3 子離れ(1)
彼女はチルガを寝かしつけて、魔法の研究に没頭した。作成した魔法道具を町の冒険者に向けて、売って生計を立てているのだ。彼女が作成した道具は高能で品質も良い為、よく高値で売れた。使いこなせるかは、その冒険者次第だが。
作成の為には素材の収集が欠かせない。運良く、周辺の森には豊富な植物や鉱石が存在しており、高品質な魔法道具を作成するのには充分だった。町に売りに行く時はフード付きの服を着て、匿名で商人に会っていた。魔女の証拠である目を見せたくなかったのだろう。魔女である事が分かれば、迫害されるかもしれない。
そして現在は高等魔術師向けの杖を作成していた。素材は足りていた筈だったのだが、黄銅石という鉱石が2個半足りなかった。黄銅石はこの森でも殆ど落ちていないので、町まで買いに行く場合が殆どだった。
「また買いに行かなきゃ…」
彼女は町に行く事が好きではない。しかし、チルガの為だと言い聞かせていた。あの子にひもじい思いをさせてはいけない。彼女は灯りを消して水浴びをする為に、風呂場へ向かった。
脱衣所で着ていたローブを脱いで、湯船に浸かった。因みにこの風呂も火の魔法で沸かしている。
(…ところで、チルガの本当の親ってどんな人なんだろう…?)
不意にそんな疑問が頭をよぎる。彼女は赤髪だが、チルガは茶髪だった。茶髪の巨乳美女の像が思い浮かんだ。
(…胸…)
彼女は自身の胸が小さいので、それをコンプレックスに思っていた。
そんな事を考えながら、彼女はしばらく水浴びをしていた。
次の日の朝食時、彼女はチルガに言った。
「お母さん、朝ご飯食べたらちょっと町まで買い物に行ってくるね。お留守番出来る?」
チルガは驚いた顔をした。
「…僕、お使いに行きたい!」
アイリスはきょとんとした。彼女は心配性だった。誘拐されないか、盗賊に襲われないかとか。
「…町まで結構あるよ。危ないよ」
「お母さん、昨日も夜遅くまでお仕事してたでしょ。疲れているだろうから、僕が行くよ!」
なんていい子…という感動と心配が絡み合って複雑な気持ちになった。
「…いや、でもね…」
「行くよ!」
目をキラキラさせて、そう言うチルガに彼女は根負けしてしまった。町に行かせるのも社会勉強だと自分に言い聞かせた。
「…じゃあ、森の入口までは私が送るよ」
「やったぁ!」
チルガは町に行った事がないので、とても喜んでいた。
朝食のパンを食べ終え、彼女はチルガを着替えさせた。よそ行きの服に。そして小さめの鞄を持たせた。その中に黄銅石の代金分のお金を入れた。
「…さぁ、行こっか」
テレポートを使って、森の入口まで移動した。魔女になってからは、殆ど全ての魔法を使えるのだ。
「良い?黄銅石っていうのを、町の此処にいるおじさんから3個買って来てね」
彼女は紙に書いた地図を見せて言った。
「分かったよ。…それじゃあ、行ってくるね!」
「いってらっしゃい…」
彼女はチルガに手を振った。胸が締め付けられそうな程、心配していた。
本当に大丈夫かな…?と思ったので、彼女は透明になる魔法でこっそり後をつけて行く事にした。これは愛する我が子を守る為!正当な行為だ、と心の中で念じていた。
「…おーどーせき…おーどーせき…」
チルガは忘れないように口ずさんでいた。あぁ、なんて可愛いんだろうと彼女は思い、自分が子離れしなくてはならないとも思った。