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ブラッディウエディング

夜明け前、ハッペルの東の通りを見張っていたエロイスとマリッサ。

だがマリッサは作戦途中のルナッカー少尉見つかってしまい殺されてしまう。

ロディーヤがハッペルへと近づいているということをエロイスに伝令し、エロイスは国防軍へと伝えるべくオーカ准尉がいる広場へと駆け込む。

一方、ロディーヤの作戦は順調だった。

十一月七日にハッペルを攻略するため、朝日とともに行動を開始しようとしていた。

十一月七日、ついに朝日が登り始めた。

東の通りの向こうから、エロイスが駆け込んでくる。


「何だ貴様っ!見張りはどうした!」


オーカ准尉が声を張り上げる。

エロイスは息を切らして答える。


「ロ…ロディーヤです…ロディーヤが攻めてきます」

「そんなことは解っている、今日のどっかでだろう?」

「違います!もうすぐです!マリッサは…!マリッサはロディーヤ兵に殺されました!すぐそこまで来ています!」

「何!?」


オーカ准尉が近くにいた兵士に呼びかける。


「今すぐ各通りにいる兵士に伝達しろ!ロディーヤの攻撃は今日の早朝だ!」



その頃ロディーヤは各通りの入り口に隠しておいた偽装した輸送車に乗り込む。


北と南は帝国陸軍、東と西はロディーヤ女子挺身隊、

リリスたちは東の担当だった。


「リリスたちは荷台に乗り込んめ、ウェザロ、お前は運転だ、私は助手席で短機関銃をぶっ放す。

リリスたちは落ちないようにしっかり捕まっていろ」


リリスたちが歩兵銃を抱えて荷台に乗り込む。しっかりをヘルメットを被り戦闘の準備は万全だ。


ウェザロと少尉も席に座る。

車内においてある電話で全員の準備が整ったことを確認する。


「よし、全員位置に着けたみたいだな。

ウェザロ安全運転で頼む」

「馬鹿言っちゃいけないよ少尉、ここはこれから戦場になるんですよ」

「…今俺に馬鹿って言ったか?」

「…」


ウェザロが思いっきりアクセルを踏む。


「うわっ!?」


荷台に乗った隊員たちが思いっきり揺さぶられる。


「少尉!右の赤い三角屋根の窓に!」

「そこだなっ!」


ダダダダダダダダダダダダッッ!!!


少尉が助手席からフロントガラス越しに家屋に向かって発砲する。


そこに配置されていたリグニンとレイパスはその銃撃のせいで狙いを定めることができずに、猛スピードでは走り去るエンジン音をただ聞いているしかなかった。


「何なのあの車…」

「リグニン感心している場合じゃないよ!あのままだと真ん中まで行かれちゃう!」

「…っ!それはまずいっ!」


リグニンが急いで窓から軽機関銃を発砲するが通りすぎる輸送車には届かなかった。


「…急いで広場に向かおう!」



「オラオラどけーーー!!死ぬぞーーー!!!」

「うわァァァァァっ!!!」


輸送車が積まれた土嚢をふっとばして爆走する。


「こちら東通りのルナッカーだ、今の所順調だ」

「少尉!北の陸軍兵と連絡が取れません!」

電話越しから西の少女兵の声がそう告げた。



北の陸軍兵を乗せた輸送車は燃料が足らずそのまま動けなくなっていた。

そこで近くにいたテニーニャ国防軍と帝国陸軍との間で銃撃戦が行われていた。


「…っ!まずい…たかが国防軍の少女だと侮っていたが…ここまで強いとは…!」


帝国陸軍兵の一人が声をあげる。

建物の二階で待っていた少女兵の銃撃に、隠れ場のない通りにいた帝国陸軍は為す術がなかった。


「北のロディーヤ陸軍、全滅…か、攻めて中心部まで行きたかったな…」


路地に隠れていた最後の陸軍兵のもとに手榴弾が飛んできた。


「…っ!!!」


ドォォォォンッッ!!


鋭い閃光と共に爆発音が聞こえた。

それは建物の窓ガラスを割る音や崩れる音と混ざりより一層大きな音となってハッペルを包む。

それは爆走していたウェザロたちにも聞こえた。


「…っ!?少尉っ!今のは…!」

「…北の方からだな」

「少尉!前方!」


そこには二基の重機関銃が設置されていた。

土嚢で壁を作って、通りを塞ぎ、その壁に作られた穴から重機関銃の銃口が覗かせている。


ズダダダダダダダダダダダタッッ!!!


二つの重機関銃が輸送車を襲う。

ウェザロと少尉にその弾丸によって割れたフロントガラスが襲う。


「くそっ!前がっ!!」


するとおもむろにベルヘンが揺れる荷台から歩兵銃を持つ。


「ベルちゃん…?」

 

ベルヘンが片膝立ちで荷台から銃口を敵銃座に向ける。


「…死にたくないなら伏せて」


タァンっ!


ベルヘンが構えた歩兵銃を発砲する。

放たれた銃弾は重機関銃の弾丸の雨を掻い潜り、銃座の敵兵の頭に命中する。


それを見た敵兵の掃射が一瞬止まる。


そのすきにウェザロは全速力で土嚢の壁と重機関銃ごと破壊しながら突っ切っていった。

輸送車はこれでもかというほどグシャグシャに変形していた。


ベルヘンがボルトを操作して空薬莢を排出する。

薬莢は煙を上げて、排莢機構から飛び出た。


「…すごいね…ベルちゃん…」

「訓練場で言われたの聞いてたでしょ?

私には人を守る才能があるって…」


ベルヘンがどこか悲しげな表情で言う。


しかしそこで輸送車のスピードが落ち始める。


「…っ!ついに燃料がっ!」

「ここで止まるのはまずいっ!蜂の巣だぞ!せめて広場まで運べっ!」

「頼むっ!行ってくれ!!」


「…来たぞ、あれを出せ」


家屋の二階に潜んでいた国防軍兵がやってくる輸送車を迎える。


「今だっ!!」


輸送車が真下を通ったタイミングで二階からピンを抜いた手榴弾を投げ込む。

手榴弾はゴロッと音を立てて荷台へと転がり込んできた。


「リリスっ!それ捨ててっ!!」

「わっ!わっ!わっ!」


リリスが慌てて手榴弾を持ち外へ放り出そうと投げた瞬間、空中で爆発した。

爆風が荷台のリリスたちを襲う。


「…!?何だ何だ!?」


助手席にいた少尉にも伝わるような、心臓に響くような爆風だった。


「もうすぐ町の広場までいける!すぐそこ!」


ウェザロが荷台にいるリリスたちへ呼びかける。

だが広場出前で輸送車は減速し、ついに動かなくなった。


「…広場から銃声が聞こえる…もう銃撃戦が始まっているらしい」


すぐに輸送車から降りた挺身隊員が広場へと駆け込む。

そこでは広場の教会内へと籠もった国防軍と無事にたどり着いた挺身隊と帝国陸軍が激しい銃撃戦を繰り広げていた。


「少尉!あの教会の中に残兵が…っ!!」


陸軍兵が駆け寄った瞬間、少尉と陸軍兵の直ぐ側に上から手榴弾が投げ落とされた。


「危ないっ!!」


陸軍兵が少尉をかばった瞬間、手榴弾が爆発した。

爆風にふっ飛ばされた少尉のもとには下半身が吹っ飛んだ陸軍兵の死体があった。


中途半端に千切れた脊髄とともにぎっちぎちの腸が肉袋からブワッと溢れ出てくる。


「…くっ…お前たち!上だ!上に気をつけろっ!弾丸と手榴弾が降ってくるぞ!物陰に隠れるんだ!!」

「少尉!!外からも攻めてきますっ!」


通りから先程機関銃や手榴弾を輸送車に浴びせてきた国防軍がやってくる。


「まずい!逃げ場がないぞ!」


外側から戻ってくる国防軍、そして教会内からの銃撃と手榴弾、まさに絶体絶命と言える状況だった。


少尉は弾丸の中にでも冷静でいた。


「リリス、ウェザロ、メリー、ベルヘン…俺についてこい…教会へ突撃する。

残りの挺身隊と陸軍兵たちは頑張って耐えてくれ…すぐに終わらせる」

「任せろっス、少尉帰還と戦後報告楽しみにしてるっス!」

「あぁ…行くぞ四人とも!こいつらに代償を払わせる!!」


五人が教会の正面入口へと向かう。

その間にも銃撃が襲ってくる。


「いいか、突入したら左右に別れろ、大丈夫だ無駄に動くなよ、落ち着いて判断して動くんだ」


「よし突入っっ!!!」


少尉がそう呼びかけると正面の扉を蹴破る。


すぐに入り口へ銃撃が加わる。

四人はきれいに左右の長椅子へと潜み、少尉は蹴破った扉を盾にしてその銃撃を受け、柱へと身を隠す。


右にリリスとメリー、左にウェザロとベルヘン、中心の柱に少尉が隠れる。


「思ったより激しいな…当たり前か…」


国防軍も必死だ。

教会を占拠されまいとおびただしいほどの弾丸を浴びせてくる。


するとリリスとメリーの元へ手榴弾が飛んできた。

メリーがとっさの判断でその手榴弾を蹴っ飛ばす。


手榴弾は長椅子の下を通り、そのまま国防軍がいる教会の奥で爆発した。


「う゛わぁァァァァァァっっ!!!」


「…危ないですわね」

「今だっ!!目を瞑れっっ!!」


少尉が閃光弾を投げる。

閃光弾は国防軍たちの中で眩しく発光する。


国防軍の目が眩んでいるうちに五人が突撃する。


反撃の間を与えることなく歩兵銃と短機関銃で一掃する。



「よし、あとはこの協会の塔にいるやつで最後だ、気を引き締めていくぞ」


教会には鐘を鳴らす塔が存在し、そこにいる国防軍が掃射や手榴弾を投げ込んでいた。


少尉が塔へと登るはしごへ手をかける。

すると教壇の中に隠れていた影がメリーに飛びかかった。


それはオーカ准尉だった。

准尉はメリーに飛びかかると親指をメリーの右目へ挿入した。


「あ゛ァァァァァっっ!!」


途端にメリーの野太い声が広い教会ないと響き渡る。

あまりに突然の出来事だったので四人は呆気にとられていた。


「メリーちゃんッッッ!」


「貴様のせいで…っ!貴様のせいでみんなが…!!」


准尉の親指に力が加わっていく。

か細い白い親指がズブズブと眼窩へと入っていく。


「ぁ゛っ…ぁぁ…やめて…くだ…」


「メリーっっっ!!!」


すかさず少尉が拳銃を向けた瞬間。


ブチィッッ


騒音の中、その音は確実に聞こえた。

ビニール袋を爪で破いたような音。


メリーの右目から血と涙が混ざった半透明な液が流れ出ている。

メリーは気を失ったのか、もう抵抗していないようだった。


「…っっ!!クソぉぉぉぉっっ!!!」


ルナッカーがオーカへと弾丸を二発撃ち込む。

弾丸は准尉の両腿へと突き刺さった。


「…後で殺してやる」


少尉がそう告げるとはしごを登り、鐘の塔の最上部に向けて手榴弾を投げ込む。


ドンッ!!


爆発音とともに最上部にいた国防軍が外へと吹っ飛ぶ。

と同時に塔に設置されていた巨大な鐘爆発の衝撃で落下してきた。


「少尉早くっ!」


ベルヘンが呼びかけるとすかさずはしごから飛び降りて着地と同時に横へと転がる。


そして鐘は塔内部を破壊しながら落下し、そのままルナッカーの横へ勢いよく着地した。


「教会制覇…と同時に捕虜確保」


ルナッカー少尉の目はメリーの体のそばにいるオーカ准尉へと向けられた。


少尉が教会の入り口から出てきて叫ぶ。


「ハッペル、陥落っっ!!!」


少尉が拳銃を空に発砲する。


その音と同時に、広場での銃撃戦が止んだ。


広場には敵味方の死体が入り混じり地獄の様相を醸していた。


少尉の宣言とともに、エロイスやリグニン、そしてレイパスも立ち尽くす。


「ありゃーまた負けちゃったねー今のうちに逃げたほうがいいと思うー?」

「そうだね、ウチも捕虜にはなりたくないかな、エロイス!撤退だ逃げるぞ」

「…っうん、でも准尉が…」

「教会が制覇されたってことは殺されたんじゃない?死人に気を遣っている余裕なんてウチらにはないしさ」


三人と国防軍は気づかれないうちにその場をあとにした。

さらにテニーニャ国内へと逃げ込んでしまった。

今回もテニーニャの敗北だった。


ハッペル市街からはすっかり国防軍の姿は見えなくなっていた。

あたり一面は血で溢れ、住宅には無数の弾痕が戦いの激しさを物語っていた。

様々な形の死体が散乱している。

ロディーヤはついてきてくれた十人ほどの陸軍兵士全滅、挺身隊も猛撃の末、五十人から半分程度まで減っていた。


「ウェザロ、メリーの治療を頼んだ、きっと奴らが捨てていった駐屯地に器具があるはずだ。

リリスとベルヘンもそこに一緒に行ってくれ」


ウェザロとリリスが気を失ったメリーを抱え、ベルヘンと一緒に駐屯地へと消えていった。


ルナッカーは軍靴を響かせながら両足を撃たれたオーカへゆっくり近づいてくる。


「お前は捕虜だ、名前を言え」

「誰が言うかクソっ、貴様なんかちっとも怖くないぞ」

「その足痛いだろ、治療してやろうか」

「断る、国防軍に治してもらうさ」

「もういないぞ、そいつら。

逃げ足の早い奴らだ、中には鈍いガチョウがいたみたいだがな」


ルナッカーがオーカへ見下すような視線を送る。

まるで養豚場の豚を見るかのような目だ。


「だから言ってんだろ、お前を治療できるのは俺だけだと」


ルナッカーが天井へ向けて拳銃を撃つ。

熱せられた銃口をオーカの足の銃創へと押し付ける。


「ぐぁぁぁぁぁっっ…」

「熱療法だ、遺体の痛いの飛んで逝け」


オーカは尚も強い口調でルナッカーを罵倒する。


「やってること私と一瞬じゃねーか…貴様に道徳を説く権利なんてないからな…っ」


ルナッカーがオーカの首を床に押し付ける。


「俺の言っていることは間違っているだろう、だがお前はもっと間違っている」


そう言うとオーカの首を離し、オーカを抱え込んで運ぶ。


オーカが一瞬混乱してルナッカーの顔色をうかがうが、ルナッカーの表情は一切変わっていない。


そしてお姫様抱っこのまま教会入り口から出る。


まるで新郎のルナッカーと新婦のオーカの結婚式のようだ。

火の粉の花吹雪、血のレッドカーペット、硝煙が香る地獄の結婚式だ。


「捕虜を殺すのはロディーヤの沽券に関わる、その代わりお前の体で無限に遊んでやろう」

「私の体で遊ぶぐらいならいっそ殺せっ…」

「断る、死ぬまで殺してやる、お前は一生死ぬ人間だ」


ルナッカーがオーカを抱え込んだまま駐屯地へ向かう。


「お前まだ名前言ってなかったな、なんていうんだ?」

「…オーカ、オーカ・ハウドポート。准尉だ」

「俺はエル・ルナッカー少尉、誇り高いロディーヤ女子挺身隊の少尉だ」

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