売られた喧嘩は負けない!負ければ成仏か、はたまた……。玉子
コロコロ、ころころ……吸い込まれた二つの玉子、その行方を地上から見るべく、ゲンナイは『透かし眼鏡』をかけると、百合子達が姿を消してしまった為、ざわざわとその場を立ち去る中、じっと硝子越しに空を見上げていた。
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あぁ……、どうしましょうと百合子は恥じらう。ナラズモノが蠢いている、それも八百八町中のソレが、全てここに集まったかの様な数。巨大な『場』が創り上げられている。
これらを全て滅しないと、元の世界に戻ることは出来ない、闘わなければならない。しかし何時もの様に、着物の裾を絡げるのをためらってしまう。
「な!何だ!ここは……うぉぉー!目の前にナメクジの集団が、おわ!後ろ!これが『ナラズモノ』かよ!」
『恋仲、恋仲、羨ましい、外ナリタイ、なりたい、カワッテミタイ……、身体をヨコセ!』
ああ……、丈太郎の前で裾を絡げるなんて、恥ずかしくてできない、でも動けないと負けてしまう、負ければ……恥じらいと取り巻く状況が、百合子の心で拮抗をし、彼女は心を決める。
何時もの様に着物の裾を絡げ、巾着の口を開くと彼女の得物を取り出した!その様子を目を白黒させて見る丈太郎、闘いを目の前にした、百合子の姿。
紅色の唇、身体から立ち昇る乳色の熱気、黄金を宿した眼の光……ふぉぉぉ綺麗!と釘付けになっている。蠢くナラズモノは、ジリジリと、彼女達との距離を詰めてくる。
「……、そんなの嫌だわ、私は負けない!勝ってここから出る!弥助!行く!数が多い、後は……任せた」
「……!お嬢、御力を、しかし……仕方ありませんな、あっちは、大丈夫なんですかね……あの男既に開放してますが……」
目を真紅を宿している弥助は、共に、ここに来た若君御一行の様子に目を向けた。三人の護衛は、具合でも悪いのか酷く動きが悪く、放つ熱量が圧倒的に少ない。一体浄化する度に、かなりの力を使ってしまうのか、足元がふらつき弱って行く様子が見えていた。
「ふお!お前ら!少し数が多いと使いもんに、ならんのかよ!ああ!ママ上!ママ上ぇ!ふおぉ!僕ちんに来るなぁ!アッチに行けぇ!」
真っ赤かな光を宿している若君、彼の武器であるサーベルを抜き、ぶんぶんと振り回している。銀の刃に彼の手から、直接熱が伝わり、ましろな光を放っている。それなりに力はあるのだが、実戦をこなしていない彼は、ナラズモノ達に手こずる。
ヒシュ!ヒシュ!ヒシュ!と礫が若君めがけて放たれ!それをあわわ、あわわと必死で避けていたが、足元がもつれて転んでしまう若君!母親の悲鳴が上がる!
「きゃぁ!僕ちん!そこのナメクジ!僕ちんに何を!なに!私に喧嘩を売ろおっての?おだまりー!」
可愛い息子を守るため!母親の額が開く!鈍い『中紅』瞳と共に色の星が宿る。口から吐く白の息!手に宿る熱!それをそのままブヨブヨとしたナラズモノに叩きつけた!
母の母なる愛の一撃!強烈な張り手と共に、ジュ!と音がし消えるナラズモノ、ズルリと音立て一度間合いを取るため引くナラズモノ達、そして礫を次々に放ってくる!
「きやぁ!僕ちん!僕ちん!」
クルルくるると、踊らされる如く逃げ回る母親、頭を抱えてうずくまっている若君。
その中で玉子は、かたかた、カタカタと揺すりながら、様子を伺う素振りを見せている。
「お!お前らぁ!僕ちんを守れぇぇ!あ!ああ……なんで消えちゃうのぉぉ!僕ちんの護衛ー!」
なんとも情けない主の命に従い、彼に覆いかぶさった護衛達は、盾となり礫を受けてしまう、一人二人と次々にサラサラと解けて砂となり消えていく……。残された親子!
「ママ上!」
「僕ちん!僕ちんはママ上が守るわ!こんなナメクジモドキに、負けてなるものですか!」
ウゴウゴと二人に近づくナラズモノ、カタコト、カタコト……、玉子が動いている。ピシピシ……!とヒビが入る!シュウシュウと蒸気がそこから吹いてきた!周囲のナラズモノが熱にヤラれて『浄化』していく……。
………何やら面白い事になっている、あのご客人の匂いがまたする……、一つの『場』の中で有りながら、敵対するモノは完全に二つに別れているのか……、それならば一掃するには、弥助は力を高めながら策略を練り上げていく。
ひび割れた玉子の白い色が、いぶし銀の輝きに満ちる。その様子を地上でゲンナイが目を細めて見ている。
……哀れな親子がいた。二人は……隠れるように花街の外れにある貧困街、どぶ板通りに住んでいたという。
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―――「かあ、さま、かあさ、ま、どうして、こうなるの、何も悪いこと……、していないのに……苦しいよ……」
「ごめんなさい、ね、ごめんな、さいね、ああ……どうして……、どうし……てなのかしら、ど、うして」
暗い闇の中で息子の細い声。二人して流行りの風邪に当たってしまった。薬も無い、それどころか食べ物も、苦しい息の中、優しい息子は、何もできない私を案じてくれる。
「か、あさま、元気、になっ……たら……大人に、なったら」
賢いといわれている我が子……羨んではいけない。羨んではいけない。思いを抱いて死ねば『ナラズモノ』に堕ちてしまう。墜ちてしまうけど……。熱が高い、ヒュウヒュウと、喉が細くなったのか息が入って来ない。息子も……、ああ……ああ……苦しくて……哀しくて、悔しい……。
蜂蜜色の月の夜、フラフラと呼ぶ声に引かれて行けば、男に聞かれた。悔しくないのかと、
『手を貸してやろうか、旦那さんとやらは……イイと言っておるぞ、そもそもそち達が……、乗っ取られたと聞いてはいる……真っ事『ナリカワリ』とは、生者の世にもあるのだな……』
男は私にそう問いかけた。哀しくてそして……イイと言った事に、私はときめいた。親子して、あちらに向かおうとしていたけど……男に全てを任した……。
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「フム、上手くやれよ……」
ゲンナイが空を見上げてつぶやいている。ちちち、ちゅぴ、とふくふく、膨らんだ雀が彼の元に、ツイッと降りてきた。
―― ピッ!シュッ!音が立つ、それはナラズモノが放つものとは違う音。
ゲンナイが力を込め創った殻は、既に全てがひび割れていた。ピッ!ヒトカケラ剥がれて、銀の糸引き暗黒の空を飛ぶ!ピッ!ピッ!シュッ、シュッ!それはヒシと抱き合う親子をめがけて、次々に剥がれて進む。
「うわぁ!ママ上!ママ上!なんか変なものが!当たったよぉぉ!痛い!嫌だ!イヤだ嫌だァァー!うぎゃっ!当たった……ち、力がぬける……ママ上、ママ上助け……」
「キャァ!僕ちん!痛!こ、コレに当たったら、なに?キャァぁー!当たって……なにこれ、力が抜けていくわ!ああ、僕ちん、僕ちん……ぼく……ちん」
続くー。




