重装歩兵壁役はツラいよ
-国境-
「敵軍は我が方に比べて確かに数においてまさっておる!」
・・・質も勝ってるだろ
「しかし我が将兵の力を持ってすれば何程の事やあらん!」
・・・じゃあ自分で戦えよ
「諸君らの奮戦を期待する!」
「「「国王陛下万歳、王国に栄光あれ!」」」
俺は本陣の演説と将校のばか騒ぎに心の中で突っ込みを入れると周囲の仲間に言った。
「なぁ俺これが終わったら兵隊辞めようかと思ってんだ。」
「・・・・・・」
「そして結婚するんだ。」
「・・・・・・」
「まぁ相手はまだ決まってないんだけど」
「・・・・・・」
「なぁ皆、黙ってないで何とか言えよ。」
「黙れラングストン・・・来るぞ!」
隣にいた小隊長の突っ込みと同時に敵の進軍が始まった。
俺は長さ1メートル70を超える大楯を構えながら話を続けた。
「出来れば子供は二人は欲しいけどこればっかりは神のみぞ知るってヤツかなぁ。」
俺が素敵な夢を語ってると敵軍の矢が降り注いだ。
「不粋な奴等だ、まったく空気を読んで欲しいな。」
俺の言葉に周囲にいた仲間の兵隊が皆して言った。
「「「お前がな!」」」
"フゥ〜"
その突っ込みは如何なものだろうか・・・俺は溜め息を1つ吐くと、左手に持った大楯で敵の矢を避けながら前進を開始した。
敵の弓矢の攻撃が止む頃、全線において歩兵同士の殺し合いが始まった。
・・・あぁ嫌だ、
先程迄俺に黙れとか言ってた小隊長はギャ〜ギャ〜喚きながら正面の敵と剣を持っての殴りあいを始めるし、
・・・まぁ相手の兵も負けず劣らず大声で喚いてる。
俺としてはムサイおっさん達が大勢で大騒ぎしてる場から退散したいがサスガにそれは難しそうだ、 出来れば目の前の敵に話し合で解決しないかと言って見たが、目を血走らせ、剣を振り上げている敵兵には俺の優しさは通じなかったらしく、俺の持つ大楯におもいっきり剣を叩きつけて来た。
この状況でテンションが上がるのは判るが防御が御座なりになってるのは如何なものだろうか?
俺は冷めた気持ちのまま敵の剣を左手の大楯で捌き、右手に持っている剣で敵の鎧の隙間に剣を突き刺した。
目の前のおっさんが驚いた顔をしながら倒れて逝ったが、俺としてはそんな顔をされてもと言いたい。
勿論そんな言葉を言う暇もなく次の敵兵が突っ込んで来たのだが・・・
俺としてはおっさんから剣を抜くまで少々お待ち頂きたかったが今度の相手も相当のせっかちさんらしく俺が剣を抜く暇も与えてくれなかった。
俺はやむ無く剣を諦めると両手で大楯を持ち向かってくるせっかちさんに逆に体当たりを掛けた。
せっかちさんは"ムグッ"とか言いながらキレイに仰向けにひっくり返るものだから、おもわず大楯の下部を使って踏み潰してしまった。
その後も目の前の敵を盾で殴り飛ばし、落ちている武器を拾いこのバカ騒ぎに付き合った。
殴り合いが小一時間も続き皆の息が上がり動きが緩慢になった頃、前方から歓声が沸き上がった。
俺は嫌な予感を抑えながら後方の本陣を見た。
・・・うん、退却てる。
こう云うのを見ちゃうとぐっと疲れが出るんだよなぁ・・・
俺は重くなった盾を持ちながら疲れた身体で逃げ出そうかと周りを伺っていると、間の悪い事に近くにいた歩兵将校から檄が飛んだ!
「集まれ!
これより我々は王軍の転進の為この場で敵兵の進行を阻む!
隊列を整えろ! 」
あちゃ〜逃げそびれた。
俺は嫌々ながら生き残りの歩兵達の隊列に組み込まれた。
最低な事に、俺達が隊列を組み終わる頃を見計らったかの様に敵の騎兵が突撃を開始した。
・・・お約束かよ、
「マジ勘弁してくれ、お偉いさんは後方ですよ。」
またしても俺の声は敵には聞こえなかったらしく、敵の騎馬隊はこちらに向かって突っ込んで来た。
俺は体内の魔素を目一杯燃やして持っている大楯で敵の騎馬の前進を受け止めた。
ぶつかった際の衝撃で乗っていた馬は馬上の騎士を振り落し足を止めた。
俺は落馬しもがいている騎士の頭に拾っといたメイスを叩きつけ、結果敵の騎士様は"メキョッ"という謎の言葉を残して動かなくなった。
敵騎兵の突撃を何とかやり過ごした俺は回りの仲間に声をかけた。
「皆生きてる?」
・・・残念ながら大半の歩兵は馬蹄に駆けられ倒れていた。
倒されてない仲間もいなくも無いが既に隊列は崩されてしまっている。
これでは次の突撃には耐えられんな・・・俺はボコボコになった大楯を放り投げて生き残りの仲間を見ながら話始めた。
「歩兵と比べ重装歩兵はドン亀と一緒だ。
他の職種の兵科と比べて圧倒的に足が遅い。
詰まり進退は迅速に決断しなければなりません・・・じゃっお先!」
俺は生き残りの歩兵に声を掛けると目の前の馬に飛び乗り戦場から全力で撤退しながら半年前の裁判の事を思い出していた。
-6ヶ月前-
「等軍事法廷は騎士ラングストン百人長を一階級降格の上、重装歩兵に転科する事を命ずる。」
俺は裁判長の判決を聞きながら心の中で毒づいていた。
「不当判決だこのハゲ。」
「黙れ!
敵に背を向けて先頭で逃げる指揮官がいるか!
それに私はハゲではない!
毛の質が細いだけだ!」
裁判長が顔を真っ赤にして怒鳴り付けてる所を見るとどうやら俺の心の声は聞こえていたらしい。
「心を読みましたね。」
俺の言葉にハゲは呆れ返りながら答えた。
「普通に声が出ていたぞ。」
そんなハゲに俺は優しく言った。
「聞こえるように言ったんだよ。」
「騎士の資格を剥奪の上、二階級の降格にする。兵卒からやり直せ!」
裁判長はそう言うと席を立ち怒りながら部屋を出ていった。
こうして俺は重装歩兵になった。
-現在-
将校と兵卒の最大の違いは責任の重さにあるとか、
前回の勇気ある転身の結果は二階級の降格だったが、今回はこれといったお咎めはない。
まぁ今回の戦で生き残った兵隊は、それほどいなかったし、ナニよりこの国もう詰んでる。
俺は燃え盛る王都を郊外の丘の上から眺めながらちょっとおセンチな気分にふけっていた。
「あぁ王都が!」
「仲間が家族は無事なのか!」
「ウォ〜共和国の悪魔共め〜」
何か生き残った兵士達が偉いテンションで盛り上がってらっしゃるが俺はそんな熱いノリに付いていく事が出来ずにいた。
何せ俺の生まれた土地は扮装地帯のど真ん中、家族とはとっくの昔にチリジリのばんらばらん、風の噂で王都なら飯にありつけると聞いて流れ着いたが、世の中そんな甘い訳もなく、途方にくれていた俺は三食昼寝つきの宣伝にあっさり騙され国軍に入隊、十年間の戦場生活で得たものは身に着けてる装備と戦闘技術、まぁ少量の身体強化の魔法位、どう見積もっても貸しはあっても借りは無いな・・・ナニより俺は一兵卒だし。
俺は騎乗しながら泣き叫ぶ同僚達に一言声を掛けた。
「退職します。」
こうして俺の王国での生活は終わりを告げた。