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第三十六話・大混乱のお茶会

数日後、私は王宮の温室に来ていた。

私の隣の席にはティファが座り、向かいの席にはアル様とリリーナ嬢が座っている。

左右にはダリル殿下とルイスが座り、護衛の為殿下達の後ろにはラディアス、私達の後ろにはカイルが立っていた。


「わざわざ呼び出すなんてどんな風の吹き回し?やっと謝罪する気になったようには見えないけど……」


テーブルの上で両手を組みながら、ダリル殿下が嘲笑を浮かべ私達に視線を投げる。

勝ち誇った笑みを浮かべているのは、私達が謝罪すると信じて疑っていないからだろうか。


「随分せっかちですのね、せめてお菓子の一つぐらい召し上がっては如何?折角我が国自慢の菓子を用意しましたのに、こうも無作法な方達ではお出しするだけ勿体無いですわね」


ティフアが今日も絶好調の嫌味を炸裂させる。

こんな時でも自分の姿勢を変えないティファはある意味かっこいい。


こちらが臨戦態勢だと感じたのか、向かい側からピリピリとした空気を感じた。

そんな空気を叩き壊すように、少し高めの猫なで声が響き渡る。


「あっ!せ、折角だし皆貰おうよ、お茶会に来たんだしね」


空気を呼んでるのか呼んでいないのか、リリーナ嬢はそう言うとお菓子を一つ摘んで口に放り込んだ。

大きな口を開けて一口で食べる姿は淑女としてはどうかと思うが、可愛らしい事は確かに可愛らしかった。


「わあ、凄い美味しいよ、皆も食べてみて!」


進められるままにダリル殿下が一つ菓子を手に取ると、疑い深い表情を浮かべながらも口に含んだ。


「……確かに、特に何か仕掛けられてる訳でもなさそうだね」


「そんな外交問題になりそうな事などしませんわ」


少し前まで結構大変な事してたよね?

一体どの口がそれを言うか……

不服そうに頬を膨らませるティファを見ながら、心の中で呟いてしまった。


暫くの間、私達は黙ってお茶を飲んでいた。

美味しい紅茶に珍しいお菓子、美しい花々に囲まれて、お茶会としては素晴らしい限りだった。

しかし本題はそこではない。

沈黙が長過ぎて、流石にアル様達も痺れを切らしたようだ。

お茶を味わう事で少しだけ和らいでいた目つきが、再度厳しいものへ変化した。


「一体話とは何です?その為にわざわざ時間を作ったのですよ。僕らも暇な訳ではありません、用件が無いのなら帰らせてもらいます」


「そう言わず……」


今にも立ち上がりそうなルイスを制してカイルを見ると、彼は一つ頷いた。


「実は貴方方に報告したい事がありますの」


ティファは一呼吸貯めるように言葉を区切ると、アル様達を真っ直ぐ見据えて話し始めた。

五人の視線が一気にティファに集まる。


「実は今回の件で、私自国に帰ろうかと考えていまして……」


思っても見ないティファの言葉に皆目を丸くして固まっている。

実は私も初耳だったので物凄く驚いたのだが、今日の私はとにかく黙って大人しく、表情もできるだけ押さえてと言われているので必死に堪えた。


「皆様にもご迷惑を掛けた事ですし、そうすべきかと……それに伴って決定した事があるのですが」


まだ何か言うつもりかと、皆が固唾を呑んで見守る中その爆弾は投下された。


「我が国との有効を深める為に、私が嫁ぐのでは無くリディが我が国の王子と婚約する事に決まりましたわ」


満面の笑みで言うティファに場の空気が凍りつく。

誰も暫くの間動く事が出来なかった。


そしてそれを一番最初に破壊したのは…………


「そんな話、私は聞いてない!!」


今日まで無言を貫いていたアル様が、目の前のテーブルをひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がった。

それを皮切りに次々非難の言葉が飛び出す。


「なんでよりによってリベリアなの!!友好深める為ならグラウンでも良いじゃないか!?」


食って掛かるダリル殿下を、ティファは片手で払うような仕草付きで嘲笑う。


「あーら、折角ですからそちらの男爵令嬢さんでも連れてお帰りになっては如何?」


今まで散々暴言吐かれたお返しだとばかりに、ティファの嫌味は止まらない。


「そんな書類我が家には来ていなかったはずです。あれば僕が通すはずも無い……」


「貴方の許可なんて要りませんわ、ジェラルダイン公とこの国の陛下の許可があれば良いのですから」


ティファを睨みつけるルイスの目は、昨日まで以上の殺気に溢れている。

それも華麗にスルーしてティファは微笑み、さも当然のように言ってのけた。

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたルイスの怒りは凄いらしく、手に持っていたティーカップがひび割れていた。


「…………リディアーネ嬢」


小さな私を呼ぶ声に顔を上げてみれば、何か言いたげなラディアスが真っ直ぐ私を見詰めている。

良く見れば漆黒の瞳が潤んでいるのが見えて動揺した。


アル様とダリル殿下は立ち上がると直ぐに私に駆け寄ってきた。


「嘘だよねリディ!嘘だと言って」


「そうだよ、他の奴ならまだしもどこの馬の骨とも分からない奴に嫁ぐなんてあり得ない!!まあ他の奴でも嫌だけど!!」


右手と左手を取られてただただ困惑する事しか出来ない。


ちらりと見た先にルイスとティファが見えたが、あちらはあちらでルイスの手が真っ赤に染まってるのに、変わらず睨みあっていて更に頭は混乱した。


待って……何だか凄い勢いでカオスになってるけど……これだけは言わせて……


「そんな話、私も聞いてない!!」


私の叫びに、何がどうなっているのか分からないアル様達は、呆然としたまま私を見ていた。

しかし、暫くの沈黙の後事の次第に気付いたのか、次々溜め息をついて脱力していく。


右手が離れダリル殿下が座り込むのを視線で追っていたら、左手が引かれアル様の腕の中に倒れこむ形になった。


「良かった……君を奪われるのかと……」


最初は恥ずかしさのあまり逃げ出そうと思ったのだけれど、アル様の手が僅かに震えてるのに気付いてしまって、何だか申し訳ない気持ちになったのでされるがままにしておいた。

すると足元に居たダリル殿下が怒って立ち上がり、バリッと音がしそうな勢いで私達を引き離す。


「ずるい、アルフレッドだけ!!僕だって心配したんだからね!!」


あまりにキャンキャン言っている姿が、小型犬に見えてどうして良いのか分からないまま頭を撫でてみた。

けれど、不意に我に返って男性にする事じゃ無かったと慌てて手を引こうとしたのだが、思いのほか気持ち良さそうにしているのでこれで良かったのかな?と取り合えずそのまま撫でると、今度は横から手が出てきて撫でている手を取った。

その手が見事な血の色に染まってるのを見て、私はさっと血の気が引いた。


「ルイス!!握っちゃ駄目!取り合えず止血して、お医者様お医者様に……」


混乱する私を他所に、ルイスの目はどこか無機質なまま私を見詰めていた。


「……ルイス?」


不安になってその瞳を覗き込むように見上げると、不意にその目が細められ天使のような笑みを浮かべた。

久々に見たルイスの微笑みに頬が赤くなる。


「どこにも行かないで……」


ルイスが私の耳元に懇願するように囁く言葉が、あまりに悲痛な声で胸がズキリと痛んだ。

『ごめん』と呟くと同時に甲高い声が温室内に響き渡った。


「一体何なの!皆どうしちゃったのよ!その女は私を虐めた王女の取り巻きよ!何でその女の心配なんてするのよ!?」


ブラウンの綿飴みたいな髪を振り乱し、目を血走らせたリリーナ嬢が叫ぶ。

その姿があまりにも狂気じみていて、流石に怖くなって一歩後ろに下がった。

すると見覚えのある背中が視界いっぱいに広がった。


「……ラディアス」


私をリリーナ嬢から隠すように立つその場所は、いつも何かあった時ラディアスの定位置。

何だか一月くらいしか立っていないのに、物凄く懐かしく感じてジワリと涙がこみ上げる。


「だから言いましたでしょう?このメンバーなら爆薬なんて使わなくとも、衝撃与えるなんて簡単だって」


「「「「爆薬!?」」」」



不穏な言葉に驚愕する皆を他所に、ティファは全てが思惑通りに進んで、ご満悦の様子だ。

皆が目を見開き固まる中、私は数日前の最終作戦会議を思い出していた。


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