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灰と霧の森  作者: 深見和希
第一幕 長い夜の終わり
5/5

5 子離れ(3)

一部、不快だと思われるような表現があります。ご注意下さい。

 杖の先が一瞬光ったかと思うと、杖はいきなり燃え出した。


「焼き殺してあげる、ファイア…」


「キャンセル」


アイリスは冷静にそう呟いた。出かけていた炎は、小さくなり消えてしまった。

 そして、何故か他の魔法が使えない事にその女は気付いた。


「あれ、何で出来ないのよ!一体、何したの!?」


「お前、早く始末しろよ!アイツ気絶してるぞ!」


アイリスが胸倉を掴んでいる女は、白目を剥いていた。彼女は魔法の力でこの女の心臓を強く掴んだ。対象を見て、その様子を想像し強く願うとこの魔法が使える。しかし、この魔法は力加減で簡単に人を殺せてしまうので、彼女はこれまでこの魔法を使った事は無かった。

 …つまり、彼女はそれだけお怒りだという事だ。


「野朗!ぶっ殺してやる!」


 男二人がナイフを持って走ってくる。彼女はその女を気絶させて、手から離した。彼女はそれをひょいとかわすと、先程の魔法を使って気絶させた。片方の男は吐血した。

 あとは女一人だけとなった。彼女はフードを脱いで、その女を睨んだ。


「あんた、その目は…魔女なの!?」


「うっかり、魔女の石に触れてしまったので今は呪いと共に生きていますよ」


 女は気持ち悪い笑みを浮かべて言った。


「あんたが魔女だって事、この町の奴らに言いふらしてやるから!」


彼女はとうとう我慢ならなくなって、その女を思いっきりぶった。チルガの分と自身の分とで往復した。


「これは私の分!」


パチン!


「…そしてこれはチルガの分!!」


パチィン!!


良い音が二発響いた後、その女は倒れ込んだ。


「…ぜ、絶対に言ってやる!こんな事してただで済むと思わないで!パパはこの町の権力者なんだから!」


「…彼女は何もやましい事はしていない!!!言うなら言ってみろ!!!わしが証言者だ!!!」


店主が大声で叫んだ。その女とアイリスは、店主が発言するとは思っていなかったのでびっくりして、その方を見た。


「…わしからすれば、お前らが悪人だ!!!何が何であれ、子供を誘拐して売買するなんていうことは許されない!!この件は保安庁に連絡させてもらうからな!」


「ま、まって。お金なら払うから!許して!パパが失脚しちゃう!!」


「今更許すか。お前は、ここに白目を剥いて落ちてる三人と仲良く豚箱行きだぜ。地獄へ堕ちろ」


「…ただのお小遣い稼ぎだったの!パパが、お小遣い減らすって言うから…」


今度はアイリスが話に噛み付いた。


「何でもパパの所為にすれば、許されるとでも思ってるの!!??子供達はね、あんたらの所有物でも親の所有物でも無いの!!あんた、良い大人でしょ!!!」


「…パパは私の味方してくれるもん!あんたなんかパパが、潰してくれるから!!」


「…じゃあ、言えば?」


 アイリスは店主とアイコンタクトしながら言った。その目には、計り知れない怒気が潜んでいた。

彼らは既に結末が分かっていた。

 その女は立ち上がると、通りに向かって走って行った。

 彼女は振り返って、倒れているチルガに近寄った。抱き抱えて様子を確認する。僅かに寝息を立てていた。


「良かった。眠ってるだけみたい。ごめんね。やっぱり行かせるべきじゃなかった…」


「いや、少年は素晴らしく賢かったぞ。知らない者にはついて行かない。しかも、言い寄られてもしっかり断っていた…。お主の育て方が良いからだろうな。でも心配だから、透明化を使って後をつけていたんだろう?」


「はい。…それにしても、先程はありがとうございました。あんなに言うとは」


 店主は鼻の下を指で擦りながら言った。


「なぁに。アイツらは屑だからな。あんなのはガツンと言ってやらなくてはいけないんだ」


二人は、転がっている三人を見た。未だに白目を剥いて気絶している。

 やりすぎたかと彼女は思ったが、深く気にしない事にした。


「これ、どうします?」


「わしが保安庁に通報しておく。お主は少年と一緒に家に帰りなさい」


店主は優しい顔で答えた。


「はい。ありがとうございます!それでは」


 彼女はフードを被り直し、寝ているチルガを抱っこして通りへ向かって歩き出した。

 大勢の人々が行き交っていた。門を出て、草原の中の道を歩いていく。チルガは目を覚ました。


「…あ、あれ、お母さん…?」


「そうだよ」


「…お使いは…?」


「…ありがとう。ちゃんと三個買えたね、黄銅石」


「…疲れちゃったのかなぁ、ぼく」


「きっとね」


 二人は森へ帰って行った。湖畔沿いにある我が家へ。

 そして後日。彼女は風の噂で、あの女が捕まった事を知った。あんなに信じてくれると言っていたパパに裏切られたようだ。家を勘当され、パパにお前はもう娘じゃない!と言われ、挙げ句の果てに王都のロリコンショタコンの変態貴族に、誘拐した子供達を売りつけていた事が分かり、逮捕される際にこの女はもう娘ではないので、どうするかは好きにして下さいとそのパパは発言したらしい。

 その女は逮捕されてからどうなったかは不明だが、同等の刑なら保安庁職員の専属奴隷にでもなって、今頃…。

 いや、やっぱりこの話はやめておこう。まぁ、そんなわけであの町には平和がやってきたのであった。

 






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