第5回:91式統制型ディーゼルエンジン
史実の『統制型一〇〇式』を前倒しで完成していたとするもの。ので性能的にはあまり違いはない。
ディーゼルエンジンに関しては「内連(日本内燃機関連合)」が早くから研究していたので、その技術を転用すれば作れると思う(「内連」に関しては別の機会に述べさせていただきます)。
これは「陸軍 兵器開発局(仮)」が自ら指示を出して開発させた数少ないものの1つで、関東大震災後に作られた組織のため、災害時に使えるものを意識して開発させた。鉄道がダメになっても自動車なら物流を確保できると、国産自動車(主にトラックや重機)とそのエンジンの開発を急がせたのだ。そのためこの『91式』より前にガソリンエンジンの『87式統制型』などを開発している。
ガソリンエンジンよりディーゼルエンジンに魅力を感じた陸軍は「兵器開発局(仮)」を通じて、戦闘車両を含む車両用ディーゼルエンジンの開発に乗り出す。
ガソリンエンジンの方が小型で高出力が得られやすかったが、発展が見込まれる航空機のためにガソリンは用い、多少本体が重くなっても燃えにくく燃費も良い、軽油などで動くディーゼルエンジンを主力としようと考えたため。その時点で『統制型』という、各社で同じ規格のものを作るという試みがガソリンエンジンで始まっていたため、それをディーゼルエンジンにも適用。
幸い海軍が主導した「内連」がディーゼル機関の研究を進めており、漁船などに用いる小型エンジンも設計していた。それを更に小型化すれば車両にも使えるだろうと、陸軍も参加する事にし、技術提供を求める事に。
「内連」参加企業の中には『89式中戦車乙』用の120hpディーゼルエンジンを作っている三菱もいたので、話は割と速やかに進んだ。
『統制型91式』は主力となる『甲』型では1気筒20hpを目標に、それを何気筒にするかで必要な出力を得られるような工夫が加えられた(『87式』等でも同様だけど)。
形式は直列8気筒までとV型4,6,8,10,12,16気筒があり、更に空冷と水冷両タイプが用意された。こう見ると多岐に分かれすぎているように思えるが、実際には使われない形式もあり、更に言えば水冷は民間用、空冷は軍用という分け方もあった。
シリンダサイズは『87式統制型』と同じで『甲』型が120x160㎜=1.8L、『乙』型が100x130㎜=1.0L、『丙』型が80x100㎜=0.5Lがあった。ただし『87式』にはあったオートバイ用のエンジンはない。
『91式』は『甲』型のみ予燃焼室が付き、より大出力を狙っている。
1800rpm、5.5barが基本となり、これにルーツ式ブロアを装備すると有効圧力を6barに出来たため、1cyl=22.5hp(抽出分は差し引かれているとする)まで出力増加できた。更にターボを搭載してみると1cyl=25hpまで出力増加できたが、まだターボ技術が未熟だったため正式装備には至らなかった。
『乙』『丙』型は小型軽量化のためあえて予燃焼室を取り付けなかった。そのため回転数こそ1800rpmで『甲』型と同じだが、有効圧力は5barとなってしまうので、
『乙』型で1.0L x 5.0bar x 30 / 2 x 1.35962 / 9.8 = 10.40hp≒定格10.0hp、
『丙』型で0.5L x 5.0bar x 30 / 2 x 1.35962 / 9.8 = 5.20hp≒定格 5.0hpとなる。
ちなみに主力(本命)と位置づけられる『甲』型では、
通常型が1.8L x 5.5bar x 30 / 2 x 1.35962 / 9.8 = 20.60hp≒定格20.0hp、
ブロア付で1.8L x 6.0bar x 30 / 2 x 1.35962 / 9.8 = 22.47hp≒定格22.5hp、
ターボ付で1.8L x 6.7bar x 30 / 2 x 1.35962 / 9.8 = 25.28hp≒定格25.0hpである。
※ルーツ式ブロア付きは正確には6.05bar、ターボ搭載型は正確には6.75barになる。
『乙』『丙』型に予燃焼室及びルーツ式ブロアを取り付けた場合、有効圧力が5.8barまで上がるので、『乙』型で1cylあたり12.0hp、『丙』型で1cylあたり6.0hpと2割の出力向上が見込まれているものの、前述の理由から研究の域に留まっている。
『91式』の登場により『統規型エンジン』搭載の次世代オリジナル戦車などが出てくるまでの期間、史実戦車に搭載されるエンジンも『91式』に変更される。
『95式軽戦車』は6cyl/120hp、『97式中戦車』は12cyl/240hp(or 8cyl/160hp)と史実より強くなる(『統規型エンジン』及び戦車等の車両に関しても別の機会に紹介いたします)。
『91式』はそれまでのエンジンに比べ優秀だったため、国産エンジンのほとんどをこれに集約できたメリットは大きかったが、それ以上の性能向上は見込めず、似たコンセプトを持つ『統規型エンジン』に移行していく。
それでも民間を中心に『91式』を使い続ける事も多かった(『統規型』の中に取り込まれたものもあったし)。ただし『統規型』は空冷のみなので、水冷エンジンを使いたい場合は『統制型』から選ぶしかなかったのだが。
※参考:『87式統制型ガソリンエンジン』
『91式』に先駆けて統一規格が作られた水冷4strokeガソリンエンジン。
シリンダサイズは『91式』と同じ120x160㎜≒1.8Lの『甲』型、100x130㎜≒1.0Lの『乙』型、80x100㎜≒0.5Lの『丙』型と定められ、それをいくつ使ってエンジンを作るかにより出力を調整できた。何馬力欲しいから『甲』の6気筒で作る、など。
1気筒あたりの出力は平均有効圧力5bar、1800rpmであるから、
『甲』型は1.8L x 5.0bar x 30rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 18.73hp≒定格18.0hp、
『乙』型は1.0L x 5.0bar x 30rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 10.40hp≒定格10.0hp、
『丙』型は0.5L x 5.0bar x 30rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 5.20hp≒定格 5.0hpと1リットルあたり丁度1馬力となる。
また『丙』型は平均有効圧力5.5bar、回転数2400rpsまで高め、定格7.5hpとしたものも作られた。これはシリンダサイズが小さいから挑戦できたのだが、おかげで小型車両の高出力化が可能となったり(高コストのためあまり量産はされなかったが)、『92式統制型』ガソリンエンジンへの橋渡しとなった。
水冷を採用したは当時の自動車用ガソリンエンジンでは一般的だったため。低オクタンのガソリンでも動くよう調整されていたので(回転数や有効圧力を押さえた結果)、使用燃料が航空機用のガソリンと被らず、安定的に供給できたのも評価できる。
ちなみに航空機用90オクタンのガソリンを入れて、点火系などを適切に調整してやると約1割、100オクタンのガソリンでは約2割出力が向上すると言われている。
これ以上の事は改めて紹介する。
※参考:『92式統制型ガソリンエンジン』
『87式』を発展させ、より高出力を得られるようにしたもの。
基本的に『87式』とシリンダサイズは同じだが、『甲』のみ130x150㎜=1.99Lとボアストローク比を小さくし、回転がスムーズに出来るようにした。そのため回転数を1800rpmから2400rpmに上げられ、かつルーツ式ブロアの装備により有効圧力も高められた。
回転数2400rpm、有効圧力6.5barとしたため『87式』に比べ出力は大きく向上している。
そのため1シリンダあたりの出力は、
『甲』型で1.99L x 6.5bar x 40rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 35.89hp≒定格35.0hp、
『乙』型で1.00L x 6.5bar x 40rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 18.03hp≒定格18.0hp、
『丙』型で0.50L x 6.5bar x 40rps / 2 x 1.35962 / 9.8 = 9.01hp≒定格 9.0hpと倍近い出力が得られるようになった。
その分発熱量が増えたためラジエータの強化と、有効圧力増加のためルーツ式ブロアが必要となった。ので重量が増え価格も上がったが、充分それに見合う性能向上だった。
これ以上の事は改めて紹介する。
■ムラリンとガンちゃんの総括(笑)
ム:初めましての人も、また会えたねの人もこんにちは~。うにシルフのマスコット兼アシスタント、ムラサキウニのムラリンで~す。改めましてどうぞよろしくっ☆
ガ:同じくガンガゼのガンちゃんです。今回もよろしくお願いします。
ム:でも、今回紹介するのってエンジン!? これって兵器扱いしていいの?
ガ:軍が主導して開発して、軍用車両にも搭載されている。充分兵器じゃない。それにこれを紹介しておかないと、戦車など軍用車両を紹介するたび説明が必要となるかも知れないから、今の内に紹介しておきたいのよ、作者的に。
ム:それじゃしょうがないか……でもこのエンジン。史実の『統制型一〇〇式』を前倒しして完成していた事にしていただけで、ほとんど違いはないのよねえ。
ガ:そうね。『乙/丙』型という小型の物があったり、ルーツブロアやターボチャージャ付モデルが存在したりなどの違いはあるけど、基本構造は一応同じとしてあるみたい。
ム:にも関わらず9年も前倒ししちゃって大丈夫なの? 確かに『八九式中戦車乙』や『九五式軽戦車』等に搭載されていた「三菱『A6』120VD」ディーゼルエンジンが95~96年頃完成しているけど、それだってこの『91式』に比べれば数年遅い完成だし、それより早く『統制型一〇〇式』同等のエンジンができたりする訳?
ガ:史実の世界では難しいでしょうけど、【ヨアケマエ】世界では可能、というよりその後作られる『統規型』エンジンを開戦前に完成させるなら、それくらいの時期に『統制型』完成できてなければ無理なのよ。幸い【ヨアケマエ】世界なら史実に比べ技術レベルが進んでいるからできると思うわ。【世界恐慌】を上手く乗り切れたおかげで資金面ではバッチリだったから、そのお金で世界中の技術や資源を買い漁る事ができて、それだけの技術力は充分あったはずよ。
ム:そういう設定ならできても不思議じゃないのかな。そう考えると【ヨアケマエ】ってかなりムリある世界だよね(無邪気な表情で)。
ガ:それは言わないで。あらゆる意味で無理しないと完結しない世界だから(情けない顔で懇願している)。
ム:はーい、ガンちゃんがそう言うなら分かったー。でもこのエンジンがあるとその後に登場する戦車などに搭載されるエンジンも変わってきちゃうよね。
ガ:ええ、本文にも少し書いてあるけど史実にも登場する戦車も『91式統制型』を搭載するから強力になるわ。『97式中戦車』がそれだけで『1式中戦車』並になるなるからね。そのためだけではないけど『95式軽戦車』『97式中戦車』は様々な派生型が作られ、縮小された日本陸軍を機械化・機甲化する事で戦力を維持する一翼を担う事ができたのよ。その辺は別の機会に語られると思うので、それまでお待ちくださいね。
ム:私も待つー。後聞きたいのは参考資料にあった『87/92式統制型ガソリンエンジン』についてなんだけど、これは史実にはなかったよね。それなのに登場させたの?
ガ:これも詳しくは別の機会に紹介するけど、ガソリンエンジンの方が一般的だったし、高出力が得やすかったから、『87式』を先行して作ったの。もちろんディーゼルとガソリンの違いがあるから構造は変わってくるけど、シリンダサイズは一応同じね。それと史実の『統制型』エンジンだって『DAxx型』のように別サイズの物もあるのよ。それらはバスやトラックなどに主に使われていて、サイズが小さい分回転数で馬力を稼いでいるから、『91式』の『乙/丙』型より高出力だったりするのよねぇ。
ム:だったら『91式』では、どうしてそうしなかったの? 技術的にはできたでしょ?
ガ:できたかも知れないけど、やっぱり「早い」と判断されたからかなぁ。ほぼ10年は前倒ししているからね。少しは自重したんじゃない、作者が。それに回転数を上げて馬力を高めても、エンジントルクには直結しないの。折角回転数を上げて馬力を稼いだのに、最大トルクを発揮するのは回転数と馬力を抑制した時、なんて事はよくあるしね。不整地なんかを走行するにはトルクが強い方が有利らしいから、その辺の兼ね合いもあるんじゃない?
ム:そーゆーのがよく分からないんだよねえ(※作者的にもそうです)。トルクは総排気量と関係していて、回転数を上げると実際にエンジンが吸い込んでる1行程あたりの空気の量が減るから、回転数で馬力を稼いでもトルクが減っちゃうってやつだよね。トルクに回転数なんかをかけて馬力を求めるのに、トルクが減ってても馬力が増えるってのが理解に苦しむのよ、全くぅ(理不尽に怒っている)。
ガ:そこを怒っても仕方ないじゃない。実際に計測したらそうなるのだから。むしろよく知っていたわね。トルクと馬力、そして排気量の関係を。
ム:そりゃあ一応ね。だって作者が苦労して計算してるの見てれば、誰だって自然と覚えちゃうよぉ。本文にも何だかよく分からない計算式が書いてあるじゃない。
※作者注:本文の計算式は排気量や平均有効圧力からトルクを、そしてトルクや回転数から馬力を求める式を1つにまとめて簡略化したものです。【ヨアケマエ】世界に出てくるエンジンは、全てこの計算式を用いて馬力を算出しています。現実に存在するエンジンなどはそれに合うように平均有効圧力の値を増減させたり、過給器の能力により係数をかけたりもしています。ただしあくまで【ヨアケマエ】世界内でのみ通用するものと考えてください。
ガ:作者はあの式を応用してジェットエンジンの軸出力まで計算しているみたいだから恐れ入るわ。「近似値」ならぬ「類似値」なる言葉まで作り出して強引に話を進めてしまうし、あそこまでいくと「死なないと治らない」と言われている病気よ、全く(呆れてものも言えないって表情)。
ム:それだけ一所懸命に作品を作り出そうとしてるのだから、私達だけでも応援してあげようよ。それよりこの『統制型』エンジンの後に『統規型』と呼ばれるエンジンの規格が出てくるのよね。どんなエンジンかはいずれ公開されるのだろうけど、『統制型』の名前のまま改良して強化するんじゃダメなの? 名前が似てるし、混乱を招きそうじゃない。ガ:それはね、「統制」という言葉に「国が何かを主導する」「国が何かを制限する」って意味があるからそれを嫌ったのと、野戦砲や艦砲を統合した『統規砲』という砲が登場したから、それに合わせたと言うのもあるわ。
ム:「嫌った」って、国が主導したからこのエンジンが完成したんじゃないの? それなのに嫌うって、訳分かんない。
ガ:まあ、それ以上に新しいものを作ったという意味が強いと思うわ。実際『統制型』と『統規型』ではその基本構造や性能が全く違うし、それを強調したくて名前も変えた、と考えた方が自然ね。
ム:ま、その辺は作者と【ヨアケマエ】世界の人達が考える事だから、私達や読者さんには関係ないか。少なくとも今回は『統制型』というエンジンが一定期間軍の機械化の役に立ち、その後も民間で活躍したって事も分かったし、それで良しとしましょう。
ガ:何で上から目線なのかは分からないけど、納得してくれて何よりだわ。それでは今回の【総括】も終わりね。
ム:と言うわけで第5回目にしてようやく出た陸戦兵器(エンジンだけど)『91式統制型ディーゼルエンジン』の紹介終わりま~す。前回からちょっと間が空いちゃったけど、次回は何が登場するか期待して待っててね~♪
ガ:相変わらず唐突なんだから……(呆れている)でも確かに次回はなるべく早く投稿させますので、末永いお付き合いをお願いします。