メルダシアとの出会い【中編】~グレイソン視点~
さて、国王はどんな提案をしてくるだろうか。もちろん、ちょっとやそっとの条件では、折れるつもりはない。
それから数日後。
「王太子殿下、いくつかの条件をこちらに書かせていただきました。これでどうでしょう」
国王が提示してきたのは、ケーリッヒ王国の特産品の1つでもある絹を、かなり安価な値段で、それも優先的に輸出してくれると言う物だ。街で見たが、確かにかなりいい品だったな。でも、まだインパクトに欠ける。
「陛下、とても魅力的ではあるのですが、これでは私が公爵令息に怒られてしまいます。もう少し、頑張っていただけると嬉しいのですが」
僕の言葉に、難色を示す国王。
「…わかりました。少しお時間をください」
どうやらこの交渉、少し時間が掛かりそうだな。
その後も何度も何度も話し合いが続くが、中々まとまらない。気が付くと、ケーリッヒ王国に来て、1ヶ月が過ぎていた。そろそろ国に帰らないと、ディランがうるさそうだな。
そんな事を考えながら、僕は毎日の日課になっていた彼女の様子をこっそり覗きに行った。あれ?今日は外に出ていないのかな?周りを見渡すが、彼女の姿がどこにもない。
その時だった。
「キャンキャン」
僕に向かって犬が吠えて来た。フワフワの毛並みをした可愛らしい犬だ。こいつ、フワを小さくした感じの犬だな。そう思い、抱きかかえた。
すると、僕の顔をペロペロと舐めて来る。何だこいつ、可愛いな。
「こらネロ。ダメよ。ごめんなさい、どうかお許しください。この子を殺さないで!」
必死に僕に頭を下げて来る彼女。
「別に僕はこの犬に何かしようとは思っていないよ。それにしても、人懐っこい犬だね」
僕の言葉に、目を丸くする彼女。
「はい、とてもいい子なのですよ」
そう言ってにっこり笑った。その笑顔を見た瞬間、一気に心拍が上がるのが分かった。
「君の名前はなんて言うの?どうしてここに居るの?」
「私はメルダシアと申します。ここは私が与えられた住み家なので」
話を詳しく聞くと、彼女は第17王女との事。メイドの娘として生れた彼女は、母親の身分が低いからと冷遇され、この場所でひっそりと暮らしているとの事。よく見たら、王女とは思えない程体も細いし、洋服もボロボロだ。
「あの、あなた様は一体どちら様ですか?こんなところに来るなんて…」
「僕?僕はちょっと用があって、他国からお使いに来たんだ。それよりこの子、可愛いね。ネロって呼んでいたよね」
「はい、私の大切なお友達です。私は母が亡くなってから、ずっと1人でした。でもこの子が居るから、寂しくはないのです」
そう言って、嬉しそうに笑うメルダシア。僕、この子が欲しい!この子となら、きっと幸せな家庭を築ける気がする。
その日はメルダシアと色々な話をし、ネロと遊んで帰って来た。
部屋に戻ってからも、思い出すのはメルダシアの美しい笑顔だ。絶対あの子が欲しい!何が何でもアイランド王国に連れて帰ろう。
翌日、再びメルダシアの元へと向かった。どうやら洗濯をしていた様で、一生懸命シーツを干していた。
「おはようメルダシア。おはようネロ」
「おはようございます。グレイソン様」
にっこり笑って挨拶をするメルダシア。ネロも僕に飛びついて来た。
その日は朝からメルダシアとずっと一緒に居た。メルダシアは自分の事は自分ですべてしている様で、料理も何でもできる。
「よろしければ、グレイソン様も食べますか?」
メルダシアが出してくれたのは、サンドウィッチと野菜スープだ。そう言えば、ディランの奥さんも、よくサンドウィッチを手作りして、ディランに食べさせていたな。
そんな事を思いながら、サンドウィッチを口に入れた。
「メルダシア、これ凄く美味しいよ」
初めて食べる味だが、物凄く美味しい。よくディランが“アンネリカが作るサンドウィッチが一番美味しい”と言っているが、その理由が分かった気がする。
僕の言葉を聞いて、物凄く嬉しそうに笑うメルダシア。本当に可愛いな。
翌日も、その翌日もメルダシアと過ごした。まるで新婚生活の様で、物凄く楽しかった。
今もメルダシアと一緒に、昼食を食べている。
「ねえ、メルダシア。君さえよければ、僕の国に来ないかい?」
「グレイソン様の国にですか?」
「そうだよ」
僕の言葉に、戸惑うメルダシア。
「素敵なお誘いですが、申し訳ございません」
悲しそうに断るメルダシア。そんなメルダシアに、僕はさらに語り掛けた。
「メルダシアは僕が嫌いかい?」
「いいえ、そのような事は決してありません。でも、私はこのような生活を送っている身です。私の様な者が、グレイソン様の国に行ってもご迷惑になるだけですわ」
そう言って寂しそうに笑った。
「そう、わかったよ。僕、今日ちょっと予定があるんだ。そろそろ戻るよ」
謙虚なメルダシア。やっぱり、僕は君が欲しくてたまらない。さっさと手に入れるとするか。
「悪いが国王陛下と話がしたい。すぐに手配してくれ」
アイランド王国から連れて来ていた僕専属の執事に指示を出した。ちなみに執事だけではなく、護衛騎士たちも連れて来ている。ただ、僕の行動に干渉するなと言ってあるので、特に何か言って来る事はない。
しばらく待っていると、執事が戻って来た。
「殿下、手配が整いました。さあ、こちらへ」
執事に案内され、いつも国王と話をしている部屋へとやって来た。
「急に呼び出して申し訳ありません。どうしても話がしたかったので」
「いいえ、とんでもありません。それで、お話とは?」
「結論から申します。私にメルダシア王女を頂けませんか?」
「メルダシアをですか?」
目を大きく見開く国王。かなりびっくりしている様だ。
「もちろん、タダでとは言いません。私たちが捕らえている、あの男と引き換えでどうでしょう?」
僕はどんな手を使ってでも、メルダシアが欲しい。その為には、あの男を手放しても構わない。きっとディランは怒り狂うだろうが、あらゆる手を使って奥さんを手に入れたディランなら分かってくれるはずだ。
「それは本当ですか?メルダシアで良ければ、いくらでも差し上げますよ!どうぞお持ち帰りください」
こいつ、それでも父親なのか。娘を何だと思っているんだ。国王のメルダシアに対しての扱いに、怒りが込み上げてくる。
「ありがとうございます。では私は一度国に帰り、あの大富豪を連れて参りますので、引き換えにメルダシアを頂けるという事でよろしいですか?」
「もちろんです。ありがとうございます!」
嬉しそうに僕の手を握る国王。なんだか釈然としないが、メルダシアが手に入るのならいいか。
「そうそう、メルダシアは私の婚約者として、いずれアイランド王国の王妃になります。そのため今後は私の婚約者として、しっかりもてなして下さい。念のためメルダシアには、私が連れて来た護衛騎士を付けさせますのでそのつもりで。後、メルダシアが大切にしている犬のネロも連れて行きます。とにかく、メルダシアが嫌がる事は、絶対にしないで下さいね」
国王に釘を刺しておいた。僕が自国に戻っている間に、万が一メルダシアを傷つけるようなことをした場合は、今回の件は無かった事にするとも伝えておいた。これでメルダシアを大切に扱うはずだ。
待っていてね、メルダシア。君を今から助けに行くからね。




