ディラン様のお誕生日当日を迎えました
ハンカチは買ったものの、どんなデザインが良いかしら。う~ん…
そうだわ、ディラン様は確か剣が得意だったわよね。剣とディラン様に似せた騎士をモデルに刺繍を入れよう。もう1枚は、動物がいいわ。確か獅子が好きと言っていたから、獅子の刺繍にしましょう。
せっかくなら、公爵家の家紋も入れたら素敵ね。よし、いきなりハンカチに入れて失敗すると嫌だから、まずはぼろ布に刺繍を入れていこう。
その日から、家に帰ると部屋に閉じこもり刺繍を入れる日々を送った。もちろん、ディラン様との放課後のティータイムには出来るだけ参加したわ。だって、ディラン様との貴重な時間ですものね。一緒に居られる時は一緒に居たい。
刺繍を入れ始めてから2週間が経った。ぼろ布に入れた刺繍がやっと完成したのだ。早速学院に持って行き、イザベラとアンドレに見せた。
「2人共見て、とりあえず練習用に作ったんだけれど、どうかな?」
「へえ、さすがアンネリカ、めちゃくちゃ上手に出来ているわ。まさにプロね」
「確かに凄いな!こんな細かいの、よく出来るな。一体どうなっているんだ」
私が入れた刺繍を手で触りながら、不思議そうな顔をしているアンドレ。
「本当にアンネリカは凄いわよね。これならきっとディラン様も喜んでくれるわよ」
2人に太鼓判を押してもらい、俄然やる気が出て来た。残り後2週間程度しかない。張り切って刺繍を入れなくちゃね。
早速家に帰ると、引き出しに大切にしまってあったハンカチを取り出す。これからが本番だ。1枚15ディールもするんだもの。絶対に失敗は出来ないわ。
いつも以上に慎重に刺繍を入れていく。慎重に入れる為、いつもの倍ぐらいの時間が掛かっているが、焦りは禁物よ。とにかく丁寧に慎重に入れなきゃね。
何だかんだで、あまり時間がない。夜遅くまで刺繍を入れる日々が続いた。
「アンネリカ、今日は顔色があまり良くないね。大丈夫かい?」
寝不足7日目、校門で待っていたディラン様に顔色が悪いと指摘されてしまった。
「大丈夫ですわ。少し寝不足なだけですし。体はこの通りピンピンしていますわ」
腕を上下に動かし、元気ですアピールをする。
「アンネリカ、やっぱり顔色が良くないね。先生には俺から話を付けておくから、今日はもう家に帰るといい。もちろん、俺が伯爵家まで馬車で送っていくからね」
そう言うと、私を抱きかかえようとするディラン様。
「いいえ、本当に物凄く元気ですので大丈夫です!さあ、早く教室に行きましょう」
ディラン様をスルリとかわすと、急いで教室へと向かう。
「待ってアンネリカ」
ディラン様に腕を掴まれた。
「アンネリカは頑張り屋さんだね。でもやっぱり心配だから、休み時間は様子を見に来るよ。さあ、教室に行こうか」
最近なぜか物凄くよく構ってくれるディラン様。もしかしたら、また王太子殿下に疑われているのかしら?きっとそうね。だからこんなに、ラブラブアピールをしてくるのだわ。私も今まで以上に頑張らなきゃね。それにしても眠いわ。
その日、ディラン様は朝言った通り、休み時間のたびに私の様子を見に来た。
「ディラン様、さすがに休み時間のたびにいらっしゃるのはどうかと思いますよ。あなたは特待クラスの人間なので、とても目立ちますからね」
お昼ご飯を食べている時、やんわりと伝えてみた。もちろん、ディラン様に会えるのは嬉しいが、休み時間はイザベラやアンドレとも過ごしたい。
そう思ったのだが…
「君が心配させるから悪いんだよ」
そう言うと、私のおでこに口付けを落としたディラン様。
え?今何した?
周りからも小さな悲鳴が聞こえる。私は恥ずかしくて、顔が真っ赤なのが自分でもわかる。さすがにこれはダメだわ。私の心臓が持たない。
「ディラン様、さすがに、く…口付け…は、やりすぎでは…」
“口付け”という言葉に反応してしまい、さらに顔が赤くなるのがわかる。
「アンネリカ、俺たちは周りから恋人同士と思われているんだよ。これくらいの事、普通だ」
耳元で囁くディラン様。この人にとっては普通かもしれないが、私には刺激が強すぎるのだ。でも、これ以上抗議する元気もない。とりあえず次にされそうになったら、それとなくかわそう。
そしてその日の放課後、用事があると言う理由でお茶を断り、急いで家に帰ってきた。ディラン様にかなり強引に馬車に乗せられそうになったが、元気アピールをして何とか走って帰ってきたと言う訳だ。
とにかくもう時間がないわ。急がなくっちゃ。でも、寝不足だとディラン様にまた心配されるといけないから、睡眠時間はしっかり確保しよう。
残り1週間、必死に刺繍を入れた結果、何とかギリギリ完成した。
そして迎えたディラン様のお誕生日当日。きれいにラッピングで包んだハンカチを持って、学院へと向かった。今日はいつもより早起きして、お弁当もいつもより豪華目に作った。
私にはこれくらいしかできないけれど、ディラン様、喜んでくれるといいな。でも、ただの恋人役からこんな事されたら迷惑かしら?一抹の不安を抱きつつも、大丈夫よ!大丈夫!と、何度も言い聞かせた。
ちなみにハンカチはお昼ご飯の時に渡すつもりだ。いつも通りディラン様に教室までエスコートしてもらい、自分の席に着く。
「アンネリカ、刺繍は間に合ったの?」
席に着くなり話しかけてきたのは、イザベラだ。
「ええ、何とか昨日の夜完成したわ。ディラン様、喜んでくれるかしら」
「もちろん喜んでくれると思うわ。だって、アンネリカがあんなに一生懸命刺繍を入れたんですもの」
にっこり笑うイザベラ。彼女の顔を見ていたら、なんだか私もそんな気がしてきたわ。
そして迎えたお昼。いつもの様に、ディラン様と中庭でお弁当を一緒に食べる。
「アンネリカ、今日のお弁当はいつもより豪華だね?どうしたの?」
「ディラン様、17歳のお誕生日、おめでとうございます。これ、大したものではないのですが、プレゼントです」
「これ、俺に?開けても良いかな?」
「もちろんです」
ラッピングをゆっくり外していくディラン様。緊張の瞬間である。
「凄い、めちゃくちゃ素敵な刺繍が入ったハンカチだね。これ、結構高かったんじゃないの?」
我が家の貧乏っぷりを知っているディラン様。お金の事をどうやら心配してくれたようだ。
「刺繍は私が入れたので、そんなに高いものではありません。あの、気にいっていただけましたか?」
不安になり、つい気にいったか?なんて聞いてしまったわ。
「この細かい刺繍、アンネリカが入れたのかい?本当に?もしかして、最近寝不足だったのは、この刺繡を入れていたせいなのかい?」
「はい…お恥ずかしい限りです」
次の瞬間、思いっきりディラン様に抱きしめられた。
「アンネリカ、ありがとう。今まで生きて来た中で、こんなにも嬉しい誕生日プレゼントは初めてだよ。このハンカチは我が家の家宝として飾っておくよ」
「ディラン様、大袈裟です。せっかくなので、使っていただけたら嬉しいです」
「わかった、アンネリカがそう言うなら、大切に使わせてもらうよ。本当にありがとう」
にっこり微笑むディラン様。どうやら喜んでもらえた様で、良かったわ。
「そうだ、アンネリカの誕生日には、俺が盛大にお祝いするよ。何か欲しいものはあるかい?遠慮することはない、何でも言ってくれ」
「私の誕生日は卒業式の次の日です。その頃には、ディラン様はもうこの国にはいらっしゃらないでしょう?」
私の誕生日には、ディラン様はカサンドラ様と隣国に駆け落ちした後。私ももちろん、隣国のオヤジの元に嫁いでいる頃だろう…
「アンネリカ…すまない…」
申し訳なさそうに謝るディラン様。
「気にしないでください。これが私たちが交わした契約ですから」
「契約か…」
そう、契約だ。卒業すれば、私たちはそれぞれの道を歩む事になる。でも、それまではディラン様と一緒に居たい。
「ディラン様、だから私の事はあまり気にしないでください!さあ、お弁当を食べましょう。お昼休みが終わってしまいますわ」
私うまく笑えているかな、きっと笑えていないかもしれない。それでも、今日ディラン様のお誕生日を祝えた事は、私にとってとても幸せな事だ。
卒業までの限られた時間、一生分の思い出を作ろうと改めて思ったアンネリカであった。
次回ディラン視点です。
よろしくお願いしますm(_ _"m)




