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第四話・魔術師団へ行こう

城門を抜け中央のエントランスを左に曲がると、前方に見えてくる建物が魔術師団の研究兼駐屯棟で、魔術師団の団員は基本この棟で生活をしている。


今回カイルが見学の許可を取ってくれたのは、この中でも主に研究が行われている場所だった。

もっとも私が興味がある場ではあるが、同時に一番外部に漏れては良くない場所でもある。

今回見学許可が下りたのも、筆頭公爵家令嬢という肩書きと、騎士団長であるカイルの家からの依頼であること、そして私自身が学園でも数少ない高魔力持ちという事で許可が下りたそうだ。


普段自分の身分の高さをあまり嬉しいと思った事は無かったが、今回は自分の生まれに心底感謝してしまった。


こんな幸運はそう何度もある事ではない、しっかり勉強して後の試験に生かしていかなくては。


魔術師団の建物前に到着すると、入り口でいかにもなローブをまとった人物が出迎えてくれた。


「ジェラルダイン公爵令嬢様で宜しかったでしょうか?本日団長より案内を申し付かりました、アンリ・リロードと申します。」


「リディアーネ・ジェラルダインと申します。ご無理を言いまして申し訳ございません。どうぞよろしくお願いいたします。」


憧れの魔術師団員である男性を前に、何とか淑女の礼で答えたが、緊張で顔は少しぎこちない笑顔になってしまっていたが、アンリ様は爽やかな笑顔を浮かべ建物の内部へ案内してくれた。


建物の中庭に作られた温室と花壇は、この辺りではなかなか見る事の出来ない薬草などが植えられており、魔法で気温や湿度を管理され育てられていた。

倉庫には聞いた事はあっても見た事は無いような、珍しい魔獣の素材や遥か東方から取り寄せた木材などが置かれていたり。

どれを見ても研究意欲を掻き立てるようなものばかりだった。


最後に今まさに研究が行われている部屋を案内してもう事になり、中に入った私は目を輝かせた。


数人で机を囲み何やら議論している所もあれば、山積みになった資料の向こう側で一人黙々と作業している人も居る。

そのどの机を見ても好奇心を刺激するものばかりで、もっと近くで見てみたくてウズウズしてしまった。


ああ……参加したい……


何を作ってるんだろう、ちょっとで良い話が聞きたい。


そう思って回りの机をチラチラ見ていると、物凄いものを発見して動きを止めてしまった。

掌に乗るて程度の小さな石に術式が刻まれている。

一見ただの石のように見えるが、時折光が当たると緑色に見える事から魔石の可能性もある。

見た感じだと結界の類と思われる術式なのだが、それにしても小さい。


その机の前には肩まで伸びたグレーの髪の青年が、一人作業をしていた。


「お仕事中にすみません、あの……これどうしてこんなに小さいのですか?」


悪いとは思ったのだけれど、これがどういうものなのかどうしても知りたくて、私はついその青年に声を掛けてしまった。

しかし、青年が振り向いたのを見て、私は驚愕する事になる。


「…………あの……持ち運べる…ように?」


消えてしまいそうなほど小さな声は不安そうに振るえ、本人が怯えている事は何となくわかるのだが、その前髪は後ろ髪と同じくらい伸びていて、顔が全く見えなかったのだ。


どっちが前だろう……


一瞬本気で考えた私を許して欲しい。


「…………あの……」


暫し動きを止めていたが、彼が再度声を発した事で我に帰った。


「持ち運ぶ予定なんですね、でもこれ何に使うものなのですか?」


小さいのは運ぶ為、それだけは聞き取れた。

しかしそれだけではこれが何かはさっぱり分からない、もう一度尋ねるとオドオドしながらも彼は答えてくれた。


「……旅の時持ち歩く……簡易結界です。結界ようの術式が闇属性の魔力で刻まれていて、光の魔力を一定量与えると相殺され、その後風魔石の力で一気に拡張する仕掛けになってます」


「まあ!!それは素晴らしいですね!!」


元々旅をすると盗賊などの被害はあったのだが、近年魔獣の数が増えてきたとかで、今まで無かった被害が出るようになったと学園でもならった。

街や村にはそれようの結界が施されているのでそう簡単に被害は出ないが、外に出なければいけない商人達にとってこれは画期的な魔道具だ。

是非頑張って実用化に漕ぎ着けてもらいたい。


「街で見られるようになる日を楽しみにしていますわ!!」


満面の笑みを向けると、相手は一瞬肩を震わせたが深々と頭を下げて机に向き直った。

やはり魔術師団は素晴らしい!こんな素敵な研究を私も早くしたい。


「職務中に無駄な声が聞こえると思えば、騎士団長から押し付けられた見学者ですか。ここは遊び場では無いのですよ、私語は慎みなさい」


興奮のあまりつい声が大きくなり、とうとう魔術師団の方に咎められてしまった。

令嬢としても、見学させてもらう身としても失格だ……


「も……申し訳ございません」


威圧感のある声が聞こえて、謝りながら私は恐る恐る後ろを振り向いた。

しかし振り向いた途端、私は動きを止める事になる。

振り向いた先の眼鏡を掛けた気難しそうな男性は、まだ何かお説教をしていたのだけれど私の目は彼の手元に釘付けだ。

暫くして男性は私の目が一点を見たままな事に気が付き、手元の魔道具を見た。


「これが、どうかしましたか?」


薄く緑が掛かった銀色の髪がサラリと揺れ、空のように青い瞳が怪訝そうにこちらを見ている。

軽く魔道具を持ち上げるようにして男性は、不思議そうに小首を傾げていた。


どうかなんてものでは無い!


「それ……最新式の魔力計測器ですよね……前回の倍近くの量まで魔力を計測できるようになったとか……微量な他属性も検査できるようになったっていう噂の……」


今王都などで使われている魔力計測器は数十年前に開発されたもので、その当時でも今までに無い量の魔力を計測できると評判だったのだが、それでもその上限を超える魔力持ちが居ないとはいえなかった。

現に私は限界値を超えた……

その上、上限を上げる事は出来ても微量な魔力は計測できず、魔力無しと判断されても実は微量の魔力持ちでしたと言う例も少なくなかった。


キラキラと輝く私の目を見て、男性は一瞬目を見開いた。


「ほう……これが何だか分かるのですか、まだ最終調整中なので外には出回っていないのですが……ふむ、どうやら令嬢のお遊びと言うわけでは無さそうですね」


男性は暫く思案した後アンリ様に向き直り、この後の案内は自分がすると言って私を執務室へ連行した。

執務室の椅子に座ると、男性は私の方を向き両手を前に組みながら話し始めた。


「私はこの魔術師団の副団長を勤めるエルクレオ・ディザーレと申します」


「リディアーネ・ジェラルダインです」


淑女の礼で挨拶すると、エルクレオ様は深く一つ頷いた。

先ほど叱責されたのでまたお説教かと不安だったが、エルクレオ様の様子は穏やかで怒りの様子は無かった。

それに安堵して余裕が出てきた為周りを見回すと、エルクレオ様の執務室は圧巻だった。


壁一面の本棚、机に置かれた書類、恐らくこれから確認作業をすると思われる魔道具などが並べられているのだが、物凄く綺麗に整頓されていたのだ。

さっきの部屋はなんだったのだろうと思うほど整った部屋に、本人の几帳面さが伺える。


昔殿下の執務室へ入った事もあるが、その時の机は凄い事になっていた。


「我が魔術師団は災事には魔術師として戦場・現場に立つ事もありますが、基本はこの建物で研究を行うのが通常業務です。完成した魔道具を王宮に献上する際には、書類作成などの事務作業もありますが、これは開発者本人が詳細を記した書類を作り、団長・副団長が許可書を作成します」


言われて周りを見てみれば、置かれている魔道具の傍には結構な厚さの書類が添えられている。


「まあ、団長は殆ど姿を現さないので大体の許可証は私の所から発行されていますが……」


団長様居ないの!?幻の団長様なのかしら?

でも、一人で最終検査と許可出ししてるのに、これだけ片付いてるって……エルクレオ様って凄く仕事の出来る人なのね。


「さて、本題に入りましょう。それだけの知識を持ってるなら、施設見学だけでは物足りないのでは無いですか?」


私は目を見開いて驚いた。

そんなにウズウズしてたの分かりやすかったのかしら?

するとエルクレオ様は薄っすらと笑みを浮かべて、後ろにある魔道具を手に取った。


「そんな不思議そうな顔をしなくとも分かりますよ。私も元々研究者気質ですからね」


エルクレオ様は手に取った魔道具を執務机に置くと、私を手招いた。


「私は最終検査の仕事をしますから、気になる所があったら何でも聞きなさい」


「良いのですか?」


見学しても良いと言うエルクレオ様に、お仕事の邪魔になるのではと不安が過ぎった。

しかし、エルクレオ様は私を見て一笑すると、手元の資料に視線を落とした。


「使えそうな人材を早めに教育しておくのも、大事な仕事ですからね」


「ありがとうございます!!」


最初はちょっと怖かったけれど、エルクレオ様は良い人だ!!

嬉しくなって執務机に駆け寄った私は、真剣にその作業に見入ってしまった。


もうその後は楽しくて仕方無かった。

エルクレオ様の元に来る魔道具はどれも見た事無いものばかりで、時々不採用になったものをあえて私に書類ごと渡し、何がいけなかったのか考えさせるなど沢山の勉強をさせてもらった。


一応令嬢なので日が落ちる前に帰る事になったのだが、許されるなら後二・三日あの場に居たかった。

最後にエルクレオ様がまた勉強に来れるようにと、魔術師団の通行証をくれたのだが、本気で泣いてしまいそうになり、エルクレオ様を慌てさせてしまったのだった。


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