閑話・予想外は予想できない
アルフレッドは困惑していた。
よりにもよってリディアーネが、自分達に色目を使ってくる王女と懇意になってしまったからだ。
自分が気に入られても厄介ななので、出来れば王女には必要以上関わりたくない。
しかし、リディアーネが彼女を友人と言って憚らず、暇があれば一緒にいるので関わらない訳にもいかない。
特に昼時は朝も放課後も仕事に忙しいアルフレッドにとっては、数少ないリディアーネとの憩いの時間なので失いたくは無かった。
「リディは今日はどうしている?」
隣で黙々と書類を整理するルイスに視線を投げるが、ルイスは気付いていていつも無視してくるので、いちいち声を掛けないといけない。
本気で不敬なのだが気のせいだと言われると証拠は無いので、未だにそのままだ。
そんなルイスの態度にイラつきながらも、彼がリディの話題を振って苦虫を噛み潰したような顔をしたので、珍しい事もあると驚いた。
「あの女と家で茶会だそうです」
とうとう自宅にまで行っているのかと思うと、アルフレッドは溜め息を吐いた。
そしてもう一人書類の山に埋もれて居る人物を睨みつけた。
「何故わざわざ連れて来たんです。婚約しないまでも置いてくれば良かったでしょう?」
「人に押し付けといて良く言うよ……僕はただ、留学先の勉強が途中だから帰るって言っただけ」
ダリルは不機嫌そうな顔で目の前の書類から一枚持ち上げると、それをこれ見よがしに振ってみた。
「大体さ、なんで僕が生徒会手伝わなきゃいけないわけ?前まで無かったじゃないこんな仕事」
「女性を入れると何かと煩いですが、男性なら問題ないのでね。私は使えるものは使う主義なんです」
リディアーネの事件で滞っていた生徒会職務はほぼ安定してきていたが、それでも日々の嘆願書や学園内整備の要請書などは後を絶たない。
その上まだ新しい転入生が予定されているらしく、普段と違う書類も多々あった。
勿論アルフレッド一人でも片付けられる程度の量なのだが、放課後王女と過ごす事の増えたリディアーネは前より遅くまで学園に居るので、早めに書類整理を終わらせてあわよくば一緒に帰ろうと画策していた。
その為、一人でも手が増えるのはアルフレッドにとって喜ばしい限りだ。
寧ろこうして仕事を押し付け足かせを付けておかねば、本来放課後自由の身であるダリルはすぐ一人でリディアーネの元へ行く。
自分達が我慢して仕事をしているのに、そんな事は許せんとルイスと二人で今回の事を決めたのだ。
「帰りに我が家に寄りますか?」
しかし、今日は早くに終えてもリディアーネは帰ってしまっているのかと残念に思っていると、ルイスが思いも寄らない事を言ってきた。
いつもなら放課後自宅に帰ったら、約束も無いのに来るなと威嚇してくるはずの人物が、わざわざ招くなど…………
「……そんなに、王女が嫌いかい?」
「当たり前です」
普段から無表情の顔をなおさら凍らせて、ルイスが即答した。
何となく分かっていただけに、アルフレッドはまたもや溜め息を吐いてしまった。
自分もリディアーネには会いたいが、王女に絡まれるのは嫌だから代りを連れて行こうと言うのだ。
それが分かっていて付いて行くほどアルフレッドも馬鹿では無い。
「今日は、遠慮しておくよ」
再転入してきてリディアーネと同じクラスになったダリルは無理をする事も無いので、王女が居ると知れば初めから来ないのは分かっていた。
代りが用意できなければ自分の所に間違いなく来るのが分かるルイスは、自然と処理の速度が下がっていった。
「ルイス……」
無言でルイスが顔を上げる。
王女が自宅に居ると思うからか、ルイスの態度も力ない。
「王宮の公務も……手伝うか?」
いつもなら、早くリディアーネの居る自宅に帰りたいルイスへの、嫌がらせとも取れる誘いだが、今日は救いの一言に聞こえた。
「終わるまで、お手伝いさせて頂きます」
アルフレッドの公務が終わるまでとなると、夜間帰宅コースだ。
絶対に居なくなる時間まで帰りたくないという意思表示だろう。
アルフレッドは黙って頷くと、また手元の作業を再開した。
ルイスの手も元の速さに戻ったようだ。
『一体どこに気に入る要素があったのか……』
リディの予想がつかない所は面白いと思っていたが、今回は予想外すぎたとアルフレッドは誰にも聞こえないように、もう一度溜め息を吐き出した。




