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灰と霧の森  作者: 深見和希
第一幕 長い夜の終わり
4/5

4 子離れ(2)

天気は快晴だった。明るい日差しが草原に降り注いでいる。チルガは相変わらず、黄銅石の名を忘れずに連呼しながら道を歩いていた。

 遠くに町が見えているので、もう少しで着くだろう。アイリスは彼が心配なので、何が起こっても大丈夫なように魔法が使えるように構えた。王都などに比べればただの小さい田舎町だが、児童の人身売買を行う組織が存在しているといった噂もある。悪党は何処に居るかは分からない。

 チルガは町の門をくぐって、町に入場した。大きな建物、たくさんの人々が居る事がとても新鮮に感じた。これまで遠い森の中で母親と二人で暮らしていたので、好奇心と興味が湧いていたのだ。町ってどんな所なのだろうかと。


(…あ、おーどーせきを買いに来たんだった)


 本来の目的を思い出し、彼は鞄からアイリスに描いて貰った地図を取り出した。どうやら、この門付近に商店はあるようだ。地図を見ながらチルガはその場所へ向かい始めた。アイリスも、彼についていく。同時に彼女は彼に対するねちゃりとした嫌な視線を感じた。嘗め回すような、気持ち悪い視線だ。


(…露店の角に男二人、女二人ね…)


 彼女は視線を向けている集団を見つけた。その集団は、高価そうな服を着ていた。仕立てが良く見えるからもしかしたら…、と考えていた。そして何か話している。

 彼女は人混みの中を歩いていくチルガを追った。その集団も後をつけて来ている。狙いはあの子で間違いないと思い、警戒を強めた。チルガはそんな事は知らず、無邪気に店へ向かっていた。

 細い路地を通って奥へ行くとその店はある。


(あった。ここかな?)


「やあ、少年。どうしたんだい?道に迷ったのかい?」


剛毛な髭をはやした店主が出てきた。とにかく話が長いので、冒険者からも避けられている。だが素材の見極めは素晴らしく、上質な物だけを仕入れているので彼女はよくこの店を使っていた。


「えっと、おーどーせーきを買いに来ました」


「おーどーせき?あぁ、黄銅石か。これだろう?」


チルガの目の前に黄色い鉱石がごろんと置かれた。


「何個欲しい?」


「…三個ください」


「お金は持ってる?」


チルガは鞄から銀貨を取り出して、目の前に置いた。店主は枚数を数えた。


「よし、ちょうどだな。ほら黄銅石だよ」


チルガはそれを受け取って、鞄にしまった。ずっしりと重く感じた。同時に達成感を感じて、微笑んだ。


「ところで少年。何故、鉱石が必要なんだ?君のような子供にはまだ用途がないだろう?」


「お使いで買いに来ました」


「あぁ、お使いか。なら少年、悪いことは言わん。この町を早く出た方が良いぞ」


「なんでですか?」


「実はだな、子供を誘拐する悪い人達がいるんだ。行方不明になった子供も多い。わしは裏世界に精通しててだな、そういう情報も流れてくるんだ」


 アイリスはその様子を見聞きしてどきりとした。あの噂は本当だった。その時、チルガの背後に四人の人影が現れた。


「やぁ、ぼく。こんな所で何してるの?」


あいつらだ。おそらく子供を誘拐しているグループだろう。アイリスはその四人に殺意が湧いた。このアハズレの顔に飛び蹴りをしたく思った。


「お使いに来たの」


「そっかぁ、お使いかぁ。お兄さんたちと遊ぼうぜ。美味しい菓子もたくさんあるぞ」


男が続けて言う。その顔には笑みがこぼれているが、その奥には邪悪な本性が垣間見えた。店主がイラつきながら言った。


「お前ら、いい加減にしろ!」


「あれ、おっさん。そういう事言っていいの?」


 女は杖を突き付けて脅した。残念なことにそれは、アイリスが作ったものだった。店主は仕方なく黙った。


(このガキも連れてって売るか…)


「じゃあ、行こうか」


「いや、僕はお母さんの所に戻らなくてはいけないので」


その場の全員、きょとんとした。これまでにさらった子供はちょろかったのだろう。


「美味しい菓子もいっぱいあるよ」


「僕はお母さんのご飯が一番好きなので」


「いやでも、楽し…」


「僕はもう十分楽しいよ」


アイリスはチルガを抱きしめてあげたいと思った。私の料理が一番好きだって言うなんて、なんて愛おしいのだろう。それに、知らない人についてっちゃ駄目だって分かっている賢い子だとも思った。


(…チッ、眠らせてからさらうか)


 女は杖をチルガに向けた。


「眠れ」


チルガはすとんと倒れてしまった。あいつらは下衆な笑いを浮かべていた。ここで、アイリスは堪忍袋の緒が切れた。透明化魔法を解いて、その女の胸倉を掴んだ。


「な、何だ!この女は!?」


「私はこの子の母親です。話は聞いていましたよ。あんたらが子供をさらっている組織だってね!」


「チッ、知ってしまったなら殺すしかない」


「この子は眠ってしまったので、汚いものを見せずに済みますよ」


「あぁ!?あんたみたいな女、瞬殺よ!」


 女は杖を構えて呪文を唱えはじめた。


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