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第八話・裏通りの星空

私は今街に居る理由は簡単、逃げたのだルイスから。


数日前から殿下達三人は、異常な過保護ぶりを見せるようになっていた。

理由はやはりあの贈り物のようだ。

三人は私がこれ以上嫌がらせを受けないようにと話し合い、朝は殿下が送り、授業以外の時間はラディアスが護衛に付き、帰りはルイスが送ると決まったようだ。

私はその話し合いに参加していない、勝手に決まった。


その上昼は勿論三人で…………息が詰まる!!

もはや安全の為と言うより監視だ!!


大体女性が仕掛ける嫌がらせなどたかがしれている、日毎から鍛錬している私に何かあるなど早々無い。

いい加減一人の時間も欲しいと、たまたま早く授業が終わった今日、こっそり先に帰って街に買い物に来た。

まっすぐ帰っても、どうせ後から帰ってきたルイスにすぐ見つかって、お説教されるだけだから。


店先のガラス細工や、綺麗なレースのリボン、珍しい色をした飴なんかを見ていると、心がふわふわして楽しい。

時には目的も無くぶらぶら買い物したい時もある。


虹色の綿飴に目を奪われながら、街中を歩いていると不意に動きが止まった。

視線だけ横に向けると、少し薄暗い通りが見える。


『行かなきゃ』


普段なら絶対に行かないような場所なのに、何故か急にそう思った。

何も考えずに、足はそちらへ向かっていく。

暫く歩いた先に、私はテントのようなものを見つけた。

シルバーの飾りが何故か薄暗い中で、本物の星のように光る光景は幻想的で、暫くそれを見上げて佇んでいた。


「おや?珍しい、お客さんかな?」


テントの中からまだ若そうな男性の声がした。

ちょっとだけテントを開けて中をのぞいてみると、大きな水晶球の向こう側に全身紫のローブをまとった人物が座っている。

暗いテントの中は外と同じようなシルバーの飾りが所々で揺れ動き、水晶の傍に置かれた燭台だけが男性の手元を照らしていた。

まるで夜空が広がる空間に迷い込んだような、異質な空間に溜め息が漏れる。

男性は嬉しそうに目を細めると、手招きして自分の前の椅子に私を座らせた。


「ほう、凄いね随分複雑な星回りだ……」


男性は目の前の水晶球を眺めながら、薄っすらを笑みを浮かべている。

どうやらこの男性はこんな路地裏で占いをしているようだ。


「そんなに複雑なんですか?」


ちょっとだけ興味が湧いてきて、つい尋ねてしまう。


「ああ、面白いくらいに複雑だよ……でも……これは、ちょっと良くないね」


水晶球の一点を見つめて、男性は表情を曇らせた。


「良い物がある」


暫く思案した後、急に顔を上げ自分の周りを見渡して一枚のしおりを私に手渡してきた。


「これをあげるよ、役に立つかもしれない」


私はその瞬間、霊感商法か?と肩を強張らせた。

するとそんな感情を読み取ったのか、男性は楽しそうに口に手を添え笑っていた。


「大丈夫、占いはただの趣味だからお金は取らないよ。これはただのお節介だよ」


そう言われて、疑って悪かったかな?と苦笑いしてしおりを受け取った。


「ありがとう……ってあれ?これ魔力が……っ!?」


受け取ったしおりから僅かな魔力を感じて、それが魔道具であると直ぐに気がついた。

しかし、それを問おうと顔をあげた場所にさっきの男性は居らず、テントも消えていた。


『気をつけて』


頭の中に直接柔らかな声が響く、さっきの男性の声だった。

薄暗い路地で呆然と立ち尽くす私の後ろから、私を呼ぶ声が聞こえる。


「リディアーネ!!」


ルイスの声だった。

駆け寄ってきたルイスは私を痛いくらいに抱きしめた。


「こんな場所に一人で、何をしているんです。危険なのが分からないのですか!!」


驚いて目を見開いたが、ルイスの肩が僅かに震えているのを見て、抵抗するのは止めた。

ルイスが私の名前を呼ぶのも久しぶりに聞いた気がする。

そうとう心配させてしまったのだろう。


「ごめんなさい……」


素直に謝ると、やっと少しだけ腕の力を弱めてくれた。

けれど離すつもりは無いらしく、そのまま私の肩に顔を埋め大きなため息を一つ吐いた。


「教室に行けばもう帰ったと言うし、屋敷にも居ないから探してみれば、街中で貴女の護衛が義姉さんを見失ったと……心臓が止まるかと思いましたよ」


そう言えばこんな怪しげな場所に入ったのに、護衛の男性から止められなかった。

話を聞けば本当に急に私を見失い、必死に探していたという。

護衛の男性もきっと物凄く叱責された事だろう、そう思うとまた申し訳なさが込み上げて来た。


「ごめんなさい……」


私は再度謝る事しか出来なかった。

あの時は行かなきゃと思ったから来たけれど、良く見れば周りは薄暗い裏通り。

令嬢が一人でフラフラして良いような場所じゃ無い。

申し訳なさに俯いていると、顔を上げたルイスが頬に口付ける。


「もう、こんな事しては駄目ですよ……」


落ち込んでいる私は抵抗する気力も無く、ただ黙って頷いた。


ルイスに手を引かれ、促されるまま大通りに戻る。


不意に手の中にあるしおりを思い出し、虚空を見つめる。

あの男性は何者だったのか……

そして男性の見た良くないものとはなんだったのか……


複雑な気持ちを抱えたまま、その日は素直に帰路についた。



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