第三十一話・悪夢の中の希望
次の日から私は証拠集めに奔走した。
毎日自身の行動は事細かに日記をつけ、何時何分どこに居たかしっかりと書き込んだ。
女性の証人しか居ないから文句を言われるならと、時々その場に居た男子生徒に名前と証人になる事を依頼してそれもメモを取った。
あまりに神経質になる私にティファは呆れていたが、必死に頑張る私にどこか嬉しそうでもあった。
それに私の頑張りを見ていてくれたのはティファだけでは無い。
周りの女子生徒は勿論、何度か証人を依頼した男子生徒が、誰に頼むか悩む私に自分から証人を買って出てくれるようになったのだ。
最初は遠巻きにしていた生徒も、最近は『頑張れ』『負けないで』と声援を送ってくれるまでになり、私は俄然やる気を出していた。
そんなある日彼らはやって来た。
丁度ランチを食べ終わって、外の庭でのんびり食後の散歩をしていた時の事。
リリーナ嬢を連れた四人が私達の前に現れたのだ。
殿下の後ろに隠れたリリーナ嬢は、私達を見るなり怯え前に出ようとはしない。
それを見た瞬間私の本能が叫んだ。『嘘くさい』
見るからにテンプレなその図と、あからさまに怯える令嬢。
貴女、令嬢達から嫌味三昧言われても、けろっとして言い返してましたよね?
むしろ何人か追い返してましたよね?
そんな怯えるようなキャラでしたっけ?
沢山の疑問符が頭を過ぎっていたので、物凄い顔していたかもしれない。
それを慇懃無礼な態度と取ったのか、アル様達は嫌悪の表情を浮かべた。
「君達学園中にある事無い事言い触れ回って、リリーナを孤立させようとしてるんだってね?」
一歩前に出たダリル殿下が、嘲笑うような笑みを浮かべる。
私達が証拠集めしているのを今度はそう取ってきたかと身構えた。
「あらぬ疑いを掛けて来ているのはそちらのご令嬢ですわ。私達は自身の潔白を証明する為に、記録を付けているだけです」
間違った事は一切言っていない、それなのに向こうは尚も馬鹿にしたような嘲笑を向けて来る。
「自分達に分が悪くなってきたからって、今更あがこうって言うの?もう遅いよ、証拠は揃ってるんだからいい加減諦めたら?」
「お願いです、私はただ謝って下さったらそれで良のです。罪を認めてください」
そこまでダリル殿下が言うと、アル様の後ろに隠れていたリリーナ嬢が顔を出し、哀れみの篭った目で語りかけてきた。
ダリル殿下とルイスは何と慈悲深と微笑をリリーナ嬢に向けている。
私達の言い分を全く信じず、リリーナ嬢の言葉だけを鵜呑みにするそれが、少し前まで一緒に笑いあっていた人達だと思うと心が痛んだ。
「ティファは虐めなんてしていません。ずっと私が一緒に居ました」
信じてくれないと分かっていても、この主張を曲げる事は出来ない。
その地点で私達は敗北を認めた事になるのだから。
「まだそんな虚言を……ジェラルダイン家の恥さらしもいいところですね……」
「ここまで厚顔無恥になれるなんて、信じられないよ」
二人は呆れたように溜め息を吐くと、私達に軽蔑の視線を向けて来た。
私はティファの前に移動すると、その視線から守るように立った。
そんな私が気に入らなかったのだろう、視線で私をどかせと指示されたラディアスが、一歩づつ私達に近づいてきた。
その手が伸ばされて、掴まれる寸前私は身を固くして目を瞑った。
しかし、その手はいつまで待っても私に触れる事は無く。
恐る恐る目を開けた先には、手を伸ばし驚愕したまま動けないラディアスの姿があった。
「……ラ……ラディアス?」
不思議そうに見上げてみても、指先が震えてはいるもののそこから動く様子は無い。
周りも何が起きたのか分からず、みな目を丸くして見ている。
もしかして
瞬間私は、ある事に気がついて眩暈を覚えた。
どうして私は今日までその事実に気付かなかったのか……
今この場に居てさえも一言も喋らないアル様。
リリーナ嬢を大切だと言いながら、その手に触れさせた所を見た事が無いルイス。
笑っているのに、どこか冷たく感じる笑顔しか見せなくなったダリル殿下。
そして今、私の目の前で動きを止めたラディアス。
そうか、そうだったんだ……
私はティファの腕を掴むと一目散に走り出した。
後ろで叫ぶ声が聞こえるが、そんなもの知った事ではない!!
ラディアスがくれたこの隙を逃してなるものか!!
困惑したティファを連れたまま私はある場所を目指し走り続けた。




