第十六話・茶番劇の終わりは熟睡
数日前、エルクレオ様が話したのは衝撃的な話だった。
一連の犯人は、恐らく私と何らかの手段を取らなくとも、定期的に会える人物であると言うこと。
それゆえに危険な橋を渡るような真似はせず、護衛の前に姿を現したりしなかったのだろう。
しかし、私に懸想していると思われる犯人は、執着も欲も深く彼の贈り物には自身を思わせる物が、実は含まれていた可能性がある。
狂愛が深い者ほど、自身に気付いてもらおうと何らかの手を打つ事がある。
恐らくそれが私が見覚えがあると言った、リボンではないかと言うこと。
これには、焼却処分を命じたルイスが渋い顔をしていた。
ゆえに一つ目の指示は、学園内で変わったリボンを使用している場所を探し出す事。
それも私が多く関係する所で……
発見されたのは、職員室の花瓶に結ばれたリボンと図書室の暗幕を簡易で縛っていたリボンそして……医務室に置かれた、クマのぬいぐるみに飾られたリボンだった。
それをエルクレオ様に報告すると、『そうでしょうね、これで確信が出来ました』と微笑んだ。
どうやら初めからエルクレオ様は、医務室の教員が怪しいと踏んでいたらしい。
ここの所、胃痛やら失神やらで良く医務室を利用していたが、あまりにそれが酷いので、最近になって主治医に胃薬の処方をしてもらい、胃痛関係では医務室に行かなくなった事が誘拐を企てだ原因だろうと。
「貴女を追い詰めれば、胃痛も酷くなり医務室を利用する回数が増えると踏んだのでしょうが、思ったようには行かなかった。その上周辺警備ばかりが厳しくなる、焦った彼は強行手段に出たのでしょうね」
エルクレオ様はまず、闇魔法を使った人物が他は一切の痕跡を残さなかった事に目をつけた。それ程用意周到な犯人が何故その痕跡だけは残したのか……
恐らくカモフラージュのためだとエルクレオ様は言った。
今回初めて聞いたのだが、光属性の魔法を使える人は闇属性を持っていなくてもそれを使う事が可能らしい。
ただし、濃い闇を作り出さなければならない分、必要な魔力も多大になる為、普通は出来ないし、無駄な事なのでやろうとはしないそうだ。
勿論逆も可能らしいが、同じくやる人間は少ない。
しかし、誰もやらないからあまり周知もされていない。
そこに目を付け、犯人は闇属性持ちであると、私達に誤認させる事が相手の狙いらしかった。
光属性の高魔力持ちは他に比べて少ないが、学園の教員ともなればかなりの実力者だと考えられる。
そこでエルクレオ様は、医務室教員が犯人だと目星をつけたらしい。
「痕跡を残す事であえて自分から目を逸らし、あわよくば最初の贈り主に罪をなすりつけるつもりだったのでしょう。運の悪い事に最初の贈り主は本当に闇属性でしたから、あのままでは彼は投獄されていたかもしれませんね」
クロウドが冤罪で投獄されていたかもと思うと、背中に冷たい汗が流れた。
「何で私に変な贈り物が来たのを知ってたんでしょう?」
不思議そうに尋ねる私に、エルクレオ様はさも当然と言うように言い切った。
「貴女の声は大きいですからね、医務室に行った時にでも聞こえたのでしょう」
そう言えば、初めて会った時もそれで怒られたんでしたっけ……
淑女として少し気をつけようと反省しました。
そこで今回の茶番だ、ただ乗り込んだだけでは証拠が一切無いこの状況。
それを覆すために彼の執着を利用すると。
いつも通りを装い医務室へ赴き、彼に聞こえるほどの声でイチャつけと……
勿論殿下とルイスが異議を唱えたが、全てまるっと却下されてました。
その後、殿下に呼び出された風を装いラディアスは退散。
実は隣の教室に待機していた皆と合流して、彼が尻尾を出すのを待つという計画だ。
それで教員がやったと言う証拠が掴めるのか少し心配だったが、エルクレオ様は私が寝たふりをしてれば、色々しゃべってくれるだろうから問題無いと仰った。
そして案の定、最初の荷物に似せて贈った物のリボンに、私が気がつかない事を悲しんだり。
二人きりの城を作ろうと無理をして闇魔法を使ったのに、妙な力に阻まれて出来なかった事を謝ったり。
妄想の限りを私に話しかけていたらしい……寝てたから聞いてないんだけどね……
けど、贈り物の中身についての会話は、寝てて良かったと本当に思った。
聞きたくないよ……どうやって用意したとか……
こうして、一連の事件は幕を閉じた。




