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誉れ高き決闘者

シュトロープを賭けて複葉機にて決闘を決行したリリスとツァル。

大空を飛び回りお互いカメラに姿を捉えられないように空中戦に気づいた生徒たちも段々と営庭へと出てきた。

リリスとツァルが空中で格闘する音に気づき始めた兵士たちが兵学寮の廊下の窓を開けて騒ぎ始めていた。


けたたましいエンジン音、上昇や下降時の空気を裂く乾いた音。


青々とした空を激しく飛び交う様子に吸い寄せられるようにつなぎの飛行服を着た兵士たちがざわめく。


「見ろっ!ホワイトデイだっ!」

「こんな時間に曲芸飛行か?」


廊下で見ているだけにとどまらず兵士たちが興奮そのままに学寮を飛び出し営庭へと駆けつける。


「おいおい何が起こっているんだ?」


尋ねてきた一人の青年に対しでエマールはウインクしながら答える。


「決闘だよ、この子を賭けたね」

「この子って…確かシュトロープとか言うやつか?

…ってことは恋敵同士の戦いっ!?」


青年がそう一人で納得すると周りの兵士たちもおおっとその熱いシチュエーションに興奮しているようだった。



一方、空を飛んでいたリリストツァルに地上の様子を確認している暇などなかった。


「背後につかれて離れないっ!」


回避運動をとるツァルの後ろにしっかりと食いつくリリス。


照星の代わりに取り付けられたカメラにツァルの姿を写したと思わしき感覚でシャッターを切る。

 

「撮れたかな…いやっ!現像してみるまでわからないっ!もう一枚っ!」

「させるかぁっ!!」


ツァルの機体はゆっくりと降下を始めた地面へ向って吸い込まれていく。


リリスも負けじと追い詰める。


「スロットルを緩めて…っ!!」


自分に言い聞かせながら降下する。

 

身体や機体に吹き付ける冷たい風の音がエンジン音に混じって耳に入る。


ニ枚の主翼の桁やワイヤーの向こうにいる機体の背中にびっちりついて話さない。


「ここだっ!」


ツァルの叫びとともにリリスの視界の上へと敵の機体が姿を消した。


「わっ!危ないっ!!」


リリスはいつの間にか地面すれすれのところまで降下していた。


敵を追うのに気を取られすぎてしまっていたのだ。

 

急いで押し込んでいた操縦桿をグググッと股に引き機首を上げる。


少し上空にいるツァルを撮るべく操縦桿を引いたままスロットルを押し出力を上げて敵の機体へと近づいてくる。


「来たな…」


ツァルは段々と昇ってくるリリスの方を見てほくそ笑むと突如操縦桿を引き機首を上げる。


「なっ!?」


ツァルの突然の行動にリリスは目を見開く。  


ツァルはその場で上にぐるっと回転し機体を上下逆さま、背面の状態で飛びリリスの背後へと降下して消えていった。

  

「しまったっ!あの交差した瞬間撮られたかもしれないっ!」

 

リリスは眼下に優雅に飛行するツァルを見て呟いた。

 

ここで今までシャッターを切った枚数を思い返す。


「あと一枚…大事に使わないと…」


リリスは左にラダーペダルを踏み込んで機体を傾け操縦桿を押し込む。


ゆっくりと降下しながら左に旋回して再度ツァルと会敵した。


「シュトロープの心を殺すのは俺だぁーーっ!!ヒャッハーーっ!!」

「この…っ!」


リリスとツァルの機体がぐんぐんとお互い向き合いながら近づいてくる。


「まずいぞっ!正面衝突するぞっー!!」


空戦を見ていた兵士が指を指して接近していく両機に注目を集める。


「リリスちゃんっ!」

「リリス…っ!」


エマールとシュトロープの二人の食い入り具合を表すように歯を食いしばり拳を握る。

  

「ハイッ!!!ちぃーーーーずぅぅーーーっ!!!!!」


正面衝突するかと誰もが思った瞬間、リリスは操縦桿を押し高度を下げた。


そして機体の衝突事故は避けられたが、下にずれたリリスの機体の尾翼がツァルの主翼に衝突し吹っ飛んだ。


「あっ!」


リリスは思わず声を上げた。


ツァルはその様子を見て空へと昇りながら言い放った。


「尾翼の方向舵が吹っ飛んだっ!!これでお前の機体の方向転換は不可能になったっ!!

できることは速度と高度を変えることっ!!そして虚空で写真を撮ることぐらいだぜっ!!!」


ツァルはぐるりと機体の向きを変えリリスの機体の背後へと向かってきた。


「お前との決闘もこれで終いだっ!!」


リリスはそれを聞き決意を固めた。


「…ふぅ〜…やるしかない…っ!」


リリスはスロットルの出力を徐々に上げながら操縦桿をゆっくりと引く。


リリスの機体は空へ向かって昇り、そして最大限に操縦桿を引くとリリスはツァルの頭上に現れた。


「まっ…!まさかっ!ありえねぇっ!そんなこと…っ!!」 


リリスはなんと機首をゆっくり上げていきそして上げたまま180°度向き変え背面の状態でツァルの頭上を去っていった。


背面のまま飛行するリリス。

リリスはその無茶苦茶な状態なままなんとか操縦桿を握って放さなかった。


だがリリスの顔が身体が限界であることを示していた。


顔は歪み、脳に遠心力がいったせいでリリスの意識が急速に薄れていく。


(まっ…まずいっ…意識がっ…)


リリスの視界が段々と黒くなっていく。


その無茶な背面飛行を見ていた兵士たちも不安の声が上がる。


「…まずいぞ、尾翼の方向舵がないということは方向が変えられない、つまりあの背面飛行の状態を維持せざるを得なくなる」


シュトロープがリリスのその機体を見て解説してくれた。


「じゃあ急いで高度を下げて元の状態に戻さないとっ!」

「リリス…っ!何してるんだ…っ!」


騒がしくなる地上の営庭。


兵士たちが見つめていた先の背面飛行の機体についに変化が訪れた。


「あっ!見ろっ!あの機体っ!エンジンが停止したぞっ!!」


一人の青年の声につられたエマールとシュトロープの視線がリリスに食い入る。


「は…っ!」


シュトロープが思わず声を上げる。


リリスの機体のプロペラは緩やかに回転を止め、ふらふらと機体を揺らしながら地面へと降下していった。


「気絶したんだっ!リリスがっ!」

「リリスちゃーーんっ!!起きてぇーーっ!!」


エマールの必死の呼びかけにも応じずリリスの複葉機は機首軸にしてゆっくりと回転しながらぐんぐんと落下していく。


「その決意は素晴らしかった、だがっ!決闘とはお互いの生死を天秤にかけて戦うものっ!お前はそれに負けたんだっ!熱き決闘に負けたんだっーっ!

リリスっ!!サニーぃランドぉぉーーっ!!そのまま地獄へ墜ちて行けーーっ!!」


その様子を振り向きながら見て叫んだツァル。


リリスは果たしてこのまま墜落してしまうのか。


勝負の行方は最悪の事態で幕を下ろすこととなってしまうのだろうか。

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