第十九話・逃げ道なんて初めから無い
夜会当日、私は見事に殿下一色コーデで王宮へ向かった。
唯一予定と違うのは、今日のエスコートをルイスがしているという点だけだろう。
このドレス一式を見て激怒したルイスは、エスコート役だけは断固として譲らなかった。
確かにそれを殿下にされては、逃げ道が無くなると言って良い。
不敬罪ギリギリの発言を繰り返しながらも、何とかエスコート役を死守したルイスは凄いと思った。
あんな極寒の戦い私には無理……
最後は私を夜会に出さない為の計画書を作り始めたルイスを見て、殿下が折れた。
何故か殿下は、私に今回の夜会へどうしても出て欲しいらしい。
そう言われると何だか嫌な予感もして、ちょっと不安になるのだが上級貴族はこぞって参加なので、これと言った理由が無ければ休んだりはしない。
お父様にエスコートされたお母様の後を、ルイスに連れられ歩いて行く。
今回のエスコートがルイスに決まった時一番喜んだのは実はお父様だ。
殿下が相手だと予め迎えに来られて、王宮で待機するのが常で一緒に自宅を出る事が出来ないといつも嘆いていた。
実はルイスは、もうお父様に私を婚約者にしたいと直談判している。
その話をお父様から確認された時には、驚き過ぎて開いた口が塞がらなかった。
一応私が了承した場合のみ許可すると、現在は保留状態が続いている。
しかし、それを聞いて最初は目が落ちそうなほど驚いていたお父様だが、今回の事でお父様は私の婿にルイスを押す事を決めたようだ。
馬車の中にいる時も終始ご機嫌で、『ずっとこうして家族一緒にいたいものだ』と言い出したお父様に、『誠心誠意努力させて頂きます』と返したルイスを見ながら満足気に頷いていた。
お母様は天然のほほんな方だから、何の事か分からず『皆仲良しは良い事ね』なんて笑っていたけれど、当事者の私が一番居心地が悪かったわ。
まだ彼らの好みの女性を探し出す計画は、諦めた訳じゃないんだからね!
今度転入生が来るとか学園の先生方が仰ってたし、新生ヒロインを見つけられるかもしれないから確認してみよう。
丁度魔術師団の建物が見える所まで来ていたので、窓の外に聳える建物を見ながら決意を新たにした。
王宮に着くと控えの間に案内され、暫くそこで寛いでから会場へ案内された。
会場内は凄い人だったが、私達が入室すると陛下と王妃様までの道がすっと開ける。
何時見ても魔法みたいだなと思う。
モーゼってこんな感じなのかな?と思うがここからは私も普段のようにする訳にはいかない。
公爵令嬢として今日は優雅に上品に、完璧な淑女を演じなければならないのだから。
数秒で『ああ、肩が凝る』と思ってしまったのは秘密。
筆頭公爵家である我が家が挨拶を終えると、次々上位貴族から順番に挨拶が始まる。
あまり長居すると次の方の迷惑になるので、いつも通り当たり障りない挨拶をしたら直ぐ下がる予定だ。
陛下と王妃様にご挨拶をして、お隣に立つ殿下にさあご挨拶となったのだが……
「良く来てくれたね、そのドレス良く似合ってる。エスコート出来なかったのは残念だけど、後で一曲踊ってくれるかい?私の選んだドレスを着た君をもっと近くで見たいんだ」
開口一番にルイスがエスコートした意味を、見事にぶち壊してくださいましたよ……
元々殿下の声は良く通る声なのに、はっきりきっぱり言ったからもうこの近辺に居た方、皆聞こえてますよね。
周りからやっぱりとか、そうなのかしら?とかヒソヒソ噂好きなご婦人方の声が聞こえてくる。
違います候補でしかありません、寧ろ今お断りしてますなんてこの姿見たら誰も信じないよね……
隣からまた冷ややかな冷気を感じるし、もう帰りたくなってきた。
帰って良いですか?と今すぐ問いかけたいけどそれも出来ない。
嫌させてもらえなかったと言うべきかしら。
こんな所で殿下から誘われたら、NOなんて言える訳ないでしょう?
笑顔の引きつるお父様と、相変わらずあらあら言いながら微笑むお母様と、物凄く不敬だからと言いたくなる鋭い目つきで睨みつけるルイスに、胃が痛くなるのを感じながら『……喜んで』と口元をヒクヒク震わせながら無理やり微笑んだ。




