第二話・八つ当たりからのタナボタ
今朝の私は荒れていた、正直毎日のやり取りにはストレスを感じている。
「ファイヤーボール!ファイヤーボール!……ファイヤーボール!!」
初級火属性魔法でも何十回、または何百回も打てば結界術式を破壊出来るのか、今はその実験中だ。
別名八つ当たりとも言う。
私は幼少の頃から、王宮の鍛錬所を借りて毎朝鍛錬を行っているのだが、今日は出来る限り早起きして暗いうちからやって来ていた。
殿下と登校するようになってから、朝の鍛錬時間が減っていた事も不満の一つだったので、いっそ早起きして時間を増やす事にしたのだ。
取り合えず溜まっていたストレスを吐き出すように、何度も何度も魔法を繰り出す。
大量魔力を有する私だ、初期魔法なら千回打っても魔力切れにはならない。
元々恋愛下手な私にあんな濃い毎日は初めから無理があるのだ。
もう少し初心者向けにはなってくれないものか……
そんな事を思いながら延々繰り返していると、実験の結果は意外過ぎるほど早く訪れた。
いつの間にか分厚かった防御結界が薄めになり、そこが拳一つ分くらいだけ開いたのだ。
そこですぐに魔法を止められれば良かったのだが、まだまだ時間が掛かると思って居た私は止める事も出来ず、とっさに方向を上に変更してしまった。
小さな火の玉は天井に一直線に向かい、光のドームに激突する。
本来ならそれで防護結界に当たって消滅するのだが、予想外の事態がまたもや起きた。
私が開けた穴の修復で一時的に術式が変化していたのか、そのまま今度は一直線に跳ね返ってきてしまったのだ。
所詮初期魔法だ、いつもならシールドを張って済む問題なのだが、予想外に予想外が重なった結果驚き過ぎて反応が遅れてしまった。
不味い避けきれない!!
咄嗟に頭を抱えると、後ろから誰かに腕を引き寄せられた。
一瞬驚いたが、バランスを崩して見上げた先に海のように青い髪が見えて、安堵するとそのままその胸に倒れこんだ。
頭上を剣による一閃が煌き、それに弾かれてファイヤーボールは跡形も無く吹き飛ぶ。
やっと落ち着いて顔を見れば、彼は呆れたような眼差しを私に向けていた。
「珍しく俺より先に来てると思えば、お前は何やってるんだ」
髪より少し緑がかった瞳に見咎められ、苦笑いするしかない。
「初級魔法で結界壊せるか実験を……ごめん助かったよ、ありがとうカイル」
私を助けてくれたのは騎士団長子息のカイルだった。
彼とは八年ほど前からこの王宮鍛錬所で早朝の鍛錬をする仲間だ。
私は鍛錬中に好奇心から色んな失敗を良くするので、初めて会った日からカイルには助けられてばかりいる。
数年前までまだ学生だったカイルだが、彼は今や小隊とはいえ一部隊長だ。
まだ20代になったばかりで隊長職とは異例の出世と言って良い。
しかし、元々彼の家が多くの騎士団長を排出した名門家と言う事に加え、幼少時からの鍛錬の成果か彼が騎士になる頃には軍を抜いた強さを誇っていた。
まあ、カイルの努力を知っている私からすれば、当然といえば当然かもしれない。
今だってもう騎士団の仕事も忙しいし、鍛錬だって普通に毎日している。
それなのに早朝からのこの自主練習を絶やした事は無いのだ。
凭れ掛かるような体制になっていた私の両肩を支えると、彼はそっと立ち上がらせてくれた。
「自分の作った魔法すら避けられないようじゃ、魔術師への道は遠いぞ」
確かにその通りだと思うと何も言い返せない。
何だか最近の出来事で本当に魔術師になれるのか不安になってきた所に、それ以前だと気づいてしまい項垂れてしまった。
「……おい、リディ……お前大丈夫か?」
私が急に大人しくなった事に気づいたのだろう、カイルが心配そうにこちらを見ながら聞いてきた。
これは私の問題だ、これ以上カイルに迷惑を掛ける訳にはいかない。
「うん、全然大丈夫よ!」
無理やり顔を上げると大丈夫だと笑いかけたけれど、カイルの目は笑って居なかった。
カイルの前では、頑張っても私の落ち込みは隠しきれて居ないのかもしれない……
それでも弱音を吐こうとはしない私に諦めたのか、カイルは大きなため息を一つ付き視線を逸らした。
聞かないでくれるらしいと思うと、少しだけほっとした。
「……渡り付けてやろうか?」
「えっ?」
急なカイルの提案に頭が一瞬真っ白になる。
……渡りって何の?
「魔術師団、見てみたいってずっと言ってたろう?見学ぐらいなら俺の立場でも何とかなる」
魔術師団?魔術師団ってあの魔術師団?
頭の中で何度も何度も繰り返してしまう、憧れの魔術師団いつか私の行きたい場所。
「行く!!行きたい!!」
さっきまでの悩みなんて一瞬で吹き飛んでしまった。
ゲンキンな奴だと言われても気にしない!
心は浮かれ過ぎてそのまま羽でも生やしてしまいそうだ。
もういっそ本当に一日中浮いてようかしら?
そんな馬鹿な事を考えていたのもお見通しなのか、またカイルに呆れた目を向けられてしまった。
今日はやたらと呆れられてる気がする……いつもの事か……
「さっさと鍛錬やるぞ!」
一気に気分の浮上した私の頭を、いつものように軽く数回叩いてカイルが笑いかけてくる。
楽しみが有ると人間頑張れるものだ、私も満面の笑みを浮かべて頷いた。




