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閑話・カイルの回想

遠くから走りよってくる令嬢に笑みがこぼれる。


「おはようカイル、今日も早いね」


朝から明るい挨拶を向けてくるリディとはもう8年以上の付き合いになる。

リディに始めて会った日は衝撃的だった。


それは良く晴れた日の事。

いつもの日課である鍛錬を、俺は王宮の訓練場で行っていた。

自身の父親が騎士団長を勤めている事もあって、訓練場の端を使用させてもらっていたのだが、そこに有り得ない人物が現れたのだ。


長い黒髪を靡かせ、青いワンピースを着た自分よりも幼い令嬢。

赤い丸い目がきょろきょろと周りを見渡す表情は可憐で、それでも一つ一つの所作は優雅で。

彼女がどこかの高位貴族の令嬢なのは、その立ち振る舞いからも感じられた。

決してこのような物騒な場所にやってくる人物ではない。


しかしその令嬢はあろうことか、同じ訓練場の反対端で何やら魔術の鍛錬を始めたのだ。

始めは簡単な基礎魔法から、徐々にレベルを上げて威力の高そうな魔法に変えていく。

剣術ばかり鍛錬してきた俺には、彼女が何の魔術を使っているのかまではわからない、それでもそれがあんな幼い少女に出来るものでは無い事くらいはわかった。


朝の早い時間帯は、王宮騎士団の鍛錬もまだ始まってはいない。

それゆえにこの時間だけ訓練場を借りているのだが、今はそれが逆に恨めしい。

遮るものが無いゆえに、彼女が何かしているのが鍛錬していても視界に映る。

集中しなければと思うのに、未熟な自分はどうにもそれが出来ないでいた。


無理やり剣を振る事どのくらいだろう、目の端に眩い光が見えたかと思うとものすごい爆音がした。

慌ててそちらを見れば、かの令嬢は飛んでいた……空を……


一瞬何が起きたかわからずそれを見つめ、次の瞬間には駆け出していた。

彼女はもう落下を始めている。

必死の思いで体をスライドさせ、令嬢と地面の間に滑り込むと、ギリギリ彼女を受け止めることに成功した。


この時ほど、日頃の鍛錬に感謝した事は無い。

少しでも駆け出すのが遅ければ間に合わなかっただろうし、毎日鍛えてでもいなければ少女とはいえ、落下してくる人を受け止める事など出来なかっただろう。

自分の腕の中にいる少女は、丸い目を何度も瞬かせると、フワリと笑った。


「助けてくださってありがとうございました。もう少しで痛い思いをする所でしたわ」


痛い程度ではすまないだろうと言いたかったのを、すんでの所で飲み込む。


「……大事が無いようで何よりだ」


無邪気に微笑む少女に、苦笑いを浮かべながら答えた。


リディとはその日から毎日朝の訓練で会う仲になった。


実はジェラルダイン家の長女であり、今のままなら家督を継ぐことになる事や、魔術の鍛錬で庭を崩壊させそうになり、公爵に止められ、庭で出来ないなら出来る場所をと要請し、今の訓練所で鍛錬を始めたらしい事。


さまざまな話をしながら毎日の鍛錬を続けた。

衝撃的だったのは、自分も訓練所にいる理由なども話すと、興味を持ったのかいずれ手合わせして欲しいとまで言われた事だ。

さすがにこれには、俺も困惑した。


最初は変な令嬢だと思ったが、裏表の無いさっぱりした性格のリディとは気が合い

時に互いの家の愚痴を言い合い、時に喧嘩したりしながら8年過ごした。


そんなリディは王太子の婚約者候補筆頭だ

公爵令嬢という身分に、美しい容姿、あまり公にはされていないようだが長年の鍛錬で会得した多大な魔力すらある。


最初にそれを聞いた時は、胃がムカムカするような感じになったのだが、最近はそれも無くなった。


理由は簡単だ・・・

リディは国中の令嬢が婚約者になりたがっているとさえ言われる、あの王太子の婚約者になりたくないらしいのだ。


こんな近くで鍛錬していても伝える事もせず、最近では空を飛ぶような魔術も使わず大人しくしている。

大きな魔術を使えば、ここに来ている事が王太子にばれるかららしい。

あの魔術研究大好きなリディが、そうまでして回避しようとしているのだ相当だろう。


そんなリディの姿を見ると、殿下が気の毒にも感じるのだが、同時に安堵している自分もいるのだ。


この頃にはもう、リディに自分が惹かれている事は鈍い俺にでもわかっていた。

だからかねてから聞きたいと思ってた事を、俺は尋ねる事にした。


「なぁ、リディ。ジェラルダイン家はお前が継ぐのか?」


リディは不思議そうな顔をしながらも、少し空を仰ぎながら答えた。


「今はどっちでも良いんだよね、ルイスもいるからルイスが継いで、私が出ても良いし。私が継いで、ルイスがサポートかなんかしらの道に進んでも良いし」


数年前に、ルイスという名前の義理の弟が出来たと聞いた時から、もしかしてと思ってはいた。

やはり必ずリディが家督を継ぐわけでは無くなったらしい。


「そっか」


期待通りの返事で俺は満足した。

しかし当のリディは不思議そうにただ首をかしげている。


「・・そろそろ俺も、動かないと不味いかと思ってな・・」


俺より尚鈍いリディの事だ、何の事かわからないのだろう。

綺麗な顔をさらに歪めて悩んでいるようだが、答えにはたどり着かないようだ。


「なんでもねえよ」


そう言うと、リディの頭を数回撫でて歩き出した。

子ども扱いされたと思ったのだろう、不満そうに口元を尖らせて何か言っているのを聞こえない振りして、俺は訓練場を後にした。


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