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閑話・双璧の裏相談

アルフレッドはジェラルダイン家の廊下を歩きながら、隣に歩くリディアーネをそっと見る。

完全に放心している彼女の目は虚ろで、自分の思考の渦に飲まれているようだ。

こうなると暫く彼女は戻って来ないので、よほど大声で話さない限りは聞いていない。

それを良い事に、その向こうで歩くルイスに語りかけた。


「良い仕事をしたね、ダリルは今朝は来ないよ」


全くアルフレッドを見ようともせず、ただリディアーネだけ見詰めていた瞳が少しだけ上げられた。


「……何の事か分かりかねますね」


相変わらず無表情な顔からは感情が読み取れない。

しかし、アルフレッドの方を向いた地点で予想は確実な物になった。

自分に関係の無い話なら、あのルイスがリディアーネから視線を離す事などない。


そう、通常より早い時間に馬車の用意を依頼したダリルの要請書を握りつぶしたのは、恐らくこの男だ。


ルイスが昨日も、王城にて執務の手伝いをしていたのは気付いていた。

そして今朝指定時間に馬車が用意されていないと喚くダリル。


乗せろと言われたが勿論断った。

どうせ時間になればいつもの馬車が用意される、誰がリディアーネを迎えに行くのにダリルを同乗させたりするものか。

毎朝のように出没しては、リディアーネに抱きつくダリルに、いい加減殺意を覚えていたのだ。


「今朝だけと言わず、永遠に来なくて良いのだけど……」


二人はリディアーネに纏わり付くピンクブロンドを思い出し、苦い表情を浮かべた。

ダリルが隣国の王子でなければ、自国の王太子と公爵令息二人に睨まれてまで接触してくる強者はいないのだが……


「どうにか自国に送り返してしまいたいのだが、外交に響くような真似は避けたいし難しい所だよ」


ため息を吐きながら呟くアルフレッドの言葉に、思案していたルイスだが、暫くすると伏せていた目を上げた。


「……帰国の要請を出させれば良いのでは無いですか?グラウン国の国王から」


呟かれた言葉に再度ため息が零れる。


「それが出来れば初めから苦労は……」


「先日殿下宛に来たリベリア国の王女との縁談を覚えておられますか?」


アルフレッドに重ねるようにルイスが言葉を続ける。


「すぐに断りの書簡を出したあれか、それがどうした?」


ダリルの母国グラウンとリベリアそしてこの王国とは三国で隣り合わせて存在していた。

規模の大きさも同じくらいなら、繁栄具合もそれほど変わらない三国は、対等の立場で同盟を結んでいる。


その一つリベリアの第二王女との縁談は、国王から今すぐ無理に縁を結ぶ必要は無く、アルフレッドに返答は一任すると言われていた。

隣国との縁談は確かに政略的には良い話なのだろうが、アルフレッドはリディアーネを正妃にすると決めているので、悩む事も無くすぐに断った。

それを思い出して怪訝な顔をしていると、ルイスが悪魔のような笑みを浮かべた。


「かの王女が我が国に縁談を持ってきたのは、顔の良い男を好むからと聞き及んでいます。そこにダリル殿下の情報が入ったらどうなるか……」


我が国とリベリアは海洋にも面している為、他国との貿易に適している。

そして何より塩が安く手に入るのだ。

それに比べてグラウンは、陸路続きなので土地は二国よりも若干大きいが、どうしても塩を輸入せねばならない。

その上第二王女なので嫁に取る事も可能で、早くに婚姻をさせてしまえばダリルの臣籍降下も早まり、いまだ諦めきれない第二王子派を黙らせる事もできる。

輸入、貿易、王太子派と第二王子派の確執。

どれを取ってもこの縁談を纏めれば、グラウン国にとって利益しかない。


しかし恐ろしい男だ、こんな短時間で最良の案を出してくる。

私の邪魔を何年もし続けた頭脳は伊達では無いと言う事か……


アルフレッドがもう一度ルイスを見る。


「私一人では時間が掛かり過ぎる、勿論手伝ってくれるんだろう?」


今度はルイスもアルフレッドの顔をしっかり見ると、真剣な表情で頷いた。


「致し方ありませんね、早急に害虫は駆除したいですから」


不意に二人揃って間に居るリディアーネに視線を移す。

最初より若干疲れた表情を浮かべているが、二人の会話を聞いていた様子はやはり無い。

これだけ不穏な話をしていても全く気付かない事を、肝が据わっていると褒めれば良いのか、暢気すぎると呆れれば良いのか……


聞かれても困るので今はそれで良いかと、疲労により足が今にも止まりそうなリディアーネを玄関へと促した。


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