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第十八話・誓いと罠

その日家に届いた贈り物は梱包からして豪華な一品で、添えられたカードの蜜蝋を見なくても有力貴族からの贈り物なのは一目瞭然だった。


誰からの贈り物なのかは知っている。

送る前から届けると予め予告されていたから。


封筒裏の青い蜜蝋に王家の紋章を見て、やはりそうかともう一度贈り物を見直した。

聞いた時は一個だけだと思っていたのだけど、これは……


「一式ありそうね」


山のように詰まれた箱を見て、流石に溜め息が零れた。




さかのぼる事数十日前、私は王宮で殿下とお茶をしていた。

あの事件以来互いに忙しくしていたので、二人でのんびりお茶をするというのは久々だった。


最初は他愛ない近況報告のような会話をしていたのだけれど、途中からあの時の話になった。


「正直、今回は自分の不甲斐なさを実感したよ。長い年月公務だなんだとやってきたから、大体の事はどうにか出来ると、どこかで驕っていたのかもしれない。大事な時に何も出来なかったなんて本当に情けない……」


自嘲気味に笑う殿下を見て、私は慌てて首を横に振った。


「何もだなんて!十分過ぎるほど頑張ってくださいましたわ!!それを言うなら私の方が……」


思い出すと自分の方が情けなくなる。

魔術を使われても分からず、何か気になると分かっていても思い出すことも出来ず、結局巻き込んでおきながら、一番何も出来なかったのは私自身だ。

俯く私に殿下は優しい微笑を浮かべ『それで良いんだよ』と言ってくださった。


「君を守るのは私の仕事なのだから、危険を感じたなら一番に頼って欲しい。私の知らない所で、リディが危険に晒される方がよほど私には辛い事なんだよ」


幼子を諭すように穏やかな声で、優しく説得する殿下に私はどうしても頷けなかった。


「それでは私が嫌です、誰かに守ってもらうのでは無く、私は誰か守れる……せめて誰かの役に立てる自分になりたいんです」


「それなら、リディが困った時は私が助けるから、私が困った時にはリディが助けてくれるかい?」


下唇を噛んで悔しそうに俯く私の手を取って、殿下は一つ頷くと提案してきた。

目を点にして殿下を見つめると、殿下も私を見つめ返してくれた。


「リディが困った時必ず助けられるように私も頑張る、だから私が困った時に助けられるようにリディも頑張る、それでどう?」


やっと殿下の言っている意味を理解して、私は満面の笑みで頷いた。


「はい!頑張りますわ!!」


「うん、私も頑張るよ」


私の返事を聞いて、殿下は嬉しそうに笑ってくれた。

目標の出来た私は俄然やる気が出てきて、テーブルの下で小さく拳を握った。


「後もう一つ気にしてる事があってね……」


笑っていた殿下が、ちょっと視線を逸らすと不安げな表情を浮かべる。

私は心配になって『殿下?』と小首を傾げた。

すると真剣な表情でもう一度私の方を見た殿下が、徐に立ち上がると私の直ぐ横まで歩いてきた。


そっと伸ばされた腕が、私の首筋に触れる。

指の這う感触に体がビクッと反応してしまい、顔を赤く染めて俯いた。


あの事件以来、殿下は時々思い出したように私の首筋に触れる。

その行為に慣れる事が出来そうに無い私は、毎回顔を赤くしていた。


「やっぱり悔しいな……意地でも止めれば良かった……」


毎回殿下は辛そうな、切なそうな顔をして私を見るから、そのたびにちょっとした罪悪感のような物が胸を過ぎる。

だからどうしても、私の肩に顔を埋めてくる殿下を拒む事が出来ずに、最近はしたいようにさせてしまっていた。


「ねぇ、リディ」


顔を埋めたまま殿下が話しかけて来るので、少々くすぐったい。


「なんでしょう?」


あまりのくすぐったさに身を捩りながら返事をすると、肩を震わせ声を殺しながら殿下が笑っているの分かって、顔を上げさせた。


頬を膨れさせる私を見て、『ごめん、ごめん』と謝っていたが、本気で謝罪している割にはまだ肩が震えている。


「今度王宮で隣国の王族を招いた夜会があるでしょう?リディのエスコート私がしても良いかな?」


舞踏会やお茶会など大規模なものほど最近は殿下がエスコートだったし、寧ろいつも半分強制だったのにわざわざ確認するなんて珍しい。

不思議に思ったけれど誰がエスコートとも決まっていないし、王族といっても王子、王女を招いての物だと聞いているので、他国の王太子の婚約式などに比べたら大したものでもないだろう。


「父に聞いてみないとですが、問題は無いかと思われますわ」


それを聞いて殿下は満足そうに頷いた後、それと……と話を続けた。


「当日のドレスなんだけれど、良ければ私に贈らせてくれないかな?」


急な申し出に目を瞬かせてしまった。

しかし、婚約者でもない私があまり高級な物を受け取るのも如何なものかと、難色を示していると殿下はまた私の首筋に触れ、寂しそうにな目をしてきた。


私がこれに弱いの知っててやってないかな……とも思うのだけど、もう仕方ない諦めて負けようと思った。


「……分かりました……父にもそのように伝えておきますわ」


がっくりと項垂れる私と対照的に、殿下の目はキラキラと本当に嬉しそうだ。

準備もあるだろうから早めに贈ると言われて、その後も他愛ない話をして家に帰った。



そしてこれだ、侍女達が私の目の前で一生懸命開封してはテーブルに並べていく。

やはり思っていたとおり、頭の先から足の先まで一式揃っていそうだ。


次々並べられる品々が一つ増えるたびに、表情が引きつっていく。

流石にこれはあからさま過ぎるでしょう?


真っ青なシルクのドレスには銀色の糸でいくつもの薔薇の花が刺繍され、プラチナの髪飾りにはこれもまた見事な薔薇の細工とダイヤが散りばめられている。

イヤリングとネックレスも髪飾りとお揃いのデザインになっていて、最後のパンプスはドレスと同じ青のデザインだが、これまた飾りは銀の薔薇で見事な銀と青のコーデが出来上がっていた。


うん、私でもこれは言われなくても分かったわ。

殿下の色一色ってどうなのこれ?

あの目に負けて頷いたのは失敗だったかな……


だってこれ着て、その上殿下のエスコートで夜会に出たら、勘繰ってくださいって言ってる様なものだよね?

だからと言って、王家から贈られて来た物を無下にする訳にもいかないし。

私は暫くそれらと睨めっこしながら、うんうん唸り続けるのだった。


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