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勲章の痕

傷心外出を終えたルミノスとハッケルはしがらみと決別し、目標をロディーヤ敗戦へと据え軍を指揮することに集中しようと決めただった。

この頃、小都市アズ近郊の街のの基地で日々を過ごしていたエロイスとドレミーにダンテルテ少佐から指示が与えられた。

第一歩兵連隊がいる基地の中でエロイスたちの歩兵中隊の兵士を呼び集めて指示を出していた。

  

ダンテルテ少佐は木箱に乗り、肩にかけた黒いとんびコートをたなびかせてて説明をしていた。

隣にはシェフィールド・S中尉が手を後ろに組んで聞いている。


「武装聖歌隊本部から指示があった通り、我々の歩兵連隊は今日、アズに向けて進軍する。

連隊の他の中隊がアズを囲みに先程出ていったように、荷物を纏めすぐに出発に向けて準備をしろ。

私は椅子に座って肥え太るわけにはいかない、貴様たちの歩兵中隊とともに行動しつつ連隊全体の指示を出す」


エロイスとドレミーは少佐がそう説明しているのを聞きつつそれを聞いている兵士たちを見渡す。


気合いに満ちている兵士や遠回しに戦闘が始まることを示唆している指示に憂う兵士。

疲れが抜けきれない表情の兵士など千差万別だった。


「あっ、ロイド」


エロイスの目の先には兵士たちの身体の間からロイドの顔が見えた。


その表情は喜怒哀楽が消え失せているような無味乾燥な顔で少佐のことを見ていた。


「世界じゃ三十秒に一人死ぬ。

確率の話じゃない、その一つをどう避けるかが重要なんだ。

道中何があるかわからない、遺書なり何なり準備をしておくんだな」


少佐はそう言って説明を終えた。

 

エロイスとドレミーは軍のバッグパックを背負いブロディヘルメットを被ってサスペンダーで留めたハイウエストベルトに水筒やら飯盒やらスコップやらを提げ弾薬ポーチを着けて着剣した半自動小銃の歩兵銃を持つ。


「準備は万端、いつでも出られるよ」

「ドレミーも。

ねぇ、ちょっとロイドに会いに行かない…?少ない少女兵だし…」

「うん、そうだね」


二人が重装備の状態で基地を歩き回る。

 

街の広場に来ると兵士をたちが資料を山のように積み上げて火を放っていた。


「燃やしてる…」

「資料が残らないようにしているんだよ、敵に読まれたら面倒だからね」


歩き回ってロイドを探していると基地内の建物の一階の呉服屋らしき店へと入ってみる。


レンガ造りの外観に人の形を模した壊れたマネキンが立っていたり横たわっていたりする。


足踏み式のミシンが並び衣服の素材の布ロールが乱雑に詰め込まれた箱が床に置かれていた。


荒れた店の中を散策するとそこで戸棚を開けて物色しているロイドが目についた。


「ロイドっ!こんなところにいたっ」


エロイスが声を上げるとロイドはびっくりしたように振り向く。


「なんだ、エロイス…?だっけ」  

「うん、こんなところで何してるの…?」

「ええ、なにか高価なもの何かなって探していたの」


ロイドは戸棚をいじくり回しながら話を続ける。


「私には妹がいる、両親は火事で死んでいるから今あの子は首都に一人…換金できそうなものとか喜んでくれそうなものを野戦郵便で送ってもらっているの」


二人は彼女のその事実に少し驚いた。


「火事って…もしかしてその顔…」


ドレミーが核心をつくような質問をするとロイドの手が止まった。


「私は戦争前は夜の遅くまで友達と遊んでいるような子だった。

ある日、実家のアパートが何者かの放火により火災に見舞われたの。

遊びから帰ってきた私は燃え盛るアパートに入り自分の家の中から妹を救出、顔はその時に負ったもの…残念なことに両親は救えなかった。

救えたかもしれない父と母のことを思い不徳な反省して今の私になったわ」


ロイドは自分の声過去の境遇を語った。


彼女の顔の火傷痕の理由聞いた二人は同情的な表情を浮かべた。


「…そんな同情的な顔しないで、私はこの傷を誇りに思っているわ。

…だめ、この店はなにもなさそうね」


ロイドは戸棚をしまい探索を止めた。


「…ロイド、もしよかったら、これ」


エロイスは左くすり指に嵌めていた金色の指輪を外した。


「エロイス…それ…」


ドレミーは静止しようとしたがエロイスにが言う。


「悲しいけどの中佐はもういない、ならまだ将来がある子供のために使わせてあげたい」


その指輪はフロント中佐とのトレンチアートの指輪を差し出した。


「…いいの?大切そうなものだけど」

「うん、こうしたほうがきっと中佐も喜んでくれると思う」

「そう…その中佐っていう方をよく知らないけれどありがとう」


ロイドはその受け取った指輪をじっと見つめる。

 

「…ほとんど初対面なのによく渡せるわね、なんというか、良く言えばお人好し、悪く言えば気が抜けてるというか」

「えへへ、ロイドならいいかなって」


ロイドはそんなエロイスの曇りのない笑顔を見て心が暖かくなっていたことに気づいた。


「…ありがとう,感謝するわ。

…その、一緒に行動してもいいかしら…?貴方となら何か、希望があるかもしれないから」

「もちろん…!よろしくっ!」


エロイスはロイドと軽くハグを済まして友達ということを示す。


「ドレミーもよろしく」

「あっ…うん!よろしく…っ!」


ドレミーもロイドと軽くハグをして三人の中が深まったのを心で理解した。



三人の歩兵中隊のまとめるダンテルテ少佐とシェフィールド・S中尉が兵士立ちに向けて言う。


「これからアズへと向かうが地上は敵が彷徨いていて戦闘の虞がある。

我々の中隊の使命はこの兵力を保持したまま都市の中心へと切り込む、安全に向かうために下水道を通ってアズまで向かう」


少佐は近くの下水道に通じる鉄柵のついた入り口を指差す。


「腐肉と死臭に慣れた貴様たちには慣れたものだろう、さぁ行くぞ鼠共、戦場へ」



少佐の提案によりを暗く臭い下水道を通ってアズへと向かう事になった第一歩兵中隊のエロイスたち。


果たして何事もなくアズへとたどり着けるのだろうか。

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