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非現実の王国で

革命指導者のトーファスを人間たちの音楽隊の理想の宣伝に使うべく強制的な洗脳を開始したグラーファル。

場所は変わり、シッパーテロではテニーニャが三日間の準備砲撃を行っていた。 

榴弾と毒ガス弾の混じった砲撃により死のゾーンをぼろぼろにしていた。



鳴り止まぬ砲声、テニーニャの塹壕では兵士たちがその上空を飛来する砲弾を目で追いながら日々を過ごしていた。


エロイスたちも退避壕からでて空に引かれた飛行機雲のような硝煙の軌跡の下でただひたすらに待っていた。


着弾する音と土砂が弾ける音が聞こえる。


エロイスとエッジとドレミーが通路のテーブルでトランプのぶたのしっぽをして遊んでいた。


場にカードを裏にして輪になるように広げ親の左の人が、広げられたカードの中から一枚適当にめくって、円の中央に表にして置く。


時計回りに回っていき、前の人が出したカードと同じ色か数字が出てしまったら、場に出ているすべてのカードをひきとる。


自分の順番が来て手札をもっていたら、その中から好きなカードを一枚を場の中央に出していき輪にしたカードが全てなくなれば終了、手札が一番少ない人の勝利というカードゲームだ。


「あっ、ハートのエース」


ドレミーの引いたカードが中央に置いていたカードと合致してしまった。


「はいドレミー、この山全部引き取るんね」

「ええっ…そんなぁ…」

「ドレミー、運悪いね」


大量の手札を持ったドレミーが泣きながら遊戯に興じていたその時。


ピィーーーーーーっ!!!!!


突如塹壕内に笛の音が鳴り響く。


「風向きが変わったぞぉーーーっ!!!ガスマスクをつけろーーーっ!!!」


その瞬間エロイスたちはトランプをやめ、すぐさまゴムの面体のガスマスクを頭から被った。


風向きが変わったことでロディーヤ側で停滞していたガスがこちら側ヘ流れてきたのだ。


少女のあどけない顔が一瞬にして表情のない不気味な顔に様変わりした。


塹壕内の十人十色の表情が無機質なマスクによって統一されてしまった。


ガスマスクの面体を首まで覆い終わると、再びトランプを持ってゲームを再開した。


しばらくするとほのかに木材のような匂いが漂ってくる。


吸収缶により空気が濾過され一応無害な空気が吸えるようになるのだ。



「息苦しいよこれ、本当に効果あるのかな」


札を捲りながらこもった声でエロイスがみんなに言い放った。


「しょうがないんね、効果あるかどうかは一日立ってみないとわからないんね」

「怖いこと言わないでよエッジ…とっ…鳥肌が立ってきた…」


マスクを着けたままそんな会話を繰り広げながらトランプに勤しむ。


「やったっ!!それで最後の一枚っ!」


エロイスが輪のカードを一枚めくり終えると勝負が決した。


「まっ…また負けたぁ…うぇぇ〜…」


ドレミーの手元には大量のカードが残されていた。


「ドレミー弱いね…」

「しょうがないじゃ…こんなの運だよぉ…」


エロイスとエッジが口を開けてキャッキャッと笑ったがマスクの上からではそんな笑顔はわからない。



しばらくするとガスマスクを外してもいいという合図の笛が鳴り響く。


「…?もう外してもいいの…?ガスは重いから塹壕に長い時間溜まるんじゃなかったっけ」

「どうやらここまでガスが来る前に風向きがまた変わったみたいなんね」


エッジがそう言いながら面体を引っ張りマスクを外す。


髪をブワッとマスクから飛び出す。


「にぃ〜」


エッジがニヤッと笑って見せた。


それを見た二人もマスクを外し真似するようにニヤッと笑い返したのだった。



三人はトランプを止め、席を立つ。


「そろそろ昼ごはんにしようかな」


地面においてあった飯盒を手にとると中に入っていたツナを手で掬い上げると口に運んでいった。


少し水っぽいツナをもぐもぐと噛んで胃に運ぶ。


「美味しい美味しい」

「スプーンがあればなお良かったんどけどね…」

「じゃあ持ってきてくれない?なんてね」


三人が身体を寄せ合って食欲を満たしていく。


手先に掬い上げた食料を啜るように食べていく。


うまいうまい言いながら腹を満たしていった。


飯盒の中にはツナから染み出た少量の汁だけが残った。


その間にも空気を裂く砲弾の音は止まない。


「…早く突撃したいなぁ…もうこんなところにいなくない」


ドレミーがおもむろにそんなことを言い出した。


「…珍しい、ドレミーがそんなこと言うなんて、どうしたの?」

「…うん…ここにずっといるより早く戦果を挙げてこの戦争を終わらしたい、テニーニャの勝利で…ドレミーたちの努力を無駄にしないためにも」


ドレミーのその言葉にエッジも同意するように言葉をつなぐ。


「そうなんね、いよいよ明日が十日、突撃の日。

遺言でも書いて覚悟しなきゃいけないんね、エッジ、ドレミー、私は全員が生き残れるなんて考えていないんね、だから今日しっかりとこの瞬間を噛みしめるんね」


エッジがドレミーとエロイスの肩に腕を回して身を寄せる。


「四人揃って精鋭突撃隊っ!頑張るぞーーっ!!」


エッジの愛らしい微笑みを左右に向け、エロイスとドレミーを励ましたのだ。


二人もその笑顔に励まされ明るく笑い返した。


「…そうだねっ、よーし頑張るぞっーー!オーっ!」


エロイス頑張るぞっ右腕を挙げ、気合を入れ直すのだった。


砲弾が飛び交う非現実の戦場の塹壕で。

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