歩兵中隊、着任
リリスは教官との飛行により徐々に飛行兵としての素質が芽生え始めていた。
そこに現れたエリート航空隊のイーカルス大尉、果たして無事認められるのだろうか。
合宿のリリスたちとは別にエロイスとドレミーは
武装聖歌隊の総指揮官のフゥーミンとともに連隊のいる場所まで徒歩で向かっていた。
「もうすぐだね、この先に歩兵連隊がいるらしい」
フゥーミンとともに歩いてきたエロイスとドレミーは道端に停車してある輸送車両を見てすぐそばに仲間がいるということを知った。
「はぁ…なんかドキドキするなぁ…」
「大丈夫?ドレミー」
「うん…みんなとまた戦えると思うと…少しドキドキするし…怖くなる…」
しばらく歩いているとエロイスたちの目の前にレンガ造りの集落が見えてきた。
だがそんな見通しのいいところに建っていた村はすっかり戦火により荒廃していた。
崩れた土壁、草が茂る屋根、伸び放題荒れた農地。
数百年前からは無人だったような荒涼とした雰囲気があたりを包んでいた。
「ここは…」
「百人にも満たないほどのテニーニャ人が住んでいたらしいけど全員ロディーヤ兵に殺さたらしい、そこらへんの地面掘ってみれば?人骨じゃんじゃん出てくるよ」
そんな惨劇を想像した二人の肌は鳥肌が立っている。
それを想うとかろうじて残っている家屋の残骸が墓標のように思えた。
だがそんな墓地にも賑やかな明るい声が聞こえてくる。
少し村に入り込むとそこにはエロイスたちと同じ褐色の野戦服に身を包んだ武装聖歌隊の兵士たちが屯していた。
兵士たちは特にやってきた二人に目を遣る様子はない。
建てられた緑色のテントの中に案内された二人はそのテントの中に座っていた人物が目についた。
「久しぶり、連れてきたよ、新しい少女兵」
フゥーミンが入ってきた二人に手先を向ける。
椅子に座っていた人物は連隊長だろうか。
そんなことを思っている二人にフゥーミンが紹介してくれた。
「この人は武装聖歌隊第一歩兵連隊連隊長のヒジャー・ダンテルテ少佐なんだよ。
二人の受け入れを許可してくれた人」
ダンテルテ少佐と言う人物はお世辞にも優しそうは人には見えなかった。
ボッサボサの黒髪のボリューミーなミディアムヘアで顔が隠れているが少し長い前髪から赤黒い三白眼が睨みつけるように二人を見つめている。
ギザ歯のその少佐の様相は吸血鬼と言われても信じてしまいそうなほどなビジュアルだった。
「おぉ、ありがたい、わざわざ連れてきてくれたのか、何という足労。
感謝するぞ武装聖歌隊総指揮官フゥーミン」
ダンテルテ少佐が低い少し男性っぽい声色で言うとフゥーミンは二人をテントに残し一言だけ言って外へと消えていった。
「じゃ、わたち帰るから、帰りはそこらへんの兵士に送り届けてもらおっと、またね、ちみ達の活躍楽しみにしてるね」
二人はダンテルテ少佐の威圧のおかげで直立不動の状態から動けなかった。
少しでも無礼を働いたら殺されるのではないか、そう思わせるほど気迫が少佐の顔から感じ取れた。
「あぁ、椅子が必要だったな」
少佐はテントの端っこに積まれた椅子を二席手に持つと設置して座るよう促す。
二人は「失礼します」と言いながら椅子に座った。
少佐はエロイスたちの野戦服と同じ褐色のウール製の軍服を着ていたが親衛聖歌隊のシンボル、もとい帽章として矢十字がついた制帽を被っていた。
真っ黒なとんびコートを袖を通さず肩に羽織り二人の少女をまじまじと見つめる。
「なるほど、国防軍の端くれか、狗の餌にならなくてよかったな。
生き残りをこの目で見れるとは」
少佐は机に置いてあった腕章を手渡す。
少佐は手に白手袋を装着しております手袋の甲には瞳を模したシンボルが黒く描かれていた。
「知ってのとおり武装聖歌隊はテニーニャ陸軍の直属ではない、グラーファル閣下直属の親衛聖歌隊の武装組織だ、これをつければ貴様は立派な聖歌隊の兵士だ」
手渡された聖歌隊の矢十字の腕章を左手上腕に着ける。
赤と白と黒い矢十字が二人の野戦服に誇らしげに輝いている。
「わぁ…かっこいい…」
見惚れる二人に少佐は言う。
「聞かされているかどうかは知らんが今、北のアズという小都市の奪還を狙っている。
そこで私の歩兵連隊の第一歩兵中隊に配属してもらう、何人か病死して穴が空いていたから丁度いい、すぐ近くに歩兵中隊を率いている中尉がいるはずだ、探して挨拶の一つでもしてみろ、以上」
少佐がそう言うと二人はテントから出ていく。
しばらく歩くと二人は同時に全身の疲れを溜め込んでいるようなため息をついた。
「はぁ〜…怖かったぁ…血啜られるのかと思ったよ」
「ドレミーも…あの人が連隊長かぁ、でも頼もしそう」
「歩兵中隊の中尉はどこにいるのかな?」
エロイスがキョロキョロ見渡してみると一人制帽を被った佐官らしき人が立っていた。
その人物に声をかけてみる。
「あのっ…!歩兵中隊の中尉でしょうかっ!」
エロイスの声にその人物は振り返る。
「わっ!?」
左は振り返ってきたその人物の顔を見て驚く。
真っ白な顔面を覆う仮面に不気味な笑顔が描かれている。
服装はエロイスたちと大差ないはずなのだがその顔の笑顔の仮面のせいで不気味さと違和感が尋常ではないほど膨れ上がっていた。
赤茶色のおさげの髪の笑顔の仮面を被った少女を見た瞬間、ドレミーはエロイスの背後に隠れてしまう。
「あっ…あの…」
エロイスが恐る恐る尋ねるとその人物は黒い乗馬ズボンのポケットをガサゴソと漁り単語帳のような短く小さな紙を取り出した。
いくつか取り出すと二人の前にその上に書かれた文字を見せる。
「えっ…なになに…
『私』『第一歩兵連隊』『第一歩兵中隊』『シェフィールド・S中尉』…もしかして…喋れないんですか…?」
シェフィールド・Sを名乗るその人物はコクリとうなずくと単語が書かれた紙をポケットにしまい新しく単語が書かれた紙を提示する。
「『榴散弾』『顔の下半分』『陥没』『喋れない』『顔』『見せたくない』…榴散弾ってロディーヤの…?」
シェフィールド・エス中尉はコクリコクリと頷きエロイスとドレミーに強い握手をしてきた。
「あっ!?ええっと、エロイス・アーカンレッジです、それでこの友達がドレミー・ソラシドって言います、これからよろしくお願いしますっ」
握手のさなかに自己紹介を済ますとシェフィールド・Sは握手をやめ、ペンと小さな長方形の単語帳の用紙を取り出すと二人の名前を書いた。
そして。
『よろしく(。•̀ᴗ-)✧』
中尉がそう書かれた単語帳の用紙で顔を隠し照れた様子で二人に見せた。
「はいっ…!これからよろしくお願いしますっ!中尉っ!」
二人は見た目とは裏腹に少しおちゃめな中尉に向って敬礼をした。
仮面の上からでも照れている様子なのが伝わってくる。
二人は中尉の振る舞いに気を許しすっかり仲良くなったようだった。
中尉はエロイスの左薬指に金色の指輪がつけられていることを見るとポケットから髪を取り出して見せた。
『既婚者』『?』
その字を読んだエロイスは照れ隠しをするように笑うと答えた。
「非公式ですけどね、とっても大事なものなんです、今でも心に暖かくいてくれるんですよ」
エロイスはそう言うと指輪をはめていた手を胸に当てる。
中尉はなにか事情を汲み取ったかのようにそれ以上は尋ねなかった。
こうして新しい上官と隊に迎えられたエロイスとドレミー、二人の前線の兵士として日の目を再び見ることはできるのだろうか。
シェフィールド・S中尉「『新しい』『兵士』『優しい』『クマʕ·ᴥ·ʔ』」
ダンテルテ少佐「そうか、その仮面つけた状態の貴様に気兼ねなく話しかけてくれたのはあいつらだけだったな」




