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戦友からの伝令

ハッペル進撃への作戦を練ったリリスたち。

夕方に偽装した輸送車をハッペル付近へ送り、夜の間に隠密しながら接近。

夜明けとともに十一月七日の早朝に攻撃を仕掛けることになった。

テニーニャ国防軍は十一月七日が攻撃の日と知り、早急に陣地を構築した。

その前夜、再びエロイスとマリッサは偵察を任されていた。

エロイスとマリッサは相変わらず東の通りの見張りをしていた。

不穏な影があるようならばすぐに准尉へ報告するようになっていた。


「マリッサ…眠い〜…」

「エロイスお前本当に反省してんのか?」

「してるよっ…!でも睡魔には勝てない…」

「こら寝るなっ!」

「い゛でっ!」


マリッサがエロイスの頭頂へ拳を叩き込む。

リグニンとレイパスは東の通りの家屋内で銃器を構えている。

いざ敵が入り込んできたら蜂の巣にするために。


夜もすっかり更け、濃紺が徐々に薄らぎもうすぐ朝を迎えようとする頃。

マリッサがおもむろに立ち上がる。


「攻撃は七日と聞いていたが結局それらしい動きはなかったな、日にちが変更になったのか…おい起きろ」

「んにゃ〜…」

「お前結局途中から寝てたな、まぁいいぜ。

私ちょっとトイレ行ってくるからそこにいろ」

「あっ、ごめん…っ!うん、ここにいるね…」


マリッサは無言のまま立ち去ってしまった。


「もうすぐ朝…私が寝ている間マリッサ、起きててくれたのかな…また悪いことしちゃった…」



マリッサが草むらで尿を済まし立ち上がろうとした瞬間、近くで草が擦れるよう音がした。


(何だ…?畜生か…?)

マリッサが音のする方へ近づく。

するとそこには隠密しながらハッペルへと向かうエル・ルナッカーがいた。


「誰だお前!」

マリッサが腰に携えていた拳銃をルナッカーへ向ける。

「やっぱり今日が決行日だったか、動くなよ今から撃ち殺してやる」

「…」


ルナッカーが無言で立ち上がる。

「…あーあ、一人でこっそり近づこうと思っていたがバレてしまったな」

「嘘をつくな、他にもいるんだろ?どこだ、ロディーヤの兵はどこにいる、話せ」

「話したら撃つだろ、結局撃たれるんだったらこのまま死んでやる」

「このアマ…っ!」


マリッサが向けた拳銃の引き金に手をかける。

今にも引き金を引こうとした瞬間。


「本当に撃つのか?その銃で。

それ不良品だろ」


ルナッカーがマリッサに冷たく言い放つ。


「何を馬鹿なことを…不良品だなんて目で見てわかるわけ無いだろ」


マリッサは強がって言うが心の中では不安でいっぱいだった。


(この拳銃は少佐が持ってきたやつから適当に取ったもの…もしかして不良品なのか…?クソっ、一発くらい試しに撃っておけば…)


「俺は少尉だ、不良品くらい目で見てわかる。

そんなに疑うなら撃てよ、俺が凶弾に死ぬか、それともその銃が暴発して手がぐちゃぐちゃになったまま俺に殺されるか。

選べよ、最後の選択だ。

俺にとってもお前にとってもな」


「くっ…!そんな脅しに…っ!」


マリッサの銃を構えた腕が震える。

顔で威圧しているが、本心は恐怖で呼吸もままならないほど震えている。



そしてついに恐怖に屈してしまった。


「そうだな…不良品だきっと。

きっと暴発する、私の負けだ。

不良品かどうか確認しなかった私の負けだ。

こんなちょっとのことで負けるのか…そうだよな、ここは戦場、その意識が足りなかったんだな、私は。

強いなお前、敬意を表するぜ」


その瞬間ルナッカーがマリッサに飛びかかる。

抵抗するまもなくマリッサは地面にうつ伏せにされた。

腕は後ろに回され、拳銃はそのまま転がっていく。


「不良品ってのは本当なのか?俺は適当に言ったことなんだが」

「だってお前、不良品は目で見てわかるって…」

「んなアホな、いくら少尉でもわかるわけ無いだろ。多分撃てるぞその拳銃」

「…んなっ!?」


マリッサが目を見開いて驚いた表情で振り返る。


「だ、騙したのか卑怯者…っ!」

「何言ってるんだ間抜け、戦争は常に裏のかき合いだろ、名乗り合って侍合戦とはいかないんだ」


ルナッカーは懐から大きめの刃のナイフを取り出す。


「哀れだが、敵である以上そして見つかってしまった以上殺す他ない。

今銃声を上げたらまずいんだ、作戦の真っ只中だからな」

「やっぱりっ…今日が…っ!」

「おさらば、間抜け。

不良品だったのはお前だったようだな」


刹那、マリッサの喉元にナイフが突き立てられた。

マリッサの口から赤い泡が吹き出る。

温かい血液が食道を通って胃に入り込むのが分かる。 


「ガハッ…コヒュー…コヒュー…」


マリッサの呼吸が荒くなっていく。

ルナッカーガハッそれを見届けるとナイフを引き抜き、マリッサの軍服で血を拭くとそのままハッペルへと向かっていった。


マリッサは未だ息絶えずにいた。

喉からドロドロと流れる血が芝を真紅に染まる。

マリッサは死力を絞って地面を這っていく。


(伝えなくては…ロディーヤがハッペルに近づいている…早く、早く伝えなくては…っ!)


息絶え絶えで這ったその先に見えた。


エロイスだった。


「マリッサー?トイレまだー?どこにいるのーーっ?」


エロイスがマリッサを探していた。


(ここだ…っ!エロイス…っ私だ…っ!)

「ゴホッ…コヒュー…コヒュー」


しかしその声が喉まででかかると開いた喉もとから消えていった。


(エロイス…っエロイスっ!!)

「ガハッ…ッッ!!」

「…っ!?マリッサっ!」


その声に気づいたエロイスが駆け寄る。


「マリッサ…っ!?どうしたのこの血…それに…」


エロイスが血にまみれたマリッサを抱えあげる。


「ェ…ロイス…ロディーヤが…すぐそこに…っゴホッ…」

「喋らないでマリッサ…っ!今みんなを…」

「もう…すぐそこまで来…っている…もうすぐ攻撃…されるっ…それを…っ…伝えろ…っ」

「マリッサ…っ!!」


マリッサのまぶたから徐々に力が抜けていく。

目からはだんだんと光が失われていく。


「嫌だ…マリッサ…っ!まって…っ!」

「エロイスっ…私…死ぬ前に…伝えられて…良かっ…た…このままだった…ら…ヴィローラに…顔向け…できなかった…」


マリッサの死期がもうすぐそこまで迫っていることに気づく。

エロイスの目からこぼれ落ちた涙がマリッサの頬へと伝う。


それを見てマリッサがわずかに微笑む。


「じゃあな…戦友…」


マリッサの目が閉じる。

マリッサはわずかに微笑んだままうつむくエロイスに静かに抱えられていた。


「…伝えなきゃ…私が…みんなに…」


エロイスが抱えていたマリッサをその場へと安置する。

そして立ち上がり東から登りかけている朝日を背に走る。

走り出したエロイスの目からキラキラと光る涙が風とともに流されていった。


「伝令っ!!ロディーヤ軍っ!!こんにち早朝にて進撃開始っ!!!テニーニャ国防軍っ!!総員戦闘準備っっ!!!」


エロイスの腹のそこから絞り出すような声が虚しく空へと響き渡った。

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