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愛情のパノプティコン

休む暇なく撃ち込まれる砲弾の中で少女たちはしっかりと胸の内を開いて想いを伝えあった。

そんな少女兵たちの遥か後ろ、テニーニャ共和国の首都ボルタージュのとある部屋にあの共産革命を扇動したトーファス・マッククックイーンとアボリガ・グラーファルが一緒にいた。

首都のボルタージュのとある街のとある部屋に二人はいた。


灰色のコンクリの部屋の天井にはほのかに白く光る電球のついた傘型の照明が吊り下げられている。


そんな一室で手足を固定されたあのトーファスが目を開けた。


「…こっ…ここは…っ!?」


衣類は捕らえられた当時そのまま、だが身動きが全く取れない。


鉄製の椅子に頑丈そうなベルトで身体を縛り付けられていた。


手足、首、腹、腿など全く抵抗することができなかった。


「やっと起きたかねぼすけ」

「っ!?」


目線の先には椅子に脚を組んで背もたれに寄りかかっていた前身真っ黒なグラーファルだった。


「なんの真似だっ!?これはっ!」

「落ち着け赤豚、事情を説明する」

「事情だと?」


グラーファルは背中を丸め組んだ脚の腿に指を組んだ手首を乗せて話し始めた。


「屠るのはもったいない、『人間たちの音楽隊』は不穏分子だろうとロディーヤ人だろうと使えるやつは徹底的に使って搾取している、絶滅収容所でもそうやって軍や社会に貢献させてきた。

お前もそうだ、その耳に快い雄弁、手練手管のジェスチャーと影響力と扇動力、ただ犬の餌にするのは惜しい、あとはその思想さえ消えてなくなってくれれば万々歳だ、協力しろなんて言ってもどうせ聞き入れてもらえないだろうからここ、101号室に連れてきた」

「当たり前だっ!利用なんてされて堪るかっ!私は共産主義にのみつき従うのだっ!」


グラーファルは想定通りの言葉を聞いておもむろに立ち上がる。


そして座っていた椅子の横のテーブルに置かれた薄いノートを手にとるとペラペラとめくりあるページでストップすると、音読し始めた。


「トーファス・マッククックイーン。

とある小さな農村で生まれる、性格は社交的で情操豊かな努力家、幼い頃から読書に勤しみそこで能弁、思考力指導力を培った。

成績は常に『優』、学校内では物事をはっきり言うその性格と行動力のせいで好みが別れたそうだ、あるものからは徹底的に嫌われいじめられたが、その考えに感化された仲間たちが庇ってくれた、のちの革命結社の最古参になる人物たちだな。

その後、大学に入るととある書籍に出会い共産主義に影響され広めようと画策する、勝手にプロパガンダポスターを貼ってみたり、本を出してみたりしたが身内以外は見向きもしてくれなかったという。

そんな中、民衆を振り向かせるために必要な方法を考えたとき、演説を思いついた、それからは語彙や言い回しや引用できそうな名言を学び、オペラや劇から発声やジェスチャーを学び、人々の心理を研究し続けた。

そしてとある日、大学の講習会にて散々練習した台本の言葉を捲し立てた、その演説は大成功、学生たちは席を立ち拍手喝采の嵐、教授たちに状況を危険だと判断され強制的に退出されるも、その後その思想に染まった学生たちがトーファスの周りに集まり始めた、そうして作り上げられたのが『美しい国同盟』の基盤、その後も在学中に演説で学生や労働者たちなどを感化させついに結社を作り上げた…聞けば聞くほど恐ろしい、こんな人物、剣の錆にするにはあまりにも惜しい」


そのノートにはトーファスの半生がびっしりと綴られていたのだ。


トーファスは半ば恐怖を覚えながらも反抗的な目つきで言い放つ。


「凄い情報収集能力だが、だがそれが何になるっ!私は断固としてっ!お前みたいなカス野郎には屈しないっ!!」


するとグラーファルは冷徹に拘束されているトーファスを見下して告げる。


「なら残念だ、素直に『私はグラーファル様の思想奴隷です、この悪い脳味噌にお仕置きしてください』と懇願すればいいものの、あれを使おう」


グラーファルが喋りながら長い犬歯を覗かせてパッチンと指を鳴らした。


すると部屋の鉄扉が開き頭の形に組まれた細い長い金属の板にヘッドホンのようなものが装着されたヘッドギアのようなものを持った部下がやってきた。 


「なっ…なんだよ…それはぁっ!?」

「私が考案した『鉄の揺り籠』だ、これを使って今からお前を拷問する、安心しろ死なせはしない、身体の限界は私がよく知っているからな。

装着されたヘッドギアのヘッドホンからは共産主義撲滅を謳う大統領演説とお前に付き従ったせいで惨殺された同志たちの金切り声の断末魔を更正するまで文字通り永遠と大音量で聞かせてやる。目隠しをして自害できないように歯と舌を隔てる長い轡もさせる、栄養もしっかり腕から点滴として送ってやる、思い出した頃にまた来る、その時に敗北宣言をしろ、私がここに来る機会は少ないからよ〜〜〜〜〜〜〜く考えるんだな」


そう言うとグラーファルはスタスタと部屋を退出していった。


入れ替わりで入ってくる部下たちがトーファスの周りに立って装着の準備をする。


仄暗い白い光に照らされた不気味に顔に影がかかった部下たちゆっくりと迫ってきた。


「やっ…やめろっ…!やめろおっ!!やめろォーーーーっ!!!!!」


身をよじらすトーファスの絶叫を掻き消すかのように扉がしまった。


その鉄扉には『101号室』とはっきりと浮き出ていた。


グラーファルは同じ番号が印刷された部屋が並ぶ廊下を看守のように見て回る。


その階のエレベーターに乗り込むと金網がスルスルと閉じて下階へと下っていく。


一階のだだっ広い空間にたどり着くと無表情のまま歩いていく。


その背後には綺麗に部屋が並ぶ監房の壁が円形に広がっていたのだった。


「『愛情のパノプティコン』打ち捨てられていた監獄をこんな形で使えるとはな、何があるかわからないものだ、監視する必要がないから正確にはパノプティコンとは言えないが」


そんな独り言を言いながら振り返りもせず去っていくだけだった。



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