いとしいきみへ、祝福を。
――すき、だなんて、そんな。
そんなふうに思ったことは一度たりともなかった。ないはずだった。なぜ、おれは、俺は、好きとかそんなもの、捨てたはずで、なのに、なぜ、なぜ、なぜ。頭のなかがぐるぐるとまわる。どうして。そればかりがこだまする。聞き覚えのある声がひびく。
ああそうだ、これは、これは俺の声だ。
悲しそうに、それはそれは哀しそうに目を伏せて、長い睫を震わせて。君をきれいだと初めて思ったあのとき、ふと口づけをしたあのとき、君が微笑んだわけを、俺は、知りたくないと耳を塞いだ。
きっとこんな気持ちだったのだろうか。こんな、ないまぜになったもやもやした気持ちをかかえて、それでも隣で笑ってくれていたというのか。こんな、こんなにも心臓が痛いのに。張り裂けそうなのに。割れてしまいそうな程に頭が、胸が、身体が痛い。
くすくすという笑い声も、ふとしたときに零れる涙も、怒ったような笑ったような、悲しげな君の表情も。すべて手放したのは、俺だ。今更なのだ。今更すぎるくらいに。今更気付いたところで、もう遅いのに、なのに。
あの幸せそうな声が響く。耳の奥でこだまする。
『おれ、今まででいちばんうれしいよ。』
お前がそうやって祝福してくれるなら、と。君はそう言って、涙ながらに微笑んだ。その真っ白なタキシードに良く似合う、清々しい笑顔で。
あのとき君が、しあわせ、と言わなかったわけを、言えなかったわけを、今ではもう聞くことができない。
陽が翳る。雨が降りそうだ。いや、もう降っているのかもしれない。だって、こんなにも、俺の頬は濡れて――