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敵を滅する聖歌隊少佐

長い長い道を進んでいき奪われた小都市アズへ向かう武装聖歌隊第一歩兵連隊。

エロイスたちは連隊の歩兵中隊の一員として進んでいっていた。

小都市アズのまでの道のりは過酷そのものだった。


無限に続く大地に対し一歩一歩進んでいかなければならない。


「中尉っ!あれっ!」


エロイスはふと指を指す。


そこには道の窪みにタイヤがハマり立ち往生していた輸送車の姿があった。


そんな哀れな輸送者を隊から離れた数人の兵士と連隊長のダンテルテが見つめていた。  


中尉はすぐに駆け寄って敬礼をする。


「おお、シェフィ、何だ」

「『お手伝い』『いたします』『!』」


ダンテルテはにゃっと笑うとエロイスたちに手招きをした。


「人手が必要だ、貴様たちも来い」

「はっ!はいっ!」


エロイスたち三人とはその他数名の兵士が輸送車の荷台の縁のそこを持ち上げて車体を浮かそうと奮闘する。


「あっ…あれっ…?少佐は手伝ってくれるためにここにいるんじゃないんですか?」

「あっはっはっ!素敵な質問だ。

私は歩き疲れたから立ち止まっていただけだ、手伝ってやろうという気は毛頭ない」

「そんな…っ!うわっ…!」


エロイスががっくしして力を抜いた瞬間輸送車ががたっと重くなる。

 

「しっかり持たないと腕が持たないぞ」

「はっ…はいっ!」

 

少佐を抜いた全員が力を合わせて車体を持ち上げてなんとか窪みからタイヤを外すことができた。


「やった!」


エロイスは思わず喜びの声が漏れる。


ダンテルテ少佐は拍手をして輸送車の運転席に座っていた兵士に言う。

 

「手伝ったってくれたんだ、この娘たちを荷台に乗せてやれ」

「えっ…それじゃあ連隊長は…」

「手伝ってないが私は少佐だぞ、兵卒だろうがわかるだろう」

「はいっ!」


青年たちは運転席に乗り込むとエンジンをかける。


エロイスたちがいた兵隊の列はすっかり遠くへ行ってしまっていた。


彼女たちは深緑のカバーで覆われた荷台に乗り込む。


全開の入口から入り込む日光が中の様子を浮かびがらせる。


そこに積まれているのは大量の榴弾の砲弾、弾薬が詰まった木の弾薬箱がどっさり積まれていた。


人を乗せるだけのスペースはなかったが荷台の入口の縁に腰をかける程度のスペースが存在した為、少佐と中尉、そしてエロイスとドレミーはその縁に尻を乗せ横一列に座ると。


エロイスが足をブラブラとさせていると広い大地で孤独となった輸送車がゆっくりと走り出した。


横一列に並んだ少女たちは退屈から自然と会話が発生した。


「どうだエロイス、ドレミー。

シェフィとのコミュニケーションとるの大変じゃないか?」


その問いにエロイスは笑顔で答える。


「大変ですけど面白いですよ、かわいい文字を会話に使ってくるんですこんなふうに…」


エロイスが中尉の方を見ると中尉はポケットから一枚の単語を取り出した。

 

「『(づ。◕‿‿◕。)づ』」

「あーーっはっはっはっ!それは知っているぞ、素敵な個性だ。

シェフィらしくて私も大好きだ」


ダンテルテのその言葉にエロイスとドレミーもにっこり笑う。


(少佐…はじめは少し怖そうな人だと思っていたけど…意外と優しい人だ…)


エロイスは吸血鬼の様な様相のダンテルテ少佐に少し気が引ける思いを抱いていたが中尉との関係を見るとそんな考えはどこかに吹き飛んでいった。


エロイスと同じことを思ったのかドレミーは少佐に対してこんなことを言った。

 

「ダンテルテ少佐ってドレミー、ちょっと怖い人なのかなって思ってました、けど話してみると意外とそんなことなくて安心しました、優しいというか…」

 

ドレミーがそう言うと少佐は笑いながらつぶやく。

 

「優しい…ほう、優しいか…はっはっはっ!これはしまった困ってしまったな、やはり言うか言うだろうな」


少佐は額に手を当てながら高笑いした。

 

二人は何かあるのかと顔を見合わせて不思議そうな顔をする。


「いいや結構だ、丁度いい、私たちの行き先は戦場アズ…っ!そこで教育してやろう。

私は仮にも少佐だ、武装聖歌隊の少佐だ、優しいとな…ははっ、それが向こうでも言えるかな」

 

意味深長な言葉を聞かされた二人はより一層疑念が脳内に渦巻いた。


その後は特に何もなく輸送車の荷台で揺られながら小都市アズの近郊の街までやってきた。


エロイスたちは荷台から降りてあたりを見渡す。


立ち並ぶ人気のないアパートはところどころ崩壊しております石畳の道路には瓦礫が散乱している。


閑静な街の交差点は土嚢で壁が気づかれ廃棄された路面電車や鉄条網で覆われていた。


そしてずらりと並ぶ歩兵砲やその砲弾。


設置された軍用テントから兵士たちが忙しそうに出入りしていた。


「ここが第一歩兵連隊の基地だ、ここはアズの近郊、その少し離れたところに本命の都市がある」


少佐がそう言うと被っていた制帽を深く頭にねじ込み肩がけの黒いとんびコートを羽織って歩く。


中尉とエロイスとドレミーの三人はそれに追従していく。


四人は近くの荒れたアパートの玄関に入る。


ガラス片が散乱し書類や衣類がそのままホコリにまみれて床に落ちている。


中のきしむ階段を昇り五階建てのアパートの屋上へと出た。


灰色のコンクリートの屋上にはフェンスなどはなく本当に建物の外といった雰囲気である。


「見えるだろう、あれが戦地だ」  


ダンテルテが指を指す。

甲に瞳が黒く描かれている白手袋を嵌めた手で指した先には確かに街が見えた。


だがところどころから黒煙が上がり、景観もボロボロに見える。

そして中央に一段と目立つロマネスク様式とゴシック様式が共生したような大聖堂が見えた。


「あそこにロディーヤ兵が…」


エロイスがつぶやくと少佐は尋ねる。


「今のうちに見せてやる、醜い狂王の狗を見て戦意を蘇らせる」


少佐はエロイスたちを連れ屋上を後にした。


そしてアパートの階を下り一階に降りて玄関から抜け基地の端の方へと連れてきた。


「こっこれは…」


エロイスたちがそこには訪れるとそこには二人のロディーヤ帝国陸軍らしき兵士が目隠しをされ手を後ろに縛られて正座させられている人物がいた。


「偵察兵だ、昨日捕まえたと報告が入った。

さぁ暇だし遊ぶとしよう」


少佐ガ嬉しそうに口角を釣り上げると中尉はその場から少し離れて弾薬箱の上に座った。


「遊ぶ…?」


ドレミーがそう尋ねる前にダンテルテは行動に移していた。


肩がけの黒いとんびコートの内側に手を入れてそこから拳銃を取り出した。

だがそれはただの拳銃ではなかった。


少佐が取り出したのは黒く長い銃身の拳銃だった。


「全長三五センチ、重量七キロ、装填数八発。

専用のダムダム弾を使用した私専用の拳銃だ、名前はまだない『アミ』」


少佐はそう嬉々として語った。


銃身のスライド部に『Rest in ✠ peace.』と筆記体で刻まれている。


その凶悪な銃を見て二人は悟った。

ダンテルテ少佐の本性を。

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