第十七話・幕間的な何か~あの人は~
「本当にありがとうございました。これで安心して勉学に励めます」
今私たちは、エルクレオ様と一緒に魔術師団の応接室でお茶をしている。
本当は一人で来るつもりだったのだが、殿下達もお礼も言いたいと言うので一緒に来た。
用意された紅茶を一口のみ、エルクレオ様も目を細めて微笑んでくれた。
「大した事はしていませんよ、大事な団員と研修生の手助けをしたまでですからね」
大人の余裕といった感じで、優雅にお茶を飲む姿に感嘆の息が漏れる。
本当にエルクレオ様は凄い、それなのに大した事じゃ無いなんて驕らない所もかっこいい!
クロウドの事は勿論、私の事も研修生と呼んでくれるのが凄く嬉しくて、目を輝かしてしまう。
「しかし……恋とは困ったものですね。教員の彼もそうですが、秀才と名高い貴方方まで視野を狭まれてしまうのですから……」
言外に『落ち着いて考えれば分かるでしょう』と聞こえてきそうな嘲笑を浮かべ、視線を向けられた殿下達は、悔しそうな表情を浮かべた。
私もその一人なので、強くは言い返せない……そもそもの原因は私だし……
反省して俯いていると、エルクレオ様が私の目の前に菓子皿を引いて差し出してくれた。
ちらりと視線を向けると優しい笑みを浮かべて、視線でそれを促してくれたので、ありがたく一つ取って齧ると、優しい甘さが広がる。
なんだか嬉しくなって、小さく微笑むとなんだか周りからの視線が痛い。
顔を上げたら、皆見てる……何?淑女が物食べてるのそんなに見詰めるのは流石に不躾よ……
そんなに欲しいなら、要る?
焼き菓子を片手に持ったまま、不思議そうに首を傾げたら三人が顔を覆って俯いてしまった。
我慢しなくても良いのに、不満に思いながらも残りを静かに齧った。
その瞬間だった!!
どす黒いオーラを隣から感じて背筋を伸ばして硬直した。
目の前に座る三人も、突然の事に驚いて戸惑っているようだ。
この感じには覚えがある、あれだ……私がしおりの話をした時と同じだ……
「やっと……やっと来ましたねあの人は……」
地の底を這うような恐ろしい声に体が無意識で震える。
さっきまでの優しい大人のエルクレオ様はどこに行ったの?
どうしたら良いのか分からず、指一本動かせずに硬直していると、突然応接室の扉が開いた。
「やあ!エル、お客さんかい?」
お客さんと言う声に聞き覚えがあって、私は急いで振り向いた。
そこに居たのは、あの占い師の男の人だった。
「あっ!!貴方は!!」
「おや?あの時のお嬢さん、相変わらず複雑な星回りは変わってないね」
笑いながらなんでもない世間話のように言っているが、こんな所で会うなんて思いもしなかった。
それに、先ほどエルって……
「団長!貴方と言う人はまともに出勤もしてこないと思ったら、一体何をやってるんですか!?」
噴出したオーラに私達は後ずさるというのに、占い師さんはどこ吹く風だ。
団長!?この人あの幻とか言われてた団長さんなの!?
怒りで噴火でもしたのかと思うような赤い顔に、般若と見間違うような表情で迫られているのに、当の団長さんは不思議そうな顔で首を傾げるだけだ。
「街で趣味の占いかな?」
「趣味の占いじゃ無いですよ!!何不良品の試作品人に渡してんですか!!」
「ああ、あれねでも役にたったでしょう?」
視線をくるりと私に向け、にこやかに微笑む。
しおりの事を言われているのだと感じて、無言で数回頷いておいた。
でもあれ、不良品の試作品なんだ……
「ほらね?」
どこか自慢げな顔で、エルクレオ様に視線を戻す。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「ほらねじゃないですよ!!あの魔道具は確かに外部の敵から身を守るのには適していますが、その間一切自分も外界から遮断される上、自力解除が出来ないから不採用に決まったばかりのものでしょう!!」
「取りあえず、守れれば問題無いかと思ってね。採用はされなかったけれど、危険な物質や術式は含まれて居ない物だから、害にはならないと思ったんだよ」
笑みを浮かべながら、エルクレオ様の話を延々聞いている。
最初は凄い剣幕で怒っていたエルクレオ様も、暫く経つと落ち着いてきた。
「良いですか、もう試作品の持ち出しは止めて下さいね!!」
「はいはい、もうしません」
柔らかな笑顔だけで、このお説教を乗り切るとは、エルクレオ様も優秀だけれど、この人もある意味凄いと思った。
二人の話が終わって、引きつった笑みを浮かべる私達に『お茶が冷めてしまったね』と指先を鳴らしただけでお茶を新しい物に変えてしまったのも、凄い魔術師である事が伺えて尊敬の念を覚えた。
私は、団長にも今回の経緯を説明し、無事に解決した事を報告した。
「そうか、無事にすんだのなら良かったよ。ただ……さっきも言ったように、君の星回りはまだまだ複雑だ、何かあったらまた相談においで」
そう言って笑ってくれたので、私は一つ頷くとお礼を言ってから魔術師団を後にした。




