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兵学寮裏での決闘

戦場で眠りについた歩兵中隊のエロイスたち。

冷たい夜が明けると目覚めるのは彼女たちだけではなかった。

合宿終わりに差し掛かっていたリリスたちは朝早くから起床し一日の始まりを感じていた。

兵学寮の廊下の窓を開けて大空を見上げる少女。


薄茶色のつなぎを着たリリスが空を見上げていた。


そこにエマールがやってくる。


「リリスちゃ〜ん、何見てるの?」

「うん、見て仲間が教官と一緒に飛んでるのを見てる」

「あ〜、エマも一緒に飛んだけど気持ち悪かったよぉ、吐いた」

「あははっ、大丈夫だった?」

「まさか、しばらく悪寒が止まらななかったよ」  


ホワイトデイという複葉機が飛行する空を見上げながらそんな会話をしていた。


そんな廊下でたむろっていると廊下の向こうから二人のつなぎを着た青年兵がやってきた。


「あっ…あいつ…」


エマールが聞こえないような小さな声で言う。


青年は二人のことなど目の敵にせずそのまま大声で会話しながら後ろを通って去っていった。


「…うるないなぁ、あいつ」


エマールがそう言うとリリスは確認をする。


「あの人って確か…シュトちゃんに逆子って言ってた人だよね」

「そうだよ、名前はツァル、あいつの家系は代々軍人を排出してる一家なの、それで合宿前から航空機に目をつけてあのドラ息子に時々飛ばせていたんだって、だからなあいつだけ操縦の訓練とか参加しないの。

ホント癪に障る、この世のありとあらゆす病気を引き継いで苦しみながら死んでほしい」


エマールが恨みのこもったような表情で歯ぎしりをする。


「そこまで…?」

「聞いたでしょ、シュトちゃんへの暴言。

シュトロープはもともとあんな正確だから特にあの野郎に目をつけられている、言われたくない逆子だとか母子家庭なんかをいじくり回して来てる…まぁエマが言っちゃったってこともあるけど…」


悔しそうに言うエマールの横でリリスは去っていく青年ツァルの背中を見つめていた。



シュトロープは兵学寮の裏で草に停まっていたモンシロチョウを座って見ていた。


一人で過ごしていたシュトロープに二つの人影が差した。


「おい、シュトロープっ」


その二人は先程のツァルともうひとりの腰巾着の青年だった。


「…なにか」

「『なにか』じゃねぇよ、何澄ました顔で答えてんだよ、お前ホントムカつくな」

「…そんなこと言われてもな。

ムカつくならわざわざ会いに来なくていいんじゃないのか、会いに来るということは好きなんだろ」

「うるせぇーーっ!この障害野郎ーっ!」


次の瞬間、ツァルのロングブーツの靴底がシュトロープの頬に飛んできた。


「グッ…っ!」


シュトロープはその衝撃で吹っ飛んだ。


その出来事に驚いたのか草に停まっていたモンシロチョウは軽い羽をはためかせてふわふわと飛んでいった。


「…やっ…やめろ…」

「うるせぇーっ!素直に『悪態ついてごめんなさい』と言えーーっ!!」  


ツァルは倒れたシュトロープの腹に向かって足蹴りを食らわせる。


柔らかく弱い腹部に青年の力強い足が飛び込んでくる。

その衝撃は内臓を震わせ、シュトロープに吐き気を催させた。


「…っ…やっ…やめろ…っ苦しい…っ」

「謝罪だ謝罪っ!もしかしてできないかっ!お前の細胞全部に口を生やして『ごめんなさいツァル様』と謝罪しろーーーっ!!」


何度も執拗に腹に蹴りを食らわせるツァルだったが隣の腰巾着の青年が一旦静止させる。


「ツァル…っ!人が来る…!」

「誰だっ!」

「あっ…!シュトロープの腰巾着っ!」


廊下の向こうから歩いてきたのはリリスとエマールだった。


廊下の角に差し掛かった瞬間、リリスの足取りが止まる。


「…?リリスちゃん、どうしたの?」


壁の向こうではツァルとその腰巾着、そしてお腹を抱えているシュトロープが窓の下にいた。


ツァルは隠れながらもシュトロープの口腔に軍靴の先端を突っ込み声を出せなくしている。


(リリス…気づいてくれ…)


廊下で立ち止まったリリスにエマールは聞く。


「ねぇどうしたの?なにか窓の向こうに…」

「見てエマちゃんっ!蝶がいるよっ」

「えっ?蝶?」


リリスとエマールはダッシュで廊下のドアから外へと飛び出す。


「ただの蝶になんでそんなに興奮してるのっ?」

「興奮じゃないよっ!興奮だよっ」

「ゑっ?なんて?」


二人が外へと飛び出し学寮棟の裏手に回っていた。


「えっ…?」


リリスの目に飛び込んできたのは満身創痍の状態で横たわるシュトロープと二人の青年が窓から見えないように隠れているところだった。


しかもツァルの足の軍靴の爪先はシュトロープの口に押し込まれている。


「やばいっ!逃げろっ」


二人はその場から逃げようとしたがシュトロープは突っ込まれていたツァルの爪先を歯で噛みつき逃げれないようにした。


腰巾着はその場から逃げ出せたが、ツァルは立ち上がろうとした瞬間にシュトロープに噛まれたせいでその場に転んでしまった。


「ちょっとっ!シュトちゃんに何してるの…っ!?」


リリスが転んだツァルに近づく。


「このクソアマっ!!」


ツァルは噛まれた軍靴を無理矢理押し込む喉を直接攻撃した。

さすがのシュトロープもたまらず歯を離す。


「ゲッホゲホっ…!ゴホっ…!」

「シュトちゃんっ!大丈夫…?」


横たわっていたシュトロープをエマールが介抱する。


リリスは立ち上がったツァルに正面切って顔を合わせ鋭い視線をぶつける。


ツァルはつなぎを二三回手で払うと口を開いた。


「…なんだよ、何見てんだよ」 

「…よく人にはそんなことができるよね」


ツァルはその言葉を聞いて呆れたように笑った。


「はぁ…?よく言えるなそんなことが。

お前のほうがよっぽどひどいぜ、なにせ歩兵上がりなんだろう?

赤子殺しがよく言うぜ」

「っ!?私はそんなこと…っ!」

「おっと、これは俺だけの意見じゃない、みんなの意見だぜ」


リリスは沸々と湧き上がる怒りを抑えながら会話を続ける。


「みんなって誰…?」

「そりゃ全員だよ」

「そう、じゃあエマールもシュトロープもその中に入るよね」

「あっ?」


リリスは振り向いてエマールとシュトロープを見つめて微笑む。


「リリスは赤子殺しなんかじゃないよっ!仲良くないからそんなこと言えるだけでしょ!エマはリリスのことをそんなふうに思ったことないよっ!」


エマールに次いでシュトロープも口を開く。


「…同感だ、今の二人を見るならお前のほうがイカれた赤子殺しに見えるが」


シュトロープが口を開いた瞬間、ツアの激高が飛んできた。


「うるせぇーっ!逆子がしゃべんなっ!お前の母はお前みたいな産まれ損ないをひり出したから死んだんだっ!」


ツァルがシュトロープに指を指して怒りに任せて暴言を言った瞬間、リリスの手がツァルの手首を掴んだ。


「何するんだ!」

「ツァルだよね、私久々にこんなに怒らなきゃいけない人に出会った。

私はあなたを許さない」


リリスがツァルの手首を掴んだまま言い寄る。


「リリス…言い返さなくていい…余計調子に乗るからな…かえって面倒だ…私の気持ちを思っているのなら無視するんだ…」


シュトロープのその言葉にリリスは振り向いて言う。


「シュトちゃんはそれでいいの?あいつらシュトちゃんの未来を潰そうとしてるんだよ。

私、許せない」


そしてツァルの顔を険しい顔で見つめたまま少しだけ笑って言った。


「ごめん、シュトちゃん、私ちょっとだけわがままになる」


シュトロープとエマールはそのリリスの言葉を聞いて安心したように笑う。


「なっなんだよ、殴るっていうのかっ?そんなことしたら軍規違反で処罰させるぞっ!航空隊なんかなれないぞっ!」


ツァルのその言い分にリリスはニッコリ笑う。


「そんなことしない、軍人なら勝ち負けで勝敗を決める。

あなたが勝ったら私はもうツァルとシュトロープの関係に首を突っ込まない、だけど私が勝ったらもうシュトちゃんに関わらないで、いい?」

「……いいだろ、ただし勝負の内容によっては断るからな」


リリスは微笑んだままうなずいた。


兵学寮の裏でリリスと青年ツァルのシュトロープを賭けた勝負が始まった。


果たしてその勝負の内容とは一体。

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