第三十二話・後悔と反省の先
重い扉を勢い良く開ける、駆け込んだ先は研究棟だった。
見慣れぬ不可解な物が散乱する研究棟にティファは少し怯えているみたいで、私の後ろから出ようとはしなかった。
扉の先には目的の人物が居たのだが、常とは違う様子に私は身を強張らせた。
「やっと来た」
口ごもるような小声も、慌てるあまり言葉に詰まる様子も無く、薄暗い中ユーリは笑みを浮かべていた。
ここにも、もうリリーナ嬢の手が回っていたか、そう落胆しそうになったのは一瞬だった。
「僕に言いたい事がありそうだね?」
全然違う口調、違う雰囲気、ともすれば怖いと感じるくらいなのに、何故かその言葉を言うユーリを見た途端、私の中に『ああ、ユーリだ』と全てを納得させるものを感じてしまった。
そして彼もまたユーリだと感じたら、感情の波はもう止まらなかった。
溢れ出る涙を拭いもせずに、私は真っ直ぐユーリを見た。
ユーリも私の目を見詰め返すと、黙って私の言葉を待っていた。
「悔しいよ……こんなになるまで気付けなかった自分が、皆を信じられなかった自分が……情けなくて、不甲斐なくて……」
本気で悔しかった、自分の身も守れない所か何かが起きてるのが分かってるのに、何も出来ない自分が酷く惨めだった。
何の為に今日まで勉強してきたのか、カイルに時間を割いてもらってまで鍛錬したのは何だったのか、結局何の役にも立たなくて、ティファもアル様達も大事なのに、逃げる事しか出来ないなんて……
「それなら、君はどうしたい?」
私の隣まで歩いてきたユーリが身を屈め、耳元で囁く。
嘲笑を含むその声に体が震える、それでもその時の私は視線を逸らしたくなかった。
「皆を助けたい……何も出来なくても抗いたい、その為なら断罪だって怖くない」
相手は本当にヒロインなのかもしれない、もしかしたら全ては強制力なのかもしれない。
その考えが完全に消えた訳では無いけれど、例えそうだとしてもこんなやり方許せない。
しかし、そんな私はユーリのたった一言で簡単に暗闇意落とされた。
「君一人で何が出来る」
冷たい声だった。
冷水のようなその言葉は、怒りで沸騰していた私の頭を冷やすには十分過ぎるもので、私は言葉に詰まって沈黙してしまった。
何も出来ない……だから私はここに逃げ込んだのだ、逃げるしか出来なかったのだ。
思い出すほど惨めになって、必死に上げていた顔も上げらなくなって、とうとうユーリの目を見ていられなくなって、私は俯いてしまった。
そんな時、暗い空気に似合わない大きな声が響き渡った。
「ちょっと!!さっきから聞いてればなんなのよ!!一人で出来ないなんて当たり前でしょ!?偉そうに言うくらいならあんたも手伝えば良いじゃない!!」
自分の無力さに打ちひしがれていた私は、ティフアの怒声で視線を上げた。
さっきまで私の後ろに隠れていたはずなのに、今は怒りに拳を握りながら力説してる。
そんなティファの姿はいつものティファそのもので、こんな時なのについ笑ってしまった。
笑ってからもう一度ユーリを見てみれば、彼の目はもう冷たいものだとは感じなくなっていた。
寧ろそれはどこか楽しそうにも見えて……
まただ……さっきまでユーリが冷たいと感じていたのは、また自分の思い込みが見せたものなのだと気がついて愕然とした。
いったい私は何度思い込むのだろう、それで何度失敗すれば気が済むのだろう。
ユーリは初めから一人でやれなんて言ってない、勝手に悲観的になって落ち込んで思い込んだのは私。
初めからユーリは言ってるじゃないか。
『君一人で何が出来る』って、そうだね……だから……
「うん、私一人じゃ出来ないや……ごめん、ユーリ手伝って?」
泣き笑いしながらも私はいつも通りの声で彼に頼んだ、声は震えずに済んだと思いたい。
顔を上げた私を見て、ユーリはゆっくり頷いた。
その後は、さも愉快といった笑みを浮かべて『まあ、合格かな?さっさと行くよ』と素早く部屋から出て行ってしまった。
あまりの変わり身の早さに呆然とするティファと私は、我に帰ると急いでユーリの後を追ったのだった。




