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テニーニャ国防軍はハッペルに撤退していた。

准尉の意向で結束力を高めるためにサッカーを提案し、より親睦を深めたエロイス・アーカンレッジたち。

一方ロディーヤ女子挺身隊でも参謀総長という不穏な影が指し始める。

そしてわざわざ作戦を自ら暴露する参謀総長の本意とは。

ルナッカー少尉と参謀総長が林から出てくる。


「あっ!少尉!おかえりなさい!えっと…参謀総長!お疲れさまです」

リリスが二人の高官に頭を下げる。


「君がリリス・サニーランドかね、大きくなったなぁ」

「え?あっ、はい…」

「これからも期待しているぞ。

さて、そろそろ時間だ、私はお暇するとしよう」

そう言って身を翻した瞬間、


「そうだ、君たち。一度チェニロバーンに帰ってみないか?」

「えっ!?」 

「ロディーヤの少女が功績を上げたんだ。

国民が英雄の凱旋を期待している。

ロディーヤ女子挺身隊の帰還を待っているのだ」

「ホントですか!?少尉!一旦帰りましょう!」


「…そうだな、戦意高揚にも必要なことだ。

帰るとしよう」

「ほかの隊員にも伝えておいてくれ。

それとルナッカー少尉、帝都についたら参謀本部に挨拶を忘れずにな」

「…はい」

「さぁ帰ろう!国を挙げて君たちを祝福しょう!」


挺身隊は用意されていた輸送者に乗り込み戦地を離れた。


占拠した塹壕は帝国陸軍の兵士たちが在住してくれている。

参謀総長は列車に乗り込みそのままひと足早く帝都に向かった。


リリスたちを乗せた輸送者は風を切って戦場を離れていった。


(そういうば、なんで参謀総長は私の名前を知っていたのかな…?)


爽やかな風と不穏な空気が同時に彼女たちを包み込んだ。


「やっと帰れるよ〜忙しかったね〜リリス、傷はもう癒えた?」

「うんだいぶ良くなったかな、ありがとうウェザロちゃん」

「それにしても参謀総長のお方、身長高かったですわね〜。

女性としてはかなりの背丈ではないかしら」

「確かに、身長高いと威厳があっていいわね。

私も身長伸びないかな」

「え〜ベルちゃんはそのままのほうがいいと思うな〜」

「そうだよ!それにベルヘンが高身長になったってただのもやしもんだよ」

「それはどういう意味!?」

「ふふっ」


「あ、そういえば少尉はさっき参謀総長に本部に赴くよう言われてませんでした?」

「あぁ…なにか言われるんだろうな…リリス、代わりに行くか?」

「え、ええ!?そんな滅相もない…っ」

「ははは…」


(参謀総長…あのことみんなに言ったほうがいいのかな…)


ベルヘンの頭に林であった会話が浮かぶ。


(帝都についたら少尉と二人で相談しようかな…)

そんな一抹の不安をいだきながら帝都へ向かう。






ロディーヤ帝国首都チェニロバーンでは盛大な出迎えが待っていた。


輸送車が都に入ると国民が総出で輸送車を囲んだ。

輸送車はスピードを落とし、ひらひらと色とりどりの紙吹雪が降り注ぐ。


青空の下、英雄となった少女たちに歓声が上がる。

リリスたちはそれに手を振って答える。


「わぁすごい…これが…!」

あまりの光景にリリスの目がくらむ。


「ええ、みなさん幸せそうですわね」

「そうだね、敵を殺しただけでこんなにも羨望の眼差しで見られるなんて、兵士っていいね〜」

ウェザロが無神経な言葉を口走った。


リリスの顔が若干曇る。

(そうだ…勝利は屍に居座っている…)

リリスはすでにこのパレードを心から楽しめなくなっていた。


「おらっどけ野次馬ども!彼女らが通れないだろ!」

集まってきた国民に挺身隊たちは左往右往していた。


「リリス、ウェザロ、メリー、ベルヘン!ついてこい!」

少尉に導かれようやく人混みから抜け出せた。


「クソっ…人が多いな、ほかの隊員もはぐれてしまった。

面倒だな…本部にも行かなくてはいけないのに…

リリス、悪いがほかの隊員たちを集めておいてくれ」

「ええ!私が!?」

「頼む、俺は参謀本部にいかなくては」

「わっ、わかりました!がんばりますっ!」

少尉は早々に帝都の参謀本部へと向かった。


その後を追い、ベルヘンは少尉に話しかけた。

「あの、少尉…お話ししたいことがあるんですけど…」 

「ん?なんだベルヘン」

「実は…戦地での事なんですけど…」

ベルヘンが口ごもる。

「私、聞いていました、参謀総長との会話を」

「ベルヘン…っお前…」

「悪ぎはなかったんです…ったまたま…」

「…どこまで聞いていた?」

「全部です。

参謀総長の謀略も、少尉が昔の総長に憧れていたのはことも…」

「そうか…お前たちには迷惑かけまいと思っていたんだが…ベルヘン、あの事はまだ誰にも言っていないな?」

「はい、一応少尉に相談してから…」 

「誰にも言うなよ」

「…っ!」

「俺があんなクソ野郎に憧れていた事も、ロディーヤ国内にテニーニャの以上の敵がいることも」

「言わなくていいんでしょうか…?」

「言わなくていい…俺が静かに始末する、

しなくてはならない。

挺身隊のお前たちにも不安の種を植え付けたくはない。

安心しろ、俺が必ず阻止する。

もういい、リリスたちの元へいけ」

「…わかりました。あの総長の様子だと私たちに妨害行為をしてくるかもしれません。

その時は…」 

「二人で共に乗り越えましょう、って言いたいんだろ?いいだろう。

この事は二人の秘密だな」

「…っ!はいっ少尉っ!」

ベルヘンは笑顔で立ち去った。


(一人で十分だと思っていたが、いざ話せる奴がいるとスッキリするな。

だが、なによりリリスたちを不安にさせないことのほうが大事だ。それに軍務に支障が出るかもしれん)


少尉はそう思うといそいそと本部へ向かった。



帝都チェニロバーン参謀本部にて


「来たっ…この部屋に参謀総長が…っ」


ルナッカーが二回ノックする。


「どうぞ」

聞き覚えのない声が中からした。


「失礼します」

ルナッカーが部屋に入ると参謀総長、そして見知らぬもうひとりの軍人がいた。


腰辺りまでの艷やかな黒髪と月のような黄色の目を持つ参謀総長とは対象に、顔の半分が隠れるほどの灰色の長い前髪にまとめた短い後ろ髪の垂れ目で気の弱そうな女性軍人。

右手に黒手袋、左手に白手袋という独特のセンスが伺える。

前髪からは光のない瞳が時々のぞかせる。


「…この方は…」

「初めて見るだろう?彼女はルミノス・スノーパーク、私の気の置けない高級指揮官であり懐刀だ」

するとルミノスが声を上げる。


「あぁ…っ参謀総長殿っ!わたくしの事は高級指揮官などではなくマゾ豚とお呼びくださいとあれ程っ……!」

「おっとそうだったなマゾ豚、すまんすまん」  

「あぁ…!もっと…っ…もっとわたくしを罵り下さいっ…!」


(なんだこいつ…こんなやつが高級指揮官…?俺より上だなんて…)

ルナッカーが呆れる。 


「…で、なんのようですか参謀総長」 

「そうだった君を呼んだのは私だったなルナッカー少尉、すまない。では

満を持して一つ聞こうか」 


「君、『白の裁判所』に入隊しないか?」

ルナッカーがキョトンとする。  


「あぁ、ロディーヤを弱らせるために工作する裏部隊だ、私が独自に設けた。

そしてこのマゾ戦犯豚がその部隊の最高最高指揮官だ」 

「…ロディーヤを敗戦に導こうっていう気は変わらないんですね。

こいつが指揮官の部隊なんて入隊する気も起きません」

「あ゛っ?」

ルミノスの顔が一気に険しくなる。


「このルミノスの事を馬鹿にしたな?馬鹿は貴様だ。

参謀総長にのご厚意に歯向かうなどどういう神経をしているんだ?」


ルミノスの人格が一気に変わる。 

どうやら参謀総長の前だけではマゾヒストだが、それ以外ではサディストらしい。


「参謀総長の理想は気高い。

皇帝という老害極まる痰壺にありとあらゆる罪を痰として吐き捨て壺ごと捨てる。

敗戦後のロディーヤはどうなる?人々は今よりももっと飢え、国はボロボロだ。

そこで現れるのが参謀総長もといシンザ・ハッケル!人々は縋るだろう、この救世主に!

そしてシンザ・ハッケルがこの国のすべてを手中に収める!シンザ・ハッケルが頂点となったロディーヤは真の楽園へと生まれ変わるのだ!」


「なるほど、そう洗脳されたのか」

「黙れ畜生外道!貴様がこの世に生まれてきたことを後悔する用意をしろ!」


ルミノスはルナッカーの首に手をかける。

「やめろ豚、手を離せ」

「はっ…!申し訳ございませんっ…!

どうかっ!どうかこの賤しいわたくしめに罰をっ…!」


「ゴボッ…ゴホッ……っどうでもいいですが…

そんな部隊も楽園も私には関係ない。

私は私のロディーヤとしての国の為に動く、ただそれだけ」

「私の手中に収まるのも国の為になるぞ」


「ふっふっふっ…ダウト、参謀総長が統べる国なんてろくなものにならない、そもそも国を敗戦へ導こうとしている時点でただの害でしかない」


「おい貴様っ!その発言の相手が参謀総長との知っての狼藉か!」

「ルミノス・スノーパークといったかな、どんな工作をしてくるのか知らないが、挺身隊を敵に回すとえらい目に遭うぞ、挺身隊少尉のこの私が言うのだから間違いない」

「ふん、自慢げだな。

勝機はいくらだ 千に一つか万に一つか、

参謀総長と白の裁判所に逆らった時点でお前は私の弾丸に踊るのだ。

銃の衝撃が動力の、哀れな憐れな肉人形オートマタだ」


「…参謀総長そしてルミノス指揮官、私はこれにて失礼します。

それにしても…

馬鹿ですね。自分からベラベラ計画やら秘密部隊やらくっちゃべって。

負けさせたいのはロディーヤではなく自分なんですか?」

「貴様っ…!愚弄したな…!」

「ふっふっふっ…よいルミノス」

「…っ!ですが…」


ハッケルは執務机の椅子に深く腰掛けると指を組んで語りだす。


「ルナッカー…私は楽しみたいのだよ。

君の抵抗を、そしていずれ訪れる反逆を。

ただ密かに計画を実行するだけではつまらない。

私は人間だ、綿密に練った計画が誰にも知られずに完遂されるなんて耐えられない、だからこの計画を誰か無知の人間一人に話して、絶望してほしい。

この完璧な計画の実情を知ってほしい。

それがルナッカー、君だというだけの話だ。

今まで君が私の背中を追ってここまで来たことを知っている…

だからこそ君に話したのだ」

「そんな稚拙な理由で…」


「主人公の名前生い立ち悩み年齢、親友ヒロインライバル黒幕、技名地名世界観、

そしてキャラ設定…緻密に時間をかけて練り上げた創作物、誰かに見せたくはならないかね?

『見ろっ!俺はこんなすごい物を作ったんだぞ!褒めろ崇めろ考察しろ!俺が作者だ!』

今の私はそれだ…。

人間に生まれたからには逃れられない欲求それは、金欲性欲そして承認欲求っ!

それだけだ、ただそれだけ。

稚拙だと?当たり前だ、私は本能に従っているのだからな」


「その承認欲求を満たすためだけに私に…」

「あぁ、この計画が頓挫することはないとは思うが抵抗してくれて構わない。

計画、実行、挫折、成功そして栄光っ!

それが英雄が生まれるまでの必須シナリオなのだからな。

ただ裏で淡々と進めていては単なるずるい悪の所業でしかない。

だから精一杯、抵抗してくれ。正義のご都合主義じゃ嫌われてしまう」

「総長という人は…一体どこまで…っ!」


「…ふぅ〜長く語りすぎたな、少し喉が乾いた」

「はいっ…参謀総長殿、ただいま…!」


ルミノスが参謀総長に飲ませるための紅茶を淹れる。

「うん、この紅茶は実に味がいい、やはり高い紅茶は香りも色も豊かだ」

「参謀総長殿…その紅茶は徳用ブランドの廉価の茶葉の紅茶です」

「はははっ、また無知がバレてしまったな失敬失敬」


「…では失礼します。

これ以上あなた方の戯言に付き合っているだけ時間の無駄ですから」


ルナッカーはそうつぶやくと参謀総長のいる部屋をあとにした。


「…っ参謀総長殿、少し喋りすぎては…?

この計画も白の裁判所の事もまだわたくしの部下たちと参謀総長殿しか知らないことですし…」

「いやいい、秘密事ほど誰かに話したいんだ。

私は狂犬だ、承認欲求に首輪をかけられた忠犬だ」

「しかし…っそれで計画が台無しになったら…」


「資料はすべて私が持っている。

もしルナッカーが大体的に言いふらすようですあればその資料とルナッカーはいい薪になるぞ。

それにそもそもこんな話、誰も信じるものか。

参謀総長が国を負けさせて皇帝を消し、ロディーヤを支配しようとしているということなどな」


「それもそうですね…っ、それより早く罰を…っ!」

「あぁ、そういえばまだだったな。

どれ、では私の部屋の隅から隅を舐めて掃除をしろ。

塵一つ残すことは許さん」

「僥倖っ…!なんという僥倖っ!参謀総長の部屋のホコリを一つ残さず舐め取れるなんてっ!!

いただきます…っ、ほぁ〜…ベロベロベロベロベロベロッッ!!!!」


ルミノスが部屋の隅からうつ伏せになりながら雑巾がけのように動き出す。

「はっはっはっドン引きだな。

まぁいい。

ルナッカー、どんな抵抗をしてくれるのか楽しみにしているぞ」


参謀総長の口角が高く上がる。

ニヒルと笑う参謀総長の口からは白い歯が輝いた。

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