第十七話・考えてみれば破天荒
今回の件があってから、朝早くから自宅まで来ていたお迎えは一切無くなった。
どうやら事件で殿下達三人はそれぞれに思うところがあったらしく、自身を磨くべくラディアスは朝は学園の鍛錬場で自主トレ、殿下とルイスはそれぞれ王宮で仕事をしてから学園に通うようになった。
私としては朝の平穏はありがたい限りなので、心から応援したいと思う。
とはいえ、私もあれから朝の鍛錬をただの研究込みの魔術練習から、少し実用的な戦闘も視野に入れたものに変更した。
研究用の魔術練習と半々くらいで、護身をかねた戦い方の基礎をカイルに教わるようにしたのだ。
皆に守られるばかりでは、高魔力なんて宝の持ち腐れだもの。
しかし、今日は少し熱中し過ぎて時間が大変オーバーしてしまった。
時間も無いので頭から水魔法で水を被り、炎魔法と風魔法を駆使して一気に乾かすとやっていたら、隣で見ていたカイルに『器用なもんだな』と苦笑いされた。
ご飯は抜けても汗臭いままで学校だけは行きたくない!!
これでも一応乙女なんだから!!
そうして、動く馬車の中で念の為に入れてあった制服を早業で着替え、まるでいつもの時間に当たり前に到着したような涼しい顔をして馬車を降りた。
「おはよう、リディ」
声がする方を見れば、三人が綺麗に横に並んで微笑みながら迎えてくれた。
それはまるでゲームの表パッケージかと思うほど、見事にずらりと並んでいて。
その後ろにある校舎の窓から、カーテンに隠れたユーリが小さく手を振っている辺りも妙にそれらしかった。
不意にその綺麗な列から外れた殿下が、スルリと私の頬を撫で、そのままの動きで胸元に結ばれたリボンに手を伸ばした。
驚いて後ろに下がろうと思ったのだけれど、硬直した体が思うように動いてくれなくて、されるがままになってしまった。
殿下は触れたリボンを起用に均等に直すと、耳元に顔を近づけて来た。
「馬車で着替えるのは、やめた方が良いと思うよ」
ナゼソレヲ……
小さな囁くような声だったから、二人には聞こえていないだろうけれど。
私は瞬時に顔を青白く染めた。
どこまでばれているのかしら、朝の鍛錬?それとも馬車の早着替え?
どちらに転んでも色々と不味い……
殿下が私を見てニコリと笑う、私も誤魔化すようにニコリと笑う。
傍から見れば微笑み会う二人の図だが、本人達には牽制しあう微妙な空気が流れていた。
その空気の流れを変える様に、ルイスが後ろから私の髪に触れた。
何度か髪を梳くように撫でながら、微妙に絡まっていた髪飾りを綺麗に戻してくれる。
綺麗に整った頃、切なそうに目を細め小さな声で呟く。
「……痛みますよ」
言葉は少ないけど言いたい事は十分に分かった。
うん、今度からヘアケア用品も馬車に積んでおくわ。
こめかみを小さく痙攣させながら、それでも何とか必死に微笑みは崩さなかった。
これを崩したら負けを認めることになる気がする!!
何とか耐え忍んでいる所で、今度はラディアスがそっと近づいてきた。
今度は何!?何を言われるの!?
身構えて待っていると、フワリと肩から何かが掛けられた。
一瞬動きを止めた後にそれがラディアスの上着だと気付いて、首を傾げながら見上げたが、ラディアスは慈愛に満ちた微笑みを浮かべているだけだった。
どうして?と思ってから自分がとても暖かいと感じている事に気付いて、はっとした。
温風だからと思って気にして無かったが、どうやら私は結構体が冷えていたらしい。
『ありがとう』と呟くと、笑みを深めたラディアスが礼をして後ろに下がった。
ありがたいやら情けないやら……
なんで三人とも普通に見えるように登校してきたのに、色んな事を察しているのか。
何が理由でばれるのか気になって、色々考えたけれどやはり顔に出てるのだろうか?
淑女教育やり直した方が良いかな?切実に……
それにしても、リボンを直してくれて何かを囁く王子、切なげな表情を浮かべ髪を梳く義弟、上着を掛け慈しむような笑みを浮かべる騎士。
これだけ聞いてれば本当に乙女ゲームみたいだよね。
理由が私が遅刻寸前で水被ったとかじゃなければだけど……
乙女が聞いて呆れる案件に気がついて、落ち込む私は三人に挟まれつつ考え事をしながら、廊下をトボトボ歩いて行くのだった。




