勇者ユーシと孤島の防衛戦
早速感想ありがとーー。
色々突っ込みどころはありますが生暖かくお願いします。
そして勇者登場おまけもいるよ。
赤い海。まるで夕焼けに染まったその海を渡り、俺は魔王の一柱がいるグアーム島を目指していた。
一年ほど前まで俺はただの高校生だった。日本の東京で退屈な日々の中に何気ない充実感を得ることができていた。
そんな日々がこれから先も続くんだろうって思っていた。
だがある日、学校のトイレで用を足していた時だった。小の便器が満員で列を作っていた為、我慢しきれず俺は恥も外見も捨てて大の方へと入ったのだ。
断じて大をするためではない。そこは名誉のためにも言っておかねばならない。
だって思春期ですから。ホントだよ。
用を済ませた俺はトイレの水を流したんだ。するとどうだろう。
トイレの水流がまるで俺を吸い込むように引き寄せたんだ。
俺は必死に抵抗した。せめて俺が流した分が流れ切るまで必死に耐えた。
多分、大丈夫だったと思う。大丈夫だったよね?
半ば泣きそうになりながらも、俺は辺りを見回した。そこはどこか中世の街を思わせるファンタジーな世界。
広場の噴水設備の中に俺はいた。
映画の撮影かなにか。特殊メイクさん気合い入りすぎだろうと思える犬顔の人もチラホラ見られる。
そう、最初は映画の撮影か、それとも白昼夢でも見ているのだろうかとも思った。
けど、トイレに引き込まれたあの現象と今感じている水の冷たさ。
犬顔のリアルさにこれは現実であると意識を引き戻した。
そしてずぶ濡れになって座り込んでいる俺に手を差し伸べてくれたのは、聖女マリアンヌ。
俺をこの世界に呼んだ張本人。
「ようこそおいでくださいました。異世界の勇者様」
一目見て、俺は惚れてしまった。
その後に色々あった。
勇者として呼ばれた俺は国に伝わる聖剣を授かり、魔王を討伐するための旅へ出ることとなる。
最初は本当に怖かった。普通の高校生だった俺が、まさか戦いと冒険の世界を駆け回るなんて思いもしなかった。
幸いにも、俺は聖女マリアンヌから神聖術のスキルを与えられそのまま聖剣士のスキルを獲得。そして勇者としてのエクストラスキルに目覚め、魔王の一柱ビルディオンを討つことが出来た。
旅の仲間は賢者アトス。高齢ながら、肉体の年齢を遅らせる事ができる魔術のエキスパート。
剣聖のリュイ。女性ながらに大きな刀を両手に扱う頼れる前衛。
そして聖女のマリアンヌ。俺をこの世界に呼んでくれた最愛の女性だ。
魔王の一柱を討った後、凱旋のパレードで俺はマリアンヌに告白した。
マリアンヌはとても喜んでくれた。だが、魔大陸にはまだ大勢の魔王が存在する。
今回討つことができたビルディオンは強大な魔王だ。まさに死闘。
リュイは愛刀を折られ、アトスも魔力の限界まで振り絞り、マリアンヌの回復魔法も時折追いつかないと冷や汗を流した。
そんな死闘を後何度繰り返せばいいのか。
けど、この世界のみんなが平和に暮らすためにも魔族は全て倒さなければならない。
魔王が存在することで魔族は勢力を強め、人に仇なす。
その魔族を根絶やしにしない限り、マリアンヌは聖女としての務めに縛られ続けてしまう。
彼女に一人の女の子として生きてもらう為にも、こんな戦いは早く終わらせなければならない。
「ユーシ。いよいよね」
マリアンヌに声をかけられて俺はようやく見えてきた島を見据える。
魔王エールが居るとされる孤島グアーム。どんな奴かわからない。だがどんな奴だって俺達が討ち倒してみせる。
異世界勇者の瀧川有司の魔王討伐の旅はこれからも続いていく。
グアーム島に到着した俺達は即座に警戒した。とても強力な魔力が島の中央に位置する城から発せられる。
「アトス。索敵を頼む」
「やってみよう」
賢者アトスは実は異世界転生者だ。俺と同じ時代から事故で死んだ時に転生してきたのだという。
その時神さまから貰った様々な魔法。その中には相手に強さを測るサーチという魔法がある。
「どうやら一体近づいてくるようだな」
次々と上陸してくる王国の兵士達。彼らには島に巣食うと思われる魔獣などの対処をと考えていた。
だが、やってきたのは一体の魔族。
「こやつ。かなりの手練れじゃな」
雰囲気からしてそれは察しがつく。問題は俺たちで倒せるかどうかだ。
「レベルは87の攻撃力特化型のようだ。早さに耐久もある。魔法を中心に戦うべきだろうな」
俺たちの中で一番の高レベルはリュイだ。それでもレベルは70そこそこ。だが4対1なら負ける気はしない。
「リュイ。頼むぞ。光の加護をブースト!」
「いざ!」
リュイが神速と呼び名の高い踏み込みで一刀を放つ。
魔族はそれを籠手を装備した腕で防ぎ時折蹴りを混ぜて戦う。
「勇者一行は礼儀を知らない。まずは名乗りをあげるのが礼儀でしょう」
「黙れ! 魔族に名乗る名前は持ち合わせていない‼︎」
魔族の挑発に乗らないよう。言い返しながらも魔力を練る。
アトスも最初から大魔法を放つつもりか、普段よりも詠唱が長い。
「では先に名乗らせていただきます。私は魔王後継が一柱。エール殿下にお仕えするしがない魔族。名をライザーと申します。お帰りはあちらです。名も知らぬ勇者御一行」
空を穿つ拳にいち早く反応したのはリュイだった。
「くっ⁉︎ これは」
空気を圧縮して飛ばす見えない拳を二刀に刀で打ち払う。
空気も拳に斬撃を当てて相殺するという。剣聖と呼ばれるリュイだからこそできる荒技だ。
だが相手の拳も早く、捌き切れるか微妙といったところ。
しかし、リュイが時間を稼ぎ守ってくれたことで準備は整った。
「アトス‼︎ 合わせろ‼︎」
「うぬ」
聖剣に纏わせた光の斬撃。あのビルディオンに片膝を突かせた俺の奥義の一つ。
「シャイニングザッパー‼︎」
「セレスティアルレイン‼︎」
光の豪雨が魔族へと降り注ぐ。
「やったわ‼︎」
おいマリアンヌさん。それ俺たちの世界ではフラグって言うんですけど。
アトスも困ったように汗を浮かべている。
リュイは俺たちの攻撃が放たれた瞬間に跳びのき、それでも警戒を怠らない。
「やれやれ、ものすごい威力ですね」
魔族は何事もなかったかのように服についた埃を払うような仕草で立っていた。
一瞬だけ感じた魔力の流れ。城から発せられたその魔力は魔王のものだ。
知っている。ビルディオンの魔力と波長が似ている。
「魔王エールの加護か」
「ご明察。エール殿下より頂いた結界です。言っておきますが、この結界はとても頑丈です。こと結界に関して殿下は先代魔王をも凌駕しております」
ご丁寧に種明かしまでしてくれる。相手に余裕があるからか、だとしたら見くびってくれる。
いかに頑丈といえど全力の攻撃をいつまでも受け続けられるわけがない。魔王とはいえ魔力には限りがある。そんな加護が長く続くとは思えない。
「だったら何度だって討ち続け」
「いいえ。ユーシ。あなたは先に行って。マリアンヌもよ」
「リュイ。何を言って」
頼れる剣聖の言葉に驚きを隠せない。まさかリュイからそんな言葉が出るなんて思いもしなかったからだ。
「冷静になって。魔王の強力な加護。それはおそらく時間稼ぎよ。ここで私たちの魔力を疲弊させる作戦かしら?」
「ほぉぅ。よく気づきましたね」
「時間稼ぎで何が目的かわからないけど、それなら戦力を分散させてでも魔王のもとへ行くべきと判断」
「行かせると思いますか?」
「行かせるわ」
その瞬間、リュイの姿が残像を浮かばせ消え魔族に肉薄する。
「ここは私に任せて先に行って‼︎」
「リュイ⁉︎」
だからそれフラグだって。
姿の見せない斬撃を繰り返しながら声だけが響き渡る。
「後から追いつくわ。それに、倒してしまっても構わないんでしょ?」
だーかーらー、誰だリュイにこんなセリフを吹き込んだのは。
詠唱を重ねながら視線をそらす我がパーティの賢者様。よし後で絶対一言言ってやろう。
「くっ、絶対に無茶はするんじゃないぞ‼︎」
リュイとアトスに魔族の相手を任せ俺とマリアンヌは城へと向けて走り出した。
「行かせは」
「邪魔はさせない」
「くっ⁉︎」
くそっ、リュイのやつ無茶しやがって。
響き渡る斬撃の音が耳から離れない。
だからこそ、俺は走り続ける。仲間のためにも、早く、早く。
どうやら殿下の目論見は外れてしまうようです。不甲斐ない。
女の剣士の斬撃は常人には見えざる刃でしょう。ですが、私にとってみればまだ受け切れる。それも彼女一人であればの話です。
「グランドストーム‼︎」
砂塵を巻き上げる竜巻を回避しきれず、殿下の加護による障壁が受け止める。
魔法を扱う人間と絶え間なく繰り出す斬撃の剣士。
正直な話鬱陶しい。
何度も繰り出される斬撃も私の目をもってしてみれば隙がいくつもあり、一撃を入れることなど容易い。
それは相手を殺すことが出来る一撃であればの話です。
「手加減したままでいいのかしら?」
どうやら女剣士も気づいていらっしゃる様子。だからこそ、鬱陶しい。
「いいけど、手加減してくれたままなら倒せるかもだし」
「調子にっ」
(ダメだ‼︎ 殺してはダメ)
殺意を込めた一撃を放とうとした瞬間、殿下からの念話によって寸止めする。
「っ⁉︎」
「隙あり‼︎」
その隙をこの中途半端な手練れが見逃すはずもなく首を落としにかかってくる。
「なんのっ」
(ゴメン。ライザー。でも)
(分かっておりますよ。至らぬ私をお止めいただき申し訳ない。勇者とおそらく聖女でしょうか。二人ほどそちらへ向かっております。お気をつけを)
「会話は終わりかしら?」
どうやら念話の間待っていてくれたようです。しかしかかってきてくれていたら、慢心として受け取り対応できたのですが。
「殺気のない相手なんて怖くはないわ。その余裕ごと切り捨ててあげる」
「余裕なんてありませんよ。いっぱいいっぱいです。本当は殺したくて殺したくてたまらない。先代魔王様を手にかけた一行を八つ裂きにして、その腹わたを喰らってやりたいところです」
「中ボスのセリフね」
よし殺そう。すぐ殺そう。今すぐ殺しましょう。
(だからダメだって)
はい。
こうして始まったグアーム島の防衛戦。少なくとも、皆が逃げおおせる時間を作りたいと殿下が考えた戦いが始まった。
ネタの神様。
どうかわたじに文才をあたえたもーーーーげふん