その気持ちには答えられません
カサンドラ様から暴力を受けてから1週間が経った。ありがたい事に、高級な薬を処方して頂いたおかげで、傷も無くきれいに治った。
ちなみにこの1週間、朝と夕方毎日我が家に様子を見に来てくれたディラン様。本当に律儀だ。いよいよ今日から学院に復帰する。お弁当を作ると同時に、今回心配してくれたディラン様、イザベラ、アンドレにお菓子を作った。
久しぶりに制服を着て、玄関先でディラン様の迎えを待つ。しばらくすると、公爵家の馬車が入ってきた。
「アンネリカ、おはよう。待たせてしまったかい?ごめんね」
私の元へやって来てギューッと抱きしめるディラン様。2人で馬車に乗り込んだ。もちろん、ディラン様の膝の上に座らされる。
「本当に奇麗に治ってよかったよ。肌もすべすべに戻ったね」
嬉しそうに頬ずりをするディラン様。こうやってスキンシップを取るのも久しぶりだ。あっという間に学院に着き、教室まで送ってもらった。
「アンネリカ、おはよう!もうすっかりきれいに治ったわね。よかったわ」
私の姿を見つけ、嬉しそうに駆け寄ってくるイザベラ。怪我をした翌日にお見舞いに来てくれて以来会っていない。イザベラ曰く、ディラン様がお見舞いに来ているだろうから、邪魔をしてはいけないと思ったらしい。
「お陰様ですっかり良くなったわ。心配してくれてありがとう」
「おお、アンネリカ。やっと来たか。イザベラがもうお見舞いに行くなって言うからさ!ずっと心配していたんだぞ」
後ろから話しかけていたのはアンドレだ。
「アンドレもありがとう。もうすっかり良くなったわ。そうだ、お見舞いに来てくれたお礼に、お菓子を作って来たの。後で食べてね」
2人に朝作ったお菓子を渡す。
「気を使わせてごめんね。別に良かったのに」
「俺はめちゃくちゃ心配したんだから、有難く頂くぞ。イザベラ、要らないなら貰ってやるよ」
「要らない訳ないでしょう!貰うわよ」
2人のやり取りを見るのも久しぶりだ。つい笑顔が漏れる。その後授業が始まった。久しぶりに受ける授業もなんだか新鮮ね。
授業も終わり、休み時間に入った時だった。
「アンネリカ・フローレスは居る?」
特待クラスの令嬢が4人私を訪ねて来たのだ。ちなみに貴族学院では、授業と授業の間に20分間の比較的長い休み時間が設けられている。
「何かご用ですか?」
私は慌てて彼女たちの元へと向かった。
「ちょっと話があるの、来てくれるかしら」
4人に連れられて向かったのは、校舎裏だ。
「あなた、伯爵令嬢の分際で最近調子に乗りすぎよ。そもそもディラン様とあなたは、ただの協力者とカサンドラ様から聞いたわ。それなのにカサンドラ様を差し置いて、あんな高価なドレスや宝石をディラン様にねだるなんて、どういう神経をしているの?」
どうやらカサンドラ様の取り巻きの様だ。それにしてもカサンドラ様、彼女達にも私たちの関係を話しているのね。あまり公にしない方がいいと思うのだけれど…
「ちょっと、人の話を聞いているの?」
私が返事をしなかった為、どうやら怒りに触れてしまった様だ。
「本当に生意気な女ね」
1人の令嬢はそう言うと、手を振りかざした。叩かれると思って目を閉じたのだが…
誰かに後ろから抱きしめられた。
「君たち、俺の可愛いアンネリカに一体何をしているのかな?彼女が俺の恋人と知っていて、こんな事をしているのなら、こちらもただじゃおかないよ」
後ろを振り向くと、笑顔だが明らかに目が笑っていないディラン様が、私を抱きかかえて彼女たちを見つめていた。
「ディラン様、彼女はただの協力者なのでしょう?カサンドラ様からそう聞いておりますわ」
さすが高貴貴族、公爵令息のディラン様にもしっかり言い返している。
「カサンドラが何と言っているかは知らないが、アンネリカを傷つける者は誰であろうと許さない。もしアンネリカにこれ以上何かするのであれば、それは公爵家への侮辱ととらえ、各家に抗議させてもらうからそのつもりで。今回だけは見逃してあげるが、次はない!分かったら失せろ」
優しいディラン様が明らかに怒っている。さすがの令嬢たちも、悔しそうな顔をして去っていた。
「アンネリカ、大丈夫か?怪我はないかい?」
「はい、ディラン様が助けてくれたので大丈夫です。ありがとうございます」
「それは良かった。さあ、もうすぐ授業が始まるよ。教室に戻ろう」
ディラン様のエスコートで、無事教室に戻ってきた。教室に戻るや否や、イザベラとアンドレが私の元へ飛んできた。
「アンネリカ、大丈夫だった?特待クラスの令嬢たちに連れて行かれた時は、どうなる事かと思ったけれど。無事戻って来て良かったわ」
「イザベラ、ありがとう。ディラン様が助けてくれたのよ。もしかして、2人がディラン様を呼びに行ってくれたの?」
「いいや、俺たちは特待クラスには入れないから呼びに行っていないよ。でも、今後もこんな事が起こるだろうから、やっぱり公爵令息の恋人役は辞めろよ」
アンドレは私の肩を掴み、説得するようにそう言った。きっと私の事を物凄く心配してくれているのだろう。
「ありがとう、アンドレ。でも大丈夫よ。私は辞めないわ」
もう後少ししかディラン様と居られない。今辞めたらきっと後で後悔する。たとえどんな嫌がらせをされてもね。
その後も何度か特待クラスの令嬢に呼び出されたりもしたが、なぜか絶妙なタイミングでディラン様が現れ、事なきを得た。そしてディラン様は令嬢たちに警告した通り、彼女たちの家に抗議文を送ったようだ。
彼女たちは侯爵令嬢、身分は私よりずっと高いが、ディラン様よりかは低い。そのため、公爵家から正式な抗議文が行った事で、さすがに大人しくなった。最近では特に嫌がらせをされることも無くなり、平和に過ごしている。
何だかんだで卒業まで1ヶ月となったある日。
図書室に恋愛小説を返しに行く為、1人で歩いていた時に事件は起きた。階段を降りようとした時、誰かに突き飛ばされたのだ。
「キャーーーー」
悲鳴と共に、階段から転がり落ちていく。幸い頭は打っていないようだが、体が痛い。さらに足をひねった様で、立ち上がることも出来ない。
「アンネリカ、大丈夫か?」
私の元へ駆けつけてくれたのは、アンドレだ。
「アンドレ、来てくれたのね。ありがとう。実は足をひねっちゃったの…」
「何だって!大丈夫か?」
「ええ、多分大した事はないわ」
アンドレがあまりにも心配そうな顔をするので、安心させようと笑顔を見せた。でもやっぱり痛いけれどね。
「アンネリカ、誰かに突き落とされたのだろう?さっき逃げていく令嬢が見えたんだ。なあ、アンネリカ。もう辞めよう。このままだとお前が殺されるかもしれない。頼むよ、もう辞めてくれ!」
いつも冗談ばかり言っているアンドレが、珍しく真剣な表情をしている。
「ありがとう、アンドレ。でも、私は辞めるつもりはないの。ごめんね、アンドレ」
いくら親友の頼みでも、こればっかりは聞けない。
「アンネリカ、俺は子爵令息で力もない。だから、ずっと黙っておこうと思っていた。でも、もう我慢できない。ずっとアンネリカが好きだった。お前が笑って過ごせるならと思っていたが、こんな酷い事をされているお前をもう見たくないんだ。なあ、俺と隣国に逃げないか?お前は家の事も出来るし、個人財産なら少しは持っている。隣国へ逃げて2人で暮らそう」
そう言うと、アンドレは私をギューッと抱きしめた。初めて知った親友の気持ち。アンドレは私にとって、かけがえのない人。でも…
「アンドレ、ごめんなさい。家族を捨てて、隣国に私だけ逃げるなんて出来ないわ。それに、アンドレは私にとって、大切な友達なの。だから、あなたの気持ちに答える事はできない。本当にごめんなさい」
アンドレの腕から抜け出ると、自分の気持ちを伝えた。
「知っている。でも、どうしても伝えたかったんだ。ごめん、アンネリカ。これからも友達でいてくれるか?」
「もちろんよ」
私の答えに少し寂しそうに微笑むアンドレ。私もアンドレに微笑み返した。アンドレ、ごめんね。私、あなたの気持ちに全く気付いていなかったわ。私はいつも自分の事ばかりね。気持ちには答えられないけれど、ずっと友達でいてね。
「話は済んだかい?」
声の方を振り向くと、そこにはディラン様が居た。
「アンネリカ、階段から突き飛ばされたみたいだね。大丈夫かい?さあ、医務室へ行こう」
ディラン様はそう言うと、私を抱きかかえた。
「君も、アンネリカを心配してくれてありがとう。後は俺が見るから大丈夫だよ」
アンドレに語り掛けるディラン様。なぜか固まっているアンドレ。そんなアンドレを置いて、ディラン様は医務室へと連れて行ってくれた。
診察の結果、捻挫との事で薬を塗り包帯を巻いてもらった。今回は大した事なくてよかったわ。なぜか治療中もギューッと私を抱きしめて離さないディラン様。ずっと怖い顔で何かを考えているようだ。
きっとまた私が怪我をしたから、心配してくれているのだろう。卒業まで後1ヶ月、もしかしたらもっと酷い事が起きるかもしれない…
そんな不安を何とかかき消そうと必死なアンネリカであった。
次回、アンドレ視点です。
よろしくお願いしますm(__)m




