭い、腐敗した死体から溢れ出る茶色い体液の臭いが混ざり合って不快な異臭として鼻に入り込む。


そして荒れ果てた街を歩いていると目に入ったのは戦争の凄惨さを表す地獄絵図だった。


街灯に吊るされ顔が紫色に鬱血し今にも目玉が飛び出そうな民間人、とある家の外壁には無数の弾痕とその下に横たわる子供を抱えた女性や老人が血の海の中に溺れている。

おそらく壁を背に立たされ敵兵に銃殺されたのだろう、その死体には灰色に変色していた死体には蝿や蛆がモゾモゾと集っていた。


「うっ…ぷっ…お゛ぇえっ…っ…」


ロイドたちは含めた何人かの兵士たちは道路の側溝に駆け寄って吐瀉物を吐き出してしまった。


「ロイド…っ!大丈夫…!?」


エロイスとドレミーはすぐに彼女に駆け寄って背中を擦る。


「う゛っ…だい…じょうぶ…ありがと…」


慰める三人とは別にその惨劇の跡を見た少佐は余裕そうな顔をしながらも恐れの汗をかいていた。


「なんて民族だ、さすが人権後進国の野蛮人ども大丈夫な」


中隊はそれでも無人の街を歩く。


だがほとんど半壊した住宅街で兵士たちは恐るべきものを目にすることとなる。


「…っ!?おっ…おいっ!あれなんだっ!」


一人の兵士が前方を指差す。


その方向を見ると何やら家の敷地の塀のフェンスに黒い塊のようなものがとてつもない違和感を放って存在していた。


少佐たちが近寄ってミテミルト思わず目を見開いてしまった。


そこにはなんと住宅の庭の塀上のアイアンフェンスの先端に赤子や子供の乱雑に切断された生首が挿し込まれ飾られていたのだ。


フェンスの槍の様な先端に切り取った首の断面を挿し込んでいる。

目をギョロリと見開いて今にも喋りかけてきそうな男の子の首や泣き叫んだまま切断されたのか、表情がしわくちゃの状態の赤ん坊の首が並んでいた。


「なっ…なんて酷い…」

「気をしっかり持てっ!心理戦だっ!奴らは戦意をそごうとしているだけだっ!」


後ろの兵士たちは必死に自分を納得させる。


その異様とも言える光景をすんなり受け入れることなど彼らにはできなかった。


「…すぐに移動だ、こんなのを見させられていると本当に奴らの術中に嵌まる」


少佐がすぐに移動を命じてその場を離れた中隊だったがその先で待ち構えていたのはそんなもの生易しく感じられるほどの光景だった。 



レンガの不安定な瓦礫の山を登りながら移動していくと少し広い噴水の歩いている開けた公園があった

相変わらず瓦礫や軍の遺品でぐちゃぐちゃであったがそんなものは目に入らなかった。


兵士たちの視線はその公園の中だけに釘付けだった。

興味でではなく、現状離れしすぎた為に。


「あ…あぁ…っ…!」


ドレミーの口から思わず震えるか細い声が漏れる。


彼女たちの目に飛び込んできたのは直腸、もしくは口から鉄の長い棒が挿し込まれた串刺しの民間人の死体がずらりと不規則に並んでいる猟奇的な光景だった。


ぐったりと力なく宙に浮いているアズにいたテニーニャ人の死体たちが公園に肉の林を形成していたのだ。


そんな狂気の串刺し死体の展覧会を目撃した数人の兵士は狂ったような叫びを上げて昏倒し、しなかった兵士たちは敵兵を強く避難した。


「きっ…気違い共め…っ、あの狂王の鬼畜の狗共め…っ!」

「この街には八万人の人間がいたんだ…今は人っ子一人いない、どこかに連れて行かれたか、こうして皆殺しにされたんだ…そしてクソっ…肉のクズ片が…っ!!」


口々に敵に向かって罵倒をする兵士たち。


エロイスはそんな直視すれば気が狂いそうな光景を目前にして強く拳を握った。


「必ず…必ずこの街を取り戻さなちゃ…っ!」


エロイスはアズの街角の公園でそう決意した。


エロイスたちは殺されたアズのテニーニャ人たちの恨みを街の奪還と言う形で晴らすことができるのだろうか。

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