血潮で奏でる狂騒曲
武装聖歌隊の一員として務めていたエロイスとドレミーのもとにロイド・マンサファリンと言う兵士が現れた。
彼女と少し打ち解け、いい仲になった二人だった。
一方、とある地方の平原ではロディーヤ帝国陸軍とテニーニャ陸軍との会戦が始まってしまっていた。
ここはとある地方の平原。
しかしそんななにもない自然豊かな平原が血を血で洗う会戦が行われていた。
前線への移動を命じられていた帝国陸軍中隊とテニーニャ陸軍中隊が巡り合わせてしまいなんの準備もなしに戦闘が勃発、運悪く会戦を始めてしまった彼らはお互い白兵戦を展開し平原はあっという間に戦場へと早変わりしたのだった。
「いけーーっ!!臆せず進めっ!!」
一人のロディーヤの兵士が大声を上げながら指示を出すとボタン五つのフィールドグレーのの開襟の制服、バックルのベルトでズボンを止め 膝辺りまでのウールのスカートを着用した一般的なロディーヤの歩兵がシュッタールヘルムを被って突撃していく。
着剣したボルトアクションの歩兵銃を発砲しながら進む。
一方テニーニャ陸軍も巡り合わせてしまった敵兵を殲滅するよう叫ぶ。
「またとないチャンスだっ!!ここで敵兵を討ち戦力をそげっ!奴らは狂った皇帝の狗共だっ!狂犬は殺処分しろっ!!」
ボタン4つの2列制服にズボンの上から膝辺りまでのスカートをバックルで止めている立襟のホリゾンブルーを着用した兵士たちもボルトアクションの歩兵銃と軽機関銃を発射しながら進む。
ケピ帽やブロディヘルメットを被った兵士たち、
軍靴に白い脚絆を巻いた足で敵へと突っ込んでいく。
お互い一心不乱に銃撃しながら合戦のようにお互い近づいてく。
「ぎゃぁぁっーーっ!!!」
「うわぁーーっ!」
「助けてくれーーっ!!足がぁっ!足がっ!!」
広い平原に地獄の亡者を想起させる様な絶叫が響き渡る。
激しい銃声や断末魔に包まれた戦場で平原の芝を赤く染めながら走って近づいていく。
青い空に豊かな大自然、そんな楽園の様な平和的な景色の中で敵同士が殺し合うと言う一目見ると矛盾した不気味な光景が広がっていた。
そして兵士の波が激突するとそこからはさらに醜く息詰まる様な地獄絵図が浮かび上がる。
兵士たちはナイフやスコップ、着剣した歩兵銃を振り回し、目の前の敵を死体にする為に戦う。
スコップを敵兵の肩に振りかざし刃を何度も振り下ろすロディーヤの兵士。
敵にタックルをし押し倒すと顔を押さえつけ喉仏目掛けてナイフを突き立てるテニーニャの兵士。
中には大きな石を持って仲間を襲っている敵兵の頭蓋をヘルメットごと粉々に砕くテニーニャ兵の姿を見た。
さらに武器がなくなると使えるものは拳になった。
相手に跨って何度も顔面をタコ殴りにする。
相手の頬や瞼はピンポン玉が入っているのかと思うぐらいに赤紫に腫れ上がる。
「クソっ…!クソっ…!!このテニ公野郎っ!!」
我を忘れて殴り続けていると周りが見えなくなる。
そんな青年は背後から敵のテニーニャ兵に銃剣をでうなじを一突きに貫かれ生涯を終えた。
お互い使えるものはなんでも使い狂った獣の様に殺し合う。
そこにはもはや人間としての尊厳や命に対しての道徳は血の海に沈んでいってしまっていた。
やがて銃声も絶叫も段々と小さくなっていった、それはつまり動ける中隊の兵士たちが死滅していっていたことを意味するのであった。
そんな血にまみれた戦闘は一時間も続いた。
辺りはさっきまで殺し合いが起きていた事実を消し去るかのように静かになった。
地面に突き刺さる歩兵銃、様々な体勢で芝に赤水を吸わせる敵味方入り混じった死体。
爽やかに吹き付ける風は血と硝煙の匂いをまとって二人の人物の鼻に吸い込まれる。
「異なる軍服を着た同じ人間を死ぬまで殺すのだ、見ろルミノス、興奮してきただろう。
この即席の戦場でピアノを弾こう、文字通り戦場のピアニストだ」
「どこにピアノがあるんだよアホ」
そんな赤く染まった大地に立つ二人。
どうしようもない戦争狂ウォージェリーとそれを補佐官に置くルミノスの二人だった。
この会戦は白の裁判所の軍服ワンピースを着ている二人が仕掛けた謀略だったのだ。
「送った場所にロディーヤ中隊に移動させるよう命じてこの有様、見事に鉢合わせてお互いの中隊は全滅、面白いな。
平和だった景色がこうも一瞬で姿を変えてくると腹の底から笑えてくる」
二人は死体が横たわる平地を歩いて散策していく。
人が大量に息絶えている戦場にも関わらずまるで花の庭園を散歩するような老夫婦の様に歩いていると突如ウォージェリーの足首を何者かがガッチリと掴んだ。
「た…助けてくれ……足が…足首が折れて立てないんだ…」
それは地面を這いずるロディーヤ兵がウォージェリーに助けを求めて彼女の足首を掴んだのだった。
「ほう、私が味方に見えるのかね」
「…えっ…」
その質問に戸惑う兵士、ウォージェリーは構わず言葉を繋ぐ。
「同じ軍服を着た人間は仲間で違かったら敵かね?ロディーヤの白の裁判所の軍服を着た私なら助けてくれるとそういうことかね?
なるほど、その理論の証明はお前が今してくれたというわけだ、では質問しよう、たったひとつの餓鬼でもわかる簡単な質問だ。
私が、同じ仲間を助けるという理論の証明は誰がしてくれるのかね?」
ウォージェリーは掴んでいた手を蹴り払い兵士の頭に思いっきり軍靴の底を蹴りつけた。
「そんなっ…仲間だろ…」
「知らんな、そんなアガベー私には無い。
ルミノス、乾いたサーベルを潤わせてもいいんじゃないか」
「…はいはい」
ルミノスは軍服ワンピースのハイウエストベルトの両腰に帯刀していたサーベルを抜刀する。
キラキラと輝く刃をギラつかせてウォージェリーに頭を踏まれている兵士の心臓部目掛けてサーベルを突き立てた。
「あ゛がァっ…!!」
背骨ごと貫かれた兵士は刺された背中と口から勢いよく吐血してピクピクして動かなくなっていった。
「死にかけの虫を殺すのは楽しくない、そんなクソみたいな仕事に私を使うな」
「まぁまぁ、それよりもっと戦争を楽しもうじゃないか。
醜く犬死にした肉塊に向けて、私が生きていることを冒涜的にアピールするんだ、見せつけるようにな」
ウォージェリーは倒れている死体に近寄ってテニーニャ兵の腕を持つ。
「私はこれからこの死体の指を使って自慰をする、お前は辺りを見回って生きている兵士がいないか見てくれ、逃げられて私達の行動が知れ渡ったら始末に困る」
「五体満足のやつは私達が姿を表す前に逃げただろうな、つまり私は動けねぇ生存者を殺して回るってことだ、面白くないもんだ
そしてウォージェリーっ!私の前で性に関する話はするなと言っただろっ!この獣め」
「あぁすまなかった、配慮が足りなかったよ」
ウォージェリーはそう言うとこれから挿入する死体の指に向けて言う。
「では、腐る前に肉を借りるぞ」
彼女がクイッとフレームの薄い大きな銀の丸眼鏡を指で持ち上げた。
ルミノスはそれを見届けると決まりの悪そうに踵を返した。
死体やヘルメット、空薬莢や軍服の切れ端などが散乱する戦場をサーベルを両手に携えながら歩き回る。
時々うめき声をあげる兵士や助けを求める兵士、死んだふりをしていたがルミノスたちの凶行を見て逃げ出した兵士を敵味方関係なく切りつけていった。
「たっ…助けてくれぇぇーーっ!!ルミノスが狂った!!殺されるぅーーーっっ!!」
「やっかましいっ!!漢なら清く死にやがれっ!!」
必死に逃げ回る最後と一人の背中にサーベルを薙いで斬りつける。
すると兵士は血で軍服をを赤く染めながら前のめりに倒れて死に絶えた。
ルミノスはサーベルを振って血を払うと一仕事終えたウォージェリーが歩いてやってきた。
「年甲斐もなくはしゃいでしまった、これは恥ずかしい」
「別になにも尋ねてないぞ」
「はっはっはっ早まってしまった、だが心底気持ちよかったぞ、命を蹂躪している気持ちよさでンギモッヂイイっ!これだから戦争は止められない」
反射するメガネのレンズの奥から愉悦の目を覗かせて笑う。
「呆れた奴だ、さっさと帰って血を洗うぞ。
貴様となんかは文学と古典の話しか楽しめないみたいだな」
ルミノスがサーベルを鞘に納めて呆れたようにつぶやくと背中を向けてあるき出した。
歩いている途中、ウォージェリーが音を立てて何かを口の中で舐めているような水音が聞こえてきた。
「…ウォージェリー、貴様口に何か入れてる?」
「ん、見たいか、よろしいならば」
ウォージェリーが口から舌を伸ばすとその上には黒豆程度の大きさの薄ピンク色の楕円の肉の玉が一つ乗っかっていた。
その玉には似た色の細い管のようなものが絡まっていた。
「お前なら何かわかるはずだ」
「その色…大きさ、それに形…
確かにわかる、私の口がその形を覚えている、良く舐めさせられたからな。
…睾丸だなそれは」
「御名答、はやりわかるようだな、死体のふぐりを裂いて取り出してきた、なに、ただの記念だ」
ウォージェリーの奇行にルミノスはやや引き気味に言う。
「…連続殺人犯は人を殺した際、記念に身体の一部を持ち帰るらしいな、つまりウォージェリー、つまり貴様は異常だ、戦争を目的に設定するどうしようもないクズに他ならない」
「お前たちだってさほど人のこといえないんじゃないのかね」
「…とにかくっ!その睾丸を捨てるか飲み込んで胃酸で溶かせっ!射精も出来ず女に成り損なった私への当てつけかイカレ野郎っ!その意味のない行動をやめろっ!」
ルミノスは無意味で意図のわからないウォージェリーの行動に感情を爆発させ彼女の首に片手をかけた。
「…コンプレックスが酷いな、性に関することがそんなに憎いか」
「それもある、が、今は貴様の態度が気に入らない。
胃液が虫酸に成り代わって喉まで逆流してきたような不快感がこみ上げてくる」
ウォージェリーは首に手をかけているルミノスの手首を掴むと落ち着いた口調で言った。
「首を掴むな、飲み込めないじゃないか」
ウォージェリーは口の中の厚顔をゴクリと飲み込んで口の中を見せた。
そこにさっきまで存在した金玉の姿はなかった。
「悪かった、そこまで追い詰めるつもりはなかったんだが…」
「…少し気が立っただけだ、気にするな」
二人はお互いに顔を合わせると少し笑ってよりを戻した。
参謀総長の謀略の中でときに本音をぶつけ和解していく二人、そんな二人はこの日も自身に課せられた職務を果たしていたのだった。
ウォージェリー「結局、お前は男として扱われたいのか?これとも女として扱ってほしいのか?」
ルミノス「…私は参謀総長殿の妻で貴様の夫だ、夫っていうのはな、生きとし生ける女を支配下に置いておける王なんだ」
ウォージェリー「どんな家庭で育てばそんな考えが性根に染み付くのかいささか疑問だね」




