(1):専属護衛
「姫様、そういえばラグナス様が帰っていらっしゃったそうですよ」
そう言いながら、いい香りのする紅茶を入れてくれたのはさらりとした綺麗な金髪を肩の辺りまで伸ばした青年だ。
今日はとてもいい晴天で、テラスの窓から指す日差しがあまりにも気持ちが良すぎてついウトウトし始めていた少女は少し驚きながら目を瞬いた。
少し考え事をしていただけだったのに、まさか昔の夢を見るなんて・・・。と、声を出さずに小さな溜息をつく。
幼い頃からの約束を忘れたことなど一度もない。
当たり前のように記憶にずっと残る言葉。
今となってはもうあまり守れていないけど。
と、少しだけ謝るように目を伏せる。
今は亡き母との約束はある時まではずっと守ってきた。
不可抗力での行事や国王である父の関与で仕方なく行動せざるおえない場合以外は自分から極力関わり合わないようにしてきたのだ。
けれど、もうその約束を交わしてきた母もいない。
給仕をしてくれる青年に視線を向けた後、先程入れてもらったばかりの紅茶を手にして香りを嗅ぐ。
「やっぱりシャルが入れてくれるお茶が一番ね」
口に含むといつもと変わらず美味しい紅茶の味に自然と頬が緩んだ。
太陽の光を浴びてキラキラと輝くような髪を持つ彼の名はシャルル・ベルナール。
王女である自分よりも、ずっと王族らしい外見だと少女は思う。
シャルルはファルエン国のベルナール侯爵家の出身で、ベルナール侯爵家から何代か前に王妃として王族入りした者もいるはず。
だから家系譜を辿れば遠い親戚でもあるのだろうけれど。
そんなふうに少女が思いを馳せていると、シャルルは少女に対してにこやかに笑みを返した。
本来ならシャルルはこんなメイドや側仕えのような給仕をする立場にないし、むしろ侯爵家の息子として侯爵家の家で誰かに給仕をしてもらえる立場だ。
まして執事でもない男の人がこんなことをすることもありえないし、護衛として王女の側にいることは許されるのは騎士であるが、普通の騎士は給仕をしたりはしない。
何より、シャルルが着ているのは騎士の服装でもなければ執事の格好でもない。
身分通りに貴族の普段着というような服を着こなしているシャルルは本当によく似合っている。
そんな彼がどうしてこんなことをしているかというと、それは彼が特別だから。
正確には彼等が、だけど。
特別なのはもう一人いる。
もう一人、シャルルの相棒は今ちょうどこの部屋を留守にしていた。
彼にはちょっとしたおつかいを頼んでいるからだ。
無条件で心を許せるたった二人の専属護衛。
「只今戻りました」
するとお使いに出ていた、もう一人が帰ってきた。
その手には大量の本が抱えられている。