第十話・予想外の贈り物
ラディアスに医務室へ運ばれた後、生徒会の仕事を終えた殿下とルイスが私達を探していたらしく、凄い勢いで医務室にやってくるとラディアスを叱責していた。
別にラディアスが何か悪い事をした訳では無いので、それ程怒らないで欲しいと言ったら、ラディアスには輝く笑みを向けられ、殿下とルイスには複雑そうな顔をされた。
事実護衛してもらう身で、あの声に耐性の無い私が悪いのだ……
毎回運んでもらうのは羞恥が凄すぎるので、何とか耐性を付けられるように努力したい。
「熱などはありませんし、体調が戻ったのなら帰っても大丈夫ですよ」
医務室の先生が私達の様子に苦笑いしていた。
最近良く熱を出したり運ばれたりでお世話になっているので、この光景にも慣れているようだ。
私は先生にお礼を言うと、ラディアスと正門で別れ殿下とルイスと屋敷に帰った。
それから数日はそんな日々が続いていた。
警戒していた割には誰からも呼び出される事も、それ以上の嫌がらせを受ける事も無く。
杞憂だったかもしれないと思い始めた矢先の事だった。
屋敷に帰るとまた侍女達が囁きあっているの見えた、手にはなにやら小包。
「どうしたの?また差出人不明?」
私に声を掛けられ驚いた侍女達は、頭を下げて迎えの挨拶をしてくれた。
嬉しいがやはり気になるのはその包み。
「どうせ私宛でしょう?開封は任せるから一緒に中を見ても良いかしら?」
この時の私は、女子の嫌がらせが次にどんな事をしてくるのか、正直興味があった。
侍女も離れた所で見てくださるならと、承諾してくれて。
ギリギリ包みの中が見えるくらいの距離まで下がった。
本当に贈り物だった場合や、危険物だった場合を考えて包装が慎重に外される。
出てきたのは……小瓶だった……中には何やら白く濁った液体?
「きゃあ!!」
侍女が青い顔をして蓋を閉める。
慌てて私の方を見たが、ばっちり中身は見てしまった。
あれ……もしかして……あれだよね?
私も前世喪女だけど、耳年増だったからあれが何だか分からないなんて、カマトトぶったりはしないよ。
でもさ……あれって贈られて来るような物?
今の、男性のあれだよね?
理解した途端背筋を悪寒が走り抜けた。
気持ち悪い!!何であんな物贈られてくるの!?
女性の嫌がらせってこんな事するの?気持ち悪過ぎる!!
青ざめた顔で立ち尽くしていると、後から来たルイスが室内の異質な空気に気付いたのか、私の傍にやって来た。
「義姉さん?何かあったのですか」
震える指で贈られてきた小包を指す。
ルイスはその箱をもう一度開けると、中を確認してすぐに蓋を閉めた。
眉間に皺を寄せ怒りの表情を浮かべる。
その拳は僅かに振るえ、爪が手の平に食い込んでいるようだ。
「直ぐに処分しろ!跡形も無く燃やせ!!」
激高して侍女に言いつけるルイスの袖をそっと引く。
指先が恐怖で震えているのであまり力は出なかったが、何とか引く事が出来た。
「駄目よ……ルイス、燃やしてしまったら犯人の手がかりが無くなるわ」
どんなに怖くてもこれはやっと届いた犯人の手がかりでもあるのだ、確認しないで燃やすなどすればそれを失ってしまう。
しかし、ルイスの怒りは収まらなかった。
「関係ありません、あんな物義姉さんの居るこの屋敷にあると思うだけで不愉快だ!!」
小包はルイスの指揮の下、すぐさま焼却処分された。
確かに不気味だったのと前回の贈り物にも何も証拠となるものが無かったので、今回も無いであろうと思うことにした。
ただ……あの包装のリボンに、どこか見覚えがあったような気がするのだが……
暫く悩んだが結局思い出す事は出来なかった。
その夜、私はベットの中で例のしおりを握りしめていた。
『気をつけて』
あの時の占い師の言葉が蘇る。
だんだん、自分が思っていたのと違う何かが起きているような気がして……
小さく芽生えた恐怖を見ない振りして、私は急いで瞼を閉じた。