第二十八話・お茶会と指輪
ある日私はアル様にお茶会に誘われ王宮を訪ねた。
最近は互いに忙しかったので、二人でお茶会をするのは久々だ。
少し公務が長引いたアル様は遅れてくるそうだが、王宮の紅茶は美味しいし、相変わらず私の大好きな焼き菓子を用意してくれるので、私はご機嫌で寛いでいた。
「ごめん、リディ。こちらから呼んだのに遅れて」
急いで来てくれたらしいアル様は、珍しく肩で息をしながらやってきた。
そんなに急がなくても、今日の私は暇人だから帰ったりしないのに。
「お気になさらないでください、美味しいお茶を頂いていたので問題ありませんわ」
「そこは嘘でも、寂しかったって言って欲しかったかな」
本当に満足していたので、満面の笑みで答えるとアル様は苦笑いを浮かべながら、椅子を私の隣まで引いてきて座った。
「最近はどう?男爵令嬢の件で苦労かけてるとは報告来てるけど……」
「もう、大変どころでは無いですわ!ティファは早々に諦めてしまうし、一人で止めるにも限界があります」
心配そうに尋ねる殿下に、結構いっぱいいっぱいだった私はつい愚痴ってしまった。
リリーナ嬢の起こす問題は一日一回では足らないのだ。
しかもどこで起きてるか分からないから、毎日学園内をグルグルしていて疲れてしまった。
「そうか、一人で背負わせて申し訳なかったね。私達も気をつけて見るようにするよ」
アル様に言われてはっとした。
ダメだそんな事したらアル様達が攻略されて、取り返しのつかない事になる!!
私は知らずにサポート役をこなしていたような気がして、自分自身が怖くなった。
「だ、大丈夫ですわ!それ程大きな話も出てませんし、私一人でもこなせます。お気を使わせて申し訳ございません!!」
「……分かった、でも無理はしないようにね」
急に焦ったように態度を変えた私を少し訝しげな目で殿下は見ていたけれど、必死に取り繕う私にそれ以上聞いても無駄だと分かったのか、無理やり納得してくれたようだ。
大きく何度も頷いて、誤魔化されてくれた事に感謝した。
「……男爵令嬢……か……」
アル様は急に俯くと、小さな声で何かを呟いていた。
あまりに小さな声で私には聞こえなかったけれど、アル様の苦悩する表情に心配にはなる
「アル……様?」
アル様は不安そうな私の声に気付いて顔を上げてくれた。
でも、その表情は相変わらず何かを思い悩むような真剣な表情で、何だか落ち着かない気分にさせられる。
「リディ、頼みがあるんだ」
そう言うとアル様は自身の左手にはめられていた指輪を抜き、私に差し出した。
「これを、暫く預かって貰えないだろうか」
綺麗な水色の石が付いたその指輪は、いつもアル様がしていた物だ。
王家の秘宝の一つだと昔聞いた事がある気がする。
そんな大層な物を差し出されても、どうして良いのか分からず、目を泳がせる私にアル様は消え入りそうな声で呟いた。
「最近何かが可笑しい気がするんだ……」
指輪を差し出したまま、アル様は不安げに語りだした。
「時々、自分が自分じゃ無いような……」
心配そうに眺める私を安心させるように、私の手を取り強く握るとアル様は微笑んでくれた。
だけどその微笑みはどこか力無いようなそんな感じがして、何だか胸が痛くなった。
「これは保険みたいなものかな?リディに持っててもらえれば、それだけで安心できる」
私がこれを預かるだけで、アル様が少しでも安心できるならと、私は頷いてそれを受け取った。
正直国宝級を預かるのは怖い、だがそれもアル様の為だ我慢しよう。
指輪を受け取った私を見て、アル様は満面の笑みを浮かべてくれたので、ほっと息を撫で下ろした。
その後はさっきの事が嘘のように穏やかな茶会が続いた。
美味しい紅茶と美味しいお菓子、綺麗な庭はやはり良い。
庭を散歩しに来たティファと、連れ出されて不貞腐れていたダリル殿下に見つかって。
小さい子犬のようにキャンキャン言ってる二人を見ながら、アル様と一緒につい顔を見合わせ笑ってしまった。




