第二十六話・急な呼び出し
あれから私は頑張った。
クラスは残念ながら違ってしまったが、お昼や放課後になれば、やはりティファニア殿下はアル様達の元にやってきた。
例の件が落ち着いてからは用が無ければ生徒会室に行く事は無かったのだが、ティファニア殿下と交流を深める為に日参した。
最初はアル様達と話をするのに私が邪魔だと睨んでいたティファニア殿下も、私がお菓子を手土産に出向いていたらだんだん絆されてくれたのか睨みつけられる事は無くなった。
その代り変なものを見るような目で見られたのは少々痛かった。
そしてやっと私にも挨拶を交わしてくれるようになった頃を見計らって、爆弾発言を投下した。
『私とお友達になってくださいませんか?』
と尋ねたら物凄くうろたえて『そ……そんなに言うならなってやらない事も無いですわ』なんて返された日には、周りは怒っていたが私は両手離しで喜んだ。
急に呼び名が変わったのは、友達になったのに余所他所しいなど許せないと、ティファに言われ愛称呼びの許可まで頂いたからです。
勿論私も愛称で呼んで貰ってます。
そんなある日、私達はアル様に呼ばれ二人で生徒会室へ来ていた。
やはりあの後もアル様達はティファが苦手らしく、勝手に行く事はあっても呼ばれる事など無かったから、珍しい事もあると不思議に思ったけれど、断る理由も無いし何よりティファが喜んでいるので直ぐに伺った。
「転入生……ですか……」
私達が並んで座るソファーの向かい側に座ったアル様が神妙に頷く。
「そう、それもかなり特殊なケースで学園に通う事になった人物なんだ」
少し前にティファとダリル殿下が転入してきた時は、わざわざ呼び出されるような事は無かった。
それだけ今回は重要な件と言うことなのだろう。
「特殊とは?」
頬杖を付くアル様に尋ねると、後ろに控えていたルイスを一瞥、ルイスも黙って頷くと手元の書類を見ながら説明してくれた。
「転入生の名前はリリーナ・ブラウン、ブラウン男爵家の長女とされています」
「ブラウン男爵家?あちらにご令嬢なんて居らしたかしら?」
一応私も公爵令嬢、貴族の家計図とかは大体覚えている。
特に現代と次代については自分に関わる事だから、しっかり記憶していたはずなんだけど。
「先日までは居ませんでした。リリーナ・ブラウンは十年前に誘拐された跡取り娘だそうです」
「「誘拐!?」」
私とティファは同時に悲鳴のような声を上げてしまった。
令嬢が誘拐される事は確かに稀にある、それゆえに私も学園以外では護衛が付くし、学園内でも学園に雇われた護衛騎士が各所に配備されている。
令嬢が誘拐されたとなれば、何も無くてもそれだけで醜聞になりえるからだ。
青い顔をする私達を他所に、ルイスは説明を続けた。
「ブラウン男爵家は十年前自宅に強盗が侵入し、ブラウン男爵夫人と使用人数名を殺害、犯人は当時六歳だった娘のリリーナ・ブラウンを誘拐し逃走したそうです。数年に渡り娘を探していた男爵でしたが、先日国境付近に在る修道院にて娘と思わしき人物を発見、確認した所修道院に初めてやって来た時の服にブラウン男爵家の紋章が有った為、娘に間違いないと連れ帰ったそうです」
ルイスが話し終えて沈黙すると、隣に座っていたティファは渋い顔をしていた。
私ももしかしら似たような顔をしていたかもしれない。
「それ、間違いありませんの?十年見なかった娘が本当に分かりますの?」
ティファの言い分ももっともだ、私も十年前に会ったきりの人を見たら分からないと思う、まして子供でしょう?一番成長する時期になのに……
「同じように考えている人物は他にも多く居る、ただ当の男爵が娘で間違いない、母親にそっくりだと言っているそうだから、誰も何も言えないのが現状なんだ」
溜め息を吐きそうになった。
やっと一難去ったと思ってたのに……
「暫くは学園内が荒れますわね……」
アル様を見ると表情が暗い、公務に生徒会にと忙しいのに、ここに来て心配事が増えるからお疲れなのだろう。
「ああ、今学園内の女性でトップと言えば君達だ、先に伝えて助力を願おうと思ってね」
そう言われてティファと二人顔を見合わせる。
隣国の王女と自国の公爵令嬢、権力的には間違いないツートップだろう。
「ブラウン男爵令嬢が簡単なマナーの勉強を終え、学園に通うのは月の頭頃になるだろう。問題が多々起こるだろうから、気をつけてあげて欲しい」
「賜りました。出来る限りご助力させて頂きますわ」
私に安心したような笑みを浮かべ、アル様は小さく頷いた
ティファはまだ少し不満気な様子だったが、アル様に頼まれたなら仕方無いと渋々了承していた。
その後はまだ仕事が残っているというアル様達と別れ、私達は生徒会室を後にした。




