第6回:89式中戦車改
『89式中戦車』をより強力なものにすべく【ヨアケマエ】設定を取り込んだ改修型。92年採用。そのため【ヨアケマエ】世界では『89式中戦車(乙)』は『89式中戦車改』が作られた事により計画もされない(『89式中戦車(乙)』は95年採用なので)。
外見は史実の『89式中戦車(乙)』に似ている所もあるが、サスペンションを横バネ式に改めたり、後部のソリがなかったりと微妙に異なる。
それ以上にエンジンを『91式統制型ディーゼルエンジン/V8 160hp』と史実より強力なものに換装されたおかげでソリが不要となり、装甲も最大で25㎜と強化されたため自重が約2tも増したが、エンジン出力の向上により最高時速も35㎞/hとかなり向上した。
備砲だけは『89式中戦車(甲)』と同じ『90式57㎜戦車砲』(18.5口径)だったが、『94式57㎜戦車砲』(24/32口径)が採用されると、それに換装した後期型へシフトした。この後期型はエンジンも『91式統制型/V12 240hp』に変更され、最高時速も40㎞/hに達し、ほとんど新型を呼べる物へと進化した。
そのため『92/94式』に名称を変更しても良いのでは、という声もあったが、初の国産戦車である『89式』に愛着を持つ者が多かったのと、大幅な性能向上を隠すためにあえて『89式中戦車改』に決まった。
本車の投入により生産される『89式中戦車』は全てこのタイプに集約される。ガソリンエンジン搭載の初期型(史実で言う『甲型』)は少数が『92式統制型ガソリンエンジン』に換装され生産されたが、出力向上(8気筒で280hp)よりもデメリットの方が大きいと判断され、主力生産型にはならなかった。
『89式改』は同時進行で複数の派生型が作られた(当然不採用のものもあったが)。
まずは派生型というより強化型といえるもので、ベースエンジンを『91式統制型/V12 240hp』とした上にターボ過給器を取り付けて300hpまで出力を向上させ、装甲を最大37㎜としたものが作られたが、自重が増加したため足回りの故障が多く、エンジン出力の強さも足回りへの負担となっていたため、ターボなしのものが拠点防御用に少数作られたのみとなった(ターボ過給器自体も不完全だったし)。
また砲塔を廃し前面防盾のみとして『88式山砲Ⅰ型』(24口径75㎜:オリジナル)や『91式10㎝榴弾砲』(20口径105㎜:史実)を装備した自走砲型も作られた。自走砲型は更に進化し、後期型登場の頃には『88式山砲』を砲塔内に装備した砲戦車型まで登場する。
これにより自走砲は砲兵科、砲戦車は機甲科という区分がなされたが、砲塔に収まらない大口径の自走砲が欲しい機甲科は、固定式砲塔を「戦闘室」と読みかえ、支援用の自走砲型砲戦車/駆逐戦車を導入する事になる。
更に異形のものとして追加パーツ(浮舟)を周囲に取り付ける事で水陸両用戦車としたものも作られた。
この追加パーツの大きさは意外に大きく、装備時全長17.5m、全幅3.5mと史実の『大発』並だった(というより母艦での運用を考え『大発』に合わせた。【ヨアケマエ】世界ではこのサイズのものは後に『中発』と呼ばれるようになる)。
その大きさ故浮舟内に上陸後必要となる装備を搭載する事ができ、かつ速やかに取り外せるよう工夫がされていた。ただしその取り外しに手間取る事が多かったり、推進力は戦車本体から延長軸により供給されるため総じて故障が多く、生産数は数十両に留まった。
パーツの分解は比較的容易なのだが、その大きさ故重く、その後の戦車自体の行動を妨げた。かといって軽量化すると壊れやすく、装備の搭載が難しくなった(外板の故障が搭載装備の故障につながる)。
それでも工夫の結果実用的なものに仕上がった。といっても本車で使われる事はなく、次世代水陸両用車の参考となった。
その後『大発』+通常の車両という方が使い勝手がよいと判断され、『89式改』の水陸両用化はここで打ち切られた。まあ『95式軽戦車』(オリジナル)ベースで追加パーツを最小限にしたものや戦車の砲塔を載せた装甲艇を経て、次世代水陸両用戦車につながるが、それはまた別の話となる。
などと『89式改』は【陸軍縮小】の前でありながら様々な試みがなされ、その後の戦車発展の礎になった。本車によるテストがなければその後の国産戦車の発展はなかったといえる。
がいわゆる【太平洋戦争(大東亜戦争)】の始まる頃には旧式化しており、補完戦力や訓練用として使われていた。もっとも戦い方によっては『97式中戦車』(オリジナル)を上回る戦果をあげる事もあり、終戦まで前線にあった本車もあったほどである。
■諸元表
★『89式中戦車改』前期型
全長 5.75m/全幅 2.20m/全高 2.60m
自重 13.8t/戦闘重量 14.8t
機関 『91式統制型/V8 160hp』
形式 空冷ディーゼルV型8気筒、排気量 14.4L、最大出力 160hp
速力 35km/h
備砲 『90式57㎜戦車砲』18.5口径57㎜砲×1
機銃 『91式車載軽機関銃』6.5㎜機銃×1
装甲 最大 25㎜
乗員 4名
★『89式中戦車改』後期型(通常タイプ)
全長 5.75m/全幅 2.20m/全高 2.60m
自重 15.5t/戦闘重量 16.8t(32口径装備車は+0.1tとする)
機関 『91式統制型/V12 240hp』
形式 空冷ディーゼルV型12気筒、排気量 21.7L、最大出力 240hp
速力 40km/h
備砲 『94式57㎜戦車砲』24口径57㎜砲×1 or 同32口径×1
機銃 『91式車載軽機関銃』6.5㎜機銃×1
装甲 最大 25㎜
乗員 4名
★『八九式中戦車甲型』(参考。史実の車体です)
全長 5.75m/全幅 2.18m/全高 2.56m
自重 11.9t/戦闘重量 12.7t
機関 「瓦斯電『ダ式一〇〇馬力発動機』」
形式 水冷ガソリン直列6気筒、排気量 9.5L、最大出力 118hp
速力 25km/h
備砲 『九〇式五糎七戦車砲』18.5口径57㎜砲×1
機銃 『九一式車載軽機関銃』6.5㎜機銃×2
装甲 最大 17㎜
乗員 4名
■ムラリンとガンちゃんの総括(笑)
ム:初めましての人も、また会えたねの人もこんにちは~。うにシルフのマスコット兼アシスタント、ムラサキウニのムラリンで~す。改めましてどうぞよろしくっ☆
ガ:同じくガンガゼのガンちゃんです。今回もよろしくお願いします。
ム:今日紹介するのは『89式中戦車改』? 『八九式中戦車』ってアレでしょ? 日本初の国産戦車で「『女の子』あんぱーさんど『戦車』」って作品にも出てくる。
ガ:わざわざ無意味で遠回しな言い方しないっ。それに『アンパーサンド』ってアンタはいつからIT関係者になったのよ。普通に『&』でいいじゃない。第一あの作品なら別の言語で表記されてたはずよ、その部分。
ム:的確なツッコミありがとう(はぁと)。それじゃボケはコッチに置いといて本題に入るけど……何で今『89式中戦車』? どうせなら作者お気に入りの次世代中戦車の話でもすればいいじゃない。アレがあの時期から投入できれば、他の国の戦車にだって負けないって自信満々だったのに。
ガ:それはね、前回『91式統制型ディーゼルエンジン』の紹介をしたじゃない。それを搭載する適当な車両はないか探して、見つけたのがこの『89式中戦車改』だったという訳。作者は無駄に横穴を掘るのが好きだから、様々なアイディアをメモしてあったのよ。その中で比較的まとまっていて、少し修正してやれば公表できそうだったのがこの『89式中戦車改』だった訳。
ム:なあんだ、強い思い入れがあった訳じゃなかったのか(つまらなそうに頭の後ろで手を組んでいる)。
ガ:少しは表現をぼかしなさいっ(ちょっと怒っている)。全く考えがない訳じゃないんだから。もしこの頃から陸軍が機甲部隊に目覚め、対戦車戦が可能な戦車を検討・研究していたら、もう少し「戦える」戦車が開戦前後に作れたのではないか、ってね。そして登場するのが作者が考える次世代戦車群であったり、史実にも登場する戦車の性能底上げ版や派生型だったりするの。おかげで米戦車とも充分渡り合える事になるわ。他の国の戦車とは……と考えたいところだけど、味方だったり中立条約を結んでいたりなど、すぐには戦う事ができない状態だから、比較は少し難しいわね。
ム:でもカタログスペックで比較は可能でしょ? それならほぼ同世代の戦車達と比較してみたいじゃない。ドイツの『豹』『虎』やソ連の『祖国/故郷』『政治家の頭文字』なんかとどっちが強いか、またどうすれば撃破可能か考えるのって楽しそうじゃない?
ガ:だからアンタはなんで素直に言わないのよーっ!(マヂギレした) 別に隠さないといけない事じゃないんだからっ。普通に『パンター』『ティーガー』とか『T-34』『JSシリーズ』って言えばいいじゃない。米戦車なら『シャーマン』、英戦車なら『マチルダ』とか『チャーチル』って。実在した人名でもある個人だと特定できなければ【ヨアケマエ】世界的には問題ないのだし。
ム:でも米英の戦車って昔活躍した軍人さんや政治家の名前から愛称を取ってない? 政治家なんかだと現役だったりもするし。
ガ:その辺は大丈夫、と思う。直接第二次大戦に関わってなかったら同姓同名の人という事で通せるし、関わるような人でも【ヨアケマエ】世界には登場しないから、偶然その名前が採用されたと言い張れるのよ。だってその人しかその姓を名乗ってないと考える方が不思議でしょ? それに頭文字なら全く関係ないところから持ってこれるしね。
ム:ガンちゃんがそう言うなら問題ないか……でも『89式中戦車(改)』なら世代が異なるから、そもそも比較する意味無いか。明らかに勝てないのは分かるから。
ガ:それは言わないであげて……それに比較対象がない訳ではないのよ。【ヨアケマエ】世界では短期間で終わった【日華事変】(日中戦争の一部)や【ノモンハン事件】で戦車同士の戦闘は起こっているだろうから、その辺の旧式戦車との比較は可能よ。
※作者注:【ヨアケマエ】世界では【日華事変】は半年程度で中国国民党との和睦が成立し、全面衝突は回避できています。ただし中国共産党や第三勢力とは小競り合いが続いているので撤兵はできませんし、国民党に協力して共産党との戦いは続きます。第三勢力は「抗日戦線(仮)」と称し、日本とは仲良くできない国民党の一派が分裂して、アメリカからの援助を受けつつ主義が異なる共産党と共闘して、日本軍に攻撃してくるといった感じです。これ以上はもう少し煮詰めてから公表しますので、それまでお待ちください。
ガ:まあ史実の『八九式中戦車』に比べ初速の速い戦車砲を装備している分、撃破率は高くなるかな。それに装甲が(少しは)強化された、速力も上がって回避力も高い、という事を考えると被害も軽減するかしら。もっとも【ノモンハン事件】の時、【陸軍縮小】の影響で通常兵力は削減されているから歩兵の支援は受けづらく、戦車も戦いづらかったと思われるわ。
ム:あの頃は『BT快速戦車』がメインの相手だよね。だとしたらお互いの戦車砲が貫通しあう、ノーガードの殴り合いになるね。余程上手く機動したり遮蔽物を利用しなければ。
ガ:そうね。ノモンハンでの戦いならその他に、日本軍は『95式軽戦車』『97式中戦車』(いずれもオリジナル)とその派生型、ソ連軍には『T-26軽戦車』が加わるけど、それでも状況は変わらないかな。日本軍の戦車の攻撃力が向上するから、戦車戦はどちらも撃破し合いの消耗戦になるでしょうね。あとは支援火力と総兵力の問題になるから、結果は史実と大して変わらないと思うわ。だけど近年の研究で日本の戦車だけが撃破されまくっていた訳ではないと分かってきたみたいだから、以前の知識しかない人からしたら「日本軍強すぎ」と思うかも知れないけど。
ム:それを言ったら【ヨアケマエ】の設定自体そうじゃん(あっけらかんと)。日本全体を史実より強化する事でアメリカとの戦いを有利にするっていうムリ設定。少し良識ある人からしたら、盛り過ぎにも程があるって言われるって。
ガ:ソレダケハイッテハイケナイ…アシスタントトシテ………(突然禍々オーラ全開に)。
ム:ハイッ、ソウデシタネッ。イイスギマシタ。イゴキヲツケマス(ガクブルしながら直立不動)。
ガ:………ふぅ~~っ。(素に戻って)ハッ、私今どうかしてた? 何か少しの間の記憶がないのだけど、ムラリン、私変な事とかしてなかった?(ホントに覚えてない様子)
ム:イエッ、トクニカワッタトコトカナイデスッ(まだ少し怯えている)。
ガ:そう、ならいいけど(腑には落ちてないけど一応納得)……それより『89式中戦車改』に話を戻すけど、本文にもあるように『89式中戦車改』は開発中から派生型がいくつも作られたの。自走砲や駆逐戦車型が作られたのは(少し時代は早いけれども)自然の流れと思うのだけど水陸両用型、厳密には小改良と追加パーツによって水上移動を可能としたのは少し意外だったわね。まあ量産はされなかったけど。
ム:ああ、本文でも「異形」と書いてあったヤツね。確かに史実で作られた同様の水陸両用戦車と比べても格段に大きいよね。『九七式中戦車』ベースの『特三式内火艇』も全長10mちょっとと、『89式中戦車改』ベースの全長17.5mと比べれば全然小さい。というより『89式中戦車改』ベースのがムダに大きすぎるんじゃない?
ガ:それは本文にもあるように浮舟部分に上陸後使用する装備を収納したり、続く上陸部隊のための遮蔽物となるように、わざと大きくしたみたいなの。そのため前部と後部パーツの板厚は小銃弾くらい簡単に防げるだけあったわ。ただし側面パーツは戦車が前進するために限りなく薄く作られ、踏めば簡単に潰れるくらいとしたみたい。じゃないと自分の付けていた部品のために動きが取れなくなってしまうからね。
ム:でもそんなに大きな部品重くなかったの? 装甲はあったし、装備品を積んでいたらなおさらだよね。それで沈んじゃう事はなかったのかなあ。
ガ:だからこそ大きい必要があったのよ。船体が大きくなれば積み込める重量も大きくなるでしょ? ついでに言っておくと積み込んだ装備は野営用のテントや食料・飲料水などがメイン。時には分隊支援火器などを積めるように計画されていたみたいだけど。それと後部パーツの方には装備とかじゃなくて、航行用エンジンなどを組み込む事もできたみたい。上陸後は無駄になるけど水上移動能力は高まるから、一応試作はしてみたって訳。あと聞かれる前に言っておくけど、追加パーツは簡単に外れるよう設計されてるから、あれこれツッコまないでね。
ム:先に言われちゃったか~。でも本文には「その後の戦車の行動を妨げた」ってあるけど、どうなの?
ガ:確かに前後のパーツが重いから真っ直ぐには進めないけど、向きを変えて横から出る分には問題なかったわ。その分の手間を「妨げた」という表現で表しているだけ。
ム:なるほどね。水陸両用型についてはだいたい分かった。その他の派生型についてはどんな感じなのか、もう少し教えてくれる?
ガ:と言っても特別なものはないわよ。10㎝榴弾砲搭載の自走砲型は『一式10㎝自走砲』が前倒しで出てきた感じだし(装甲は少し強化)、75㎜山砲搭載型は前者より装甲が薄い代わりに機動力が高く、射界が広く取れる設計にした感じ。砲戦車型はその山砲を砲塔に搭載して更に射界を広げたもので『二式砲戦車』の前倒し的なもの。駆逐戦車型の中で一番強力なのは『九〇式野砲』を固定式戦闘室に装備したオーバースペック気味なもの、という感じ。ね、登場する時代は早いけど、いたって普通な感じでしょ?
ム:むぅ、水陸両用型並に変わったものは出てこなかったか。でも本文での説明が不足気味だったから、ここで聞いといてよかったかもね。
ガ:本来なら簡単なスペックくらい載せるべきよね。今後の反省材料として作者にみっちり叩き込んでおかなくちゃ……と言うより私達の「総括(仮)」のコーナーってどんどん長くなっているわよね。
ム:確かに読みかえしてみると、第1回の時はあっさり『烈風』を取り上げた趣旨なんかが語られた程度だったのが、今回のは本文を超える勢いだもんね~。説明不足を補うのはやぶさかじゃないけど、本来は本文でちゃんと説明してくれていれば、私達のお仕事も減るというものなのに。別にお仕事したくない訳じゃないけど。
ガ:でしょ? と言う訳でこれからは作者にもう少し本文の内容を充実させ、我々が出しゃばらなくても済むよう努力してもらいます(強い決意)。
ム:そうなると私達の出番が減っちゃって少し淋しいけど、読者さんのためならそっちの方がいいかもね。会話形式じゃ長くなるだけだし。
ガ:そうする事で読者の皆様が疑問に思うような事を私達に代弁させていると、作者は考えているみたいだけど…多分身勝手な言い訳よね。
ム:という訳で次回からは「総括(仮)」の部分が短くなるかも知れません。それを淋しいと思ってくれるのは嬉しいけど、ちゃんとした情報を伝えるための措置なのでご了承ください。
ガ:ま、あの作者がきちんとそれを守れればだけどね……(半ば諦めた表情で)。