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第十五話・小さな事件の終わり

私はラディアスに抱えられ、医務室に向かっていた。

いつも通りの視線がかなり痛いので、顔は勿論彼の肩に埋めている。

顔を上げて堂々と?そんなの無理に決まっている。

何度やってもこればっかりは慣れないのだから仕方ない。


「失礼します」


入室してきたラディアスと、その腕に抱かれている私を見て、医務室の教員が苦笑いを浮かべる。


「また、具合が悪くなってしまったのですか?無理をしてはいけませんよ」


「……申し訳ございません」


謝る私に開いているベットを薦め、そこにラディアスが私を横たわらせる。

あまりにいつも通りのやり取りだから、二人とも動きがスムーズだ。

本当に結構な頻度で運ばれてたんだなと思うと、ちょっと申し訳ない気分になってしまった。


「彼女は私が見ているから、君は戻って大丈夫だよ」


いつも通りの言葉に、ラディアスは今日は頷かなかった。


「いえ、護衛の任を承っておりますので」


そう言うと、一つ頭を下げてベット周りのカーテンを閉めた。

私が閉めようとすると大変なカーテンだが、高身長のラディアスがやると一瞬で閉まるのが悔しかった。

医務室の教員は小さな溜め息を吐くと、自分の机に戻ったのか椅子の音が聞こえ、その後は静かになった。


暫く沈黙が続いた後、ベット脇の椅子に座っていたラディアスが、徐に立ち上がる。

ベットに片膝を立てると、ギシリとベットがしなる音がした。


「ラディアス?」


無言で伸ばされた腕に囚われる……

腰に伸びた左腕に引き寄せられ、柔らかく抱きしめられた。

爽やかな香りに包まれて、緊張で身体を硬くしてしまう。

ベットに肘を付いたまま伸ばされた右手は頬を何度も優しく撫で、そのたびに体中に熱が溜まっていくのが分かった。


「ラ……ラディ……っ!!」


手を退けようとしたが逆に掴まれて、そのままベットに縫い止められる。

顔が肩の上に降りてきて、唇が首筋を数度撫ぜた。

時々舌が這っていくのを感じて背筋にゾクゾクとしたものが走る。

何とかその手から逃れようと身体を捩るが、囲い込まれた身体は頑張った所で身動きできる状態では無かった。


「嫌ッ!……ダメ……あっ!!」


あらぬ声を自分が上げている事に気付いて、羞恥で顔を背ける。

口を両手で覆うのが精一杯だった。

しかし、混乱で頭の中が真っ白になってきた頃、カーテンの向こうから声が掛かった。


「ラディアス殿、殿下がお呼びです。直ぐに生徒会室にお越しください」


ラディアスの変わりに殿下の護衛をしている騎士だろう。

どこかで聞き覚えがある気がするけれど、熱に浮かされた頭では良くわからなかった。

ラディアスを見上げると、少し残念そうな顔で私を見ていた。


名残惜しげに私の頬にキスをして、ラディアスはそっとカーテンの外に出て行った。


ほっと力を抜いたら、物凄い睡魔に襲われてしまった。

結構緊張して疲れていたみたい。

本当に寝てしまっては不味いのだけど、ちょっとだけ……と意識を飛ばしてしまった。




どのくらい経ったのか意識を飛ばしていた私は、まずいと気がついて慌てて覚醒した。

だが決して目は開けない。

これを開けてしまったら羞恥に耐えた意味が無くなってしまうのだ。

それに、傍には誰かの気配があり、一生懸命私の腕を湿り気のある何かで拭いている。

拭くたびにスッとなる感覚がするので、何かの消毒液かも知れない。


「あんな男に汚されるなんて……許せない……君は私だけの天使なのに……」


何やらブツブツ呟きながら必死に拭いている。

実は同じ場所を何度も拭いているから、ちょっと腕が痛い……そろそろ赤くなってしまうから腕を拭くのやめてもらえないかな……

そう思ったら、腕を拭く手が止まった。

あれ?意思疎通できたりする?

なんて馬鹿な事思ったから罰が当たったのだろう。

今度はその手が自分の服に伸びて来た事に気がついた。


「今度は身体も綺麗に消毒してあげますね、首は特に念入りに拭きましょうね……」


ちょっと待った!!流石にそれは淑女どころか、女性として終わるから止めて!!

首なんて服脱がさなくても拭けるでしょう!!

どうしよう、もう目開けても良いかな貞操の危機だし、もういいよね?


シャッ!!


「そこまでだ、彼女から離れろ!!」


パニックを起こした私が目を開けるより先に、ベット周りのカーテンが勢い良く開けられる音がした。

続いて響いた怒声に殿下達が入ってきたのだと分かってホッとした。


急いで飛び起きた私は、ベットから降りると直ぐに殿下達の後ろに隠れた。

出来るだけ距離を開けたい、もうこれ以上は無理。

目の前には何が起きたか分からず、呆然とする医務室教員の姿。


「で……殿下……これはいったい……」


医務室教員は周りを見渡し、苦笑いを浮かべている。

何とか取り繕おうとしているのだろうが、そこにルイスが追い討ちをかける。


「先ほどここで貴方が話していた内容は、証拠として録音させて頂きました。しかるべき場所に提出いたしますので、覚悟してください」


ルイスが手に持った記録用魔道具を見て、教員はがっくりと肩を落とした。

初めからこの茶番は仕組まれたもので、この時間には私達以外には医務室に居ない手はずになっていた。

ラディアスも薦められるまま私を寝かしたように見せかけ、予め記録用魔道具が設置されているベットを選んだのである。


医務室教員の罪状は、公爵令嬢誘拐未遂。


その後は罪人を引っ立てる為に、予め学園に来ていた騎士に、教員は連行されていった。

私から見た彼は、穏やかにそして親身に話を聞き、生徒の健康を気遣ってくれる。

そんな人だと信じていただけに、その後ろ姿を見送るのは少しだけ切なかった。


優しく肩に手を添えられ視線を向けると、殿下が気遣わしげに私の方を見ていた。

私は小さく首を横に振ると、大丈夫だと笑って答えた。


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