第十四話・まずは一つ目?
エルクレオ様に連れられて来たのは、魔術師団の研究を行っている部屋だった。
その中をエルクレオ様は迷い無く進んでいく。
その先にグレーの髪を見つけると、彼の肩を叩き用があるので付いて来るように伝えた。
前か後ろか分からない髪が、小刻みに揺れている。
まさか彼が一連の犯人なのだろうか……
不安な思いを抱きながら、取りあえず応接用の場所まで付いて行った。
三人それぞれソファーに座るなり、エルクレオ様は彼に尋ねた。
「リディアーネ嬢に、薬学用の資材を贈ったのは君ですね」
グレーの髪が動揺に揺れる。
なかなか返事をしない彼に、エルクレオ様が尚も追い討ちを掛ける。
「彼女の元にそれらが贈られた頃、資材が数点減っていると報告が上がっていました。団長が時々何かに使って減らすので、またかと思ったのですが……団長が使うにしては、妙な材料ばかりだったので覚えているのですよ」
はっきりと言い切られて、彼はがっくりと肩を落とした。
「あの日彼女に接触した中で、闇属性なのは君だけだったので、すぐ検討が付きましたよ」
呆れたような声を出すエルクレオ様に睨まれて、彼は肩を丸めてもっと小さくなっていく。
まさか魔術師団員の方が犯人だったなんて……
「どうして……」
声が震えて、言葉に詰まってしまった。
すると彼は前と同じ小さな声で話し始めた。
「……薬学にも……興味を持って欲しいと思って……一番簡単な薬学の材料を……」
それを聞いて、私は口をぽかんと開けてしまった。
勉強の為?嫌がらせではなかったの?
「君は属性が闇のみだから、一番簡単な薬学が媚薬だの精力剤だのになるんですよ……全部の属性から考えたら、普通通常の傷薬が一番簡単に決まってるでしょう……」
彼は口をぽかんと開けている。
さっきまでの私のようだ……
多分驚いてるのだろうけれど、髪が長すぎて顔が見えないから感情は読み取れない。
しかし、闇属性……彼は闇属性なのか……
だとしたらやはり……
「名前も無い贈り物のせいで、随分不安にさせてしまったようですよ。リディアーネ嬢にしっかし謝罪してください。後、職権乱用という事で始末書30枚提出するように……まったく、プレゼントくらい自力で買って贈りなさい」
「……今の研究が終わるまで……外に出れなくて……申し訳ありませんでした」
エルクレオ様に睨まれて、彼は私に深々と頭を下げてくれた。
あれ?それだけ?
「あの……その他の贈り物は……?」
恐る恐る尋ねる私に、彼は小首を傾げて不思議そうに返してきた。
「その他?……僕は薬学の材料しか贈っていませんが……」
丸い目を見開いたまま、今度はその横に立つエルネスト様を見ると、彼は一つ頷いた。
「ええ、彼の性格を考えても恐らくそれだけでしょう。残りは別の人間の犯行です……ただ、こちらは尻尾を掴むには少々準備が必要なので、後ほど殿下達も集めて相談するとしましょう」
何と彼は最初の材料を、それも善意で贈っただけだったのか!?
嫌がらせと勘違いしたのは、こちらだし強くは怒れないな……
話を聞けば私に憧れがあったのも本当らしい、全属性が羨ましかったとか。
私からすれば、一属性を極めた彼の方も凄いと思うのだけれど、隣の芝生は青いってやつかしら?
でも今度からは、変な文より『こんなの贈りましたよ』ていう明細のほうがありがたい。
それにしても、魔術師団の副団長は凄い!
他にも犯人が居るらしいけど、それももう目処がついてるなんて!!
やっぱり私ここに入って、エルクレオ様みたいな立派な人物を目指します!!
決意も新たに大きく頷くと、ソファーから立ち上がった。
「まっ!待ってください!!」
歩き出そうとしていたのだが、顔の見えない彼に声を掛けられ慌てて振り返る。
すると彼は両手を胸の前で組んで、上を向いたり下を向いたり忙しく頭を振っていた。
どうしたんだろう?と不思議に思って眺めていると、意を決したように私の方に顔を向けた。
「よ……良かったら!僕と友達になってください!!」
顔の見えない彼は、今までで一番大きな声を出して手を差し出してきた。
あんな大きな声出せたんだ……と驚きながら思ったのも一瞬で、私はにこりと微笑んだ。
「勿論喜んで」
彼の手を取ると、嬉しそうにその手をブンブン上下に振られた。
意外と見た目よりテンション高いのかもしれない……
でも分かるよ!初めて見た時一人で静かに研究してたし、きっと寂しかったのね。
私も友達少ないから……趣味の合う友達ならなおさらウェルカムよ!!
その後興奮冷めやらぬものの、三十枚の始末書を渡された彼と別れ、もう一度エルネスト様の執務室へ戻り、今度こそ魔道具の勉強に勤しんだ。
後になって知ったのだが、彼の名前はクロウドと言うらしい。
エルクレオ様に教わるまで知らなかったよ……友達の名前だしっかり覚えておこう。