第4回:新型戦艦試案 『大和』型
史実の『大和』型と同時期、つまり【ワシントン/ロンドン海軍軍縮条約】破棄後を見据えて計画され、艦容も史実に近い姿であった。しかも史実『大和』型の欠点や要改善点が大幅に見直され(もちろん【ヨアケマエ】世界の人間が史実の事を知る事はできないので、独自にその結論に至った)、性格は似ているが使い勝手は改善されたはずである。
それでもコンペティションで『備前』型高速戦艦に敗れ、本艦はお蔵入りとなったが、もし建造されていたら艦隊の足枷になっていたかも知れない。運用法が史実に近ければ近いほどその可能性は大きくなるが、大胆な運用が行われれば『備前』型を超える可能性もあり得たかも知れないが、いずれにせよ仮説の域を出ない。
全長 273m、全幅 39m、排水量 64,000tというのは、全長が10m程長いのを除けば史実のものと大差ない。
主砲も45口径正46㎝3連装3基9門と変わらず、45口径40.6㎝砲12門の『備前』型とまともに撃ち合ってもいい勝負だろう。
ただ尾栓が史実では一般的である『3年式』ではなく、米軍のように下方に開く『10年式』を採用している。これにより主砲の間隔を狭め、砲塔をコンパクトにする事もできたが、散布界の問題もあり、その辺は史実の物と同じとしている。
しかしここからが史実の物と大きく違ってくる。
まず副砲。『最上』型の主砲換装がないので、それの流用というのがまずできない。しかし『統規砲』計画により15.5㎝砲がかなり多く作られるので、そちらが採用される。
『60口径15.5㎝3連装砲Ⅰ型』は先に採用された『最上』型の62口径のものと異なり、薬莢一体型砲弾を用いる横栓式閉鎖機を採用しており、高角砲としても使用可能である。ちなみに『同Ⅱ型』は薬嚢を用いる『10年式』の尾栓式で、高角射撃を行う必要のないものに用いられた。
『大和』型ではこの3連装砲塔を4基搭載している。史実のものと異なり、片舷に2基ずつの装備である。
史実通りの配置では片舷9門の投射が可能だが、この試案では片舷6門と減ってしまうが、史実で何かと問題にされる中心線上の副砲塔がなくなり、その場には複数の機関銃座が設けられた。もっとも後の検証でその問題は的外れだったと指摘されている。この副砲は高角砲群を挟んで配置されており、かつ主砲の射界を減じないように工夫されている。
高角砲は一般的な『40口径12.7㎝』連装を片舷5基10門装備し(上段3基+下段2基)、史実の初期装備より多い。これに加えて副砲も高角砲として使えるので、対空火力はかなりのものだと推測できる。
本艦を設計し強く推したのは大艦巨砲主義者の亀田造艦中将(予備役)だったが、航空機の脅威は認めていたのか初期状態から多数の機銃も搭載している。完成間近であった『96式25㎜機銃』の単装~3連装を可能な限り搭載する設計だったが、もし建造されていればその後により効果的な機銃が開発されたため、そちらに換装された可能性は大きい。
装甲は史実の物に近く舷側最大400㎜(艦底に向かい細くなる傾斜装甲)、甲板最大200㎜、主砲塔最大650㎜に加え煙突を防御するのに360㎜の蜂の巣装甲板を施している。また副砲塔には弾片防御程度の装甲しか施しておらず、これも史実と同じである(ただし砲塔の下には200㎜の装甲があり、ピンポイントで砲弾や爆弾が飛び込まなければある程度大丈夫と判断されていた)。
水密区画やバルジは史実の物より若干強化されており、排水能力の強化と合わせて魚雷等への防御力は史実より高かったと想像されるが、ダメコン要員は史実と同程度である。
兵装以上に異なっているのが機関である。
速力こそ27ktと史実のものと同じだが、それを生み出すボイラーやタービンは全くの別物。軸出力は4軸合計で152,000hpと史実と同じ(『最上』型のものを余裕を持たせて配置した)。しかしボイラーは8缶と史実の12缶に比べ少ない(ので艦内容積に余裕がでた)。
一見『最上』改の「鈴谷」型のものと思えるが、実は史実『翔鶴』型同等のボイラーのため10/10全力時で160,000hp分の蒸気を発生している(それどころか11/10全力にて176,000hpまではタービンも対応できるよう設計されていた)。そして8,000hp分の余剰な蒸気は発電用タービンやその他動力系に回され、艦の戦闘力維持に貢献している。
加えて余裕ある艦内にはディーゼル発電機や主砲用水圧ポンプなどが必要以上に搭載されていた。そのため燃費などは悪くなるだろうが(ボイラー効率は上がるため基本的な燃費は良くなるはずだが、それ以外の動力を動かす燃料が必要なため、総合的に消費量が増えるという事)、戦闘力の維持をボイラーの安定性よりバックアップに求めた形であると言える。
その他の相違点は艦尾部をトランサム型にして、艦内容積を拡張し多目的スペースとした。そのため側面形は史実の『大和』型に近いが、平面形は艦前部以外はかなり異なる。
ここは平時(戦時でも単なる移動なら)には補給物資などを積み込み、安全な輸送艦として機能する事もできたが、決戦時に水偵/水爆を多数搭載し、補助戦力として利用する事を検討されていた。
そもそも常用の水偵の数は『0式3座水偵』x4、『0式観測機』x3の計7機体制だが、決戦時には多目的スペースと甲板上に水戦x12、水爆x8~12を追加搭載し(もしかしたら常用機と入れ替えも)、砲撃戦前に少しでもダメージを与えておくのが役目となる。追加搭載機はその時により変更される事が検討されていた(最新鋭機を載せたいだろうし)。
砲撃戦直前に出撃した場合は他の水上機母艦などに収容される。甲板上に回収しても主砲の爆風で破損、最悪吹き飛ばされてしまうだろうし。
またカタパルト発進できるのなら艦上機の搭載も検討されていたほど(史実の『伊勢』型で検討された『彗星』など)。それどころか『0式司偵』すら候補に挙がったらしい(もっともその時点では将来の『双発高速偵察機』を含む、程度の表現だったが)。本艦設計時には『97式司偵』すら試作の段階で、次期司偵は双発にするか、と検討されていたに過ぎない。
本艦は計画では4隻の同型艦と2隻の準同型艦を建造する予定だった(加えて『備前』型同様空母化も検討)。準同型艦は主砲を正51㎝連装に換装した超『大和』型であり、漸減作戦の総仕上げをする艦と言われている。
名称は仮に『大和』型に『大和』『武蔵』『信濃』『美濃』、超『大和』型に『琉球』『蝦夷』、空母型に『越後』『甲斐』と名付ける事が有力だったらしい。
しかし漸減作戦は航空機や潜水艦、水雷戦隊などで敵戦力をすり減らした後、戦艦でとどめを刺すというものだが、一定以上ダメージを受けた艦隊は撤退してしまうだろうから、これまで考えていた方法は効果的ではないと判断。結果航空機と潜水艦などで縦深防御を形成し、混乱状態の敵艦隊に水上艦艇が一斉に襲いかかるという方法に変更。であるなら戦艦も高速である方がよいと、より高速の『備前』型が選ばれてしまった。何故なら本艦を『備前』型並の30kt超で動かそうと思ったら240,000hp程度必要とされ、当時の技術では6軸化が必要とされた。
ボイラーの方は余裕を持たせるように搭載した発電用タービンのスペースをボイラーに変えれば問題ないが(史実通りにボイラーを12基に増やせば能力は本案のままでも24万hpは達成できる)、6軸推進は未経験だったし、かといって1基60,000hpのタービンも当時の日本の技術では難しかった。
条約失効後の新世代戦艦を決めるコンペティションで机上演習を含む様々な角度から精査した結果、いずれも伯美技術少将が推す『備前』型の方が有利と判定されたためこちらが建造される事になり、『大和』型による大攻撃力艦隊は夢と終わった。が実戦ではどうなったか分からないし、対外的なインパクト=【砲艦外交】では『大和』型の方が圧倒的だったと思われる。しかし『備前』型は戦争を通じ活躍し終戦まで生き残ったので、結果的にその決断は正解だったのだろう。
★『大和』型戦艦
全長:273.0m、全幅:39.0m、基準排水量:64,000t、吃水:10.4m(基準平均)
機関:4軸4基8缶152,000hp、速力:27.0kt
主砲:45口径46㎝3連装3基9門
副兵装:『89式40口径12.7㎝高角砲』連装10基20門
『96式25㎜』単装~3連装多数(正確な数は不明)
装甲:舷側最大400㎜、上甲板最大200㎜、主砲塔前盾650㎜、上部270㎜
搭載機:基準『0式3座水偵』x4+『0式観測機』x3(作戦により変更)、最大+16機(露天繋止)
■ムラリンとガンちゃんの総括(笑)
ム:初めましての人も、また会えたねの人もこんにちは~。うにシルフのマスコット兼アシスタント、ムラサキウニのムラリンで~す。改めましてどうぞよろしくっ☆
ガ:同じくガンガゼのガンちゃんです…フッ、慣れって怖いわね。この始まり方が普通に思えてきたわ。
ム:それは何よりっ(心なしか嬉しそう)。それよりとうとう『大和』型ですか。日本人としては感慨深いものがあるけど……でもなんか本文見ると『大和』って作られないの? 【ヨアケマエ】世界では。
ガ:まずアンタがいつから日本人になったのか聞いてみたいところだけど…そうね、【ヨアケマエ】世界には『大和』型は存在しないわ。本文の通りコンペで『備前』型に敗れてね。それから先に言っておくけど、『備前』型の紹介はいずれ行うから今は語らないわよ。まあ性能的には『アイオワ』級と未完の『モンタナ』級の間くらいと思って頂戴。読者の皆様もそれまでお待ちくださいね。
ム:ま、性能で劣っているなら優れている方が作られるのは当然だけど、でも名前はある程度建造が進んでから付けられるものなんだから、『備前』型? の形をした新型戦艦が『大和』と名付けられても不思議じゃないじゃない。
ガ:それは設計時に仮に付けていた名前がそのまま採用されてしまったらしいの。もちろん正式には計画時には番号が割り振られていて進水式の時に初めて命名されるのが普通なんだけど、なんか設計陣の思い入れが強すぎて勝手に名前を付けて呼んでいて、コンペの際もそれで呼ばれていたみたい。
ム:でも何で『備前』? と聞きたいところだけど、いつか説明されるだろうから、それは横に置いておくしかないね。でも残念だね。『大和』が登場しないなんて。if戦記ならたとえ姿が違っても『大和』の名前は使うんじゃない?
ガ:作者もひねくれ者だからね。みんなが使う『大和』の名を敢えて避けたのではないかしら。もっとも建造されない幻の戦艦として『大和』型の名を登場させるつもりはあるみたいだけど。
ム:まあ名前の事はこれ以上話しても何だから放っておくとして……それよりスペックの方も微妙に史実と変えてるんだねえ。
ガ:史実通りなら[兵器紹介]で紹介する必要はないし、【ヨアケマエ】世界の技術的方向性を示すには丁度良かったのじゃない。史実『大和』型で問題とされた副砲の位置を変えたり、対空火器の数を最初から多めにしたり、抑えすぎたボイラーの性能を普通レベルにしたり、など。
ム:確かにね~。それより主砲や副砲の尾栓形式がアメリカ式なんだ。
ガ:そう。下方に開く方式は日本が用いていた側方に開くタイプよりパワーが倍必要だと言われるけど、それがまかなえればメリットの方が大きいからね。ボイラーの数を減らす事で空いたスペースに他のパワーユニットを装備して、必要な動力は生み出せると思うし、これなら史実でも作れたんじゃない。何せ決戦時にボイラーが不調で出撃できないと困るからって、わざわざ『初春』型駆逐艦のボイラーをデチューンして確実に動くボイラーを作り、それを多数積む事で必要な馬力を発生させていた訳だから。それに引き替え1缶20,000hpを生み出す『翔鶴』型同等のボイラーなら充分16万hpを発揮できてしまう。ねっ、史実世界でも充分作れてしまうでしょ? お金とか工場のラインに余裕があればだけど。
ム:そう考えると史実の『大和』型って残念な戦艦だったんだ。コッチの『大和』型もスペック的にはほとんど同じだから、作らなくて正解だったね。
ガ:まあ史実世界においてはあれが限界だったと思う。亀田造艦中将のモデルはあの平賀造船中将だし。それまでの実績や政治力を発揮されたら、あの案が通ってしまうのは無理ない事だと思うわ。もちろん【ヨアケマエ】世界なら政治力を無効にするシステムが働くから、純粋に性能勝負になって『備前』型が建造できたのだけど。
ム:政治力って怖いね~。史実でも『大和』型の原型である『A-140』には高速戦艦案もあったみたいだし、そっちが採用されてれば機動艦隊の護衛に『大和』型なんて事もできたのに~。
ガ:それは言わないであげてっ。それを言ったら『長門』型にだって高速戦艦化計画があって、『陸奥』さえ謎の爆沈をしなければ昭和18年には高火力高速戦艦4隻が『金剛』型に代わって機動部隊随伴艦になったのだから。更に言えば『扶桑』型魔改造プラン(主砲を正41㎝砲10門にするなど)も併せて実行すれば、アメリカ戦艦隊と砲撃戦を行っても充分勝てたと思うんだからーーーっ!(魂の叫び)
ム:ガンちゃんこそ落ち着いてっ。もう起こってしまった事は変えられないし、後知恵を形にするためにif戦記、ひいては【ヨアケマエ】があるんだから。そっちで我慢してーっ!(宥めるのに必死)
ガ:(何とか落ち着いて)ふぅーっ。分かってる、分かってるわ。でも分かっているからこそ残念に思ってしまうのよね。だからこそif戦記を書いたり読んだりして、あり得たかも知れない事に思いを馳せるのだから。
ム:そうそう、だから作者にはどんどん書いてもらわなきゃ。みんなが面白いと思ってくれる作品を。
………それより今更だけど、この[兵器紹介]では計画だけで終わった兵器なんかも紹介するの? 「どうせ」と言ったら何だけど、作品に出てこないようなものまでも。
ガ:まあ、たまにはいいんじゃない。【ヨアケマエ】世界でだって競作して敗れる兵器はいくらだってあったと思うもの。特にこの『大和』型なんかは普通は登場するはずなのに、作者が好みでボツにしたようなものだから、せめて計画はあった事くらい書かないとかわいそうというか、『大和』ファンから怒られそうじゃない。
ム:確かに、私だって最初は納得できなかったしね。そう考えれば計画だけの兵器、活躍できなかった兵器が登場しても問題ない、いやそれどころか物語に深みを持たせられるかも。それならあの作者の作品の足りないところを補うのに必要か。
ガ:せめて私達くらいは素直に応援してあげましょ。もちろん駄目なところがあれば叱咤激励するのは当然だけど。
ム:分かったっ♪ それではみんな、次に何が出てくるかは分からないけど、楽しみに待ってようね~(いきなり満面の笑みで、どことも知れない方に手を振りながら語りかける)。
ガ:いきなり終わらせないっ。それとハードルも上げないっ(やっぱり基本はツッコミで終わる事に)。
※修正
亀田造艦中将(予備役)についてですが、個人的な命名ルールに従い「国分」造艦中将(予備役)に変更させていただきます。
今後投稿する文章に関しては「国分」と書いていくつもりですが、投稿済みの文章で「亀田」となっていたら、読者の方々自身で「国分」と変換して読んでいただけたら幸いです。
誠に勝手なお願いですが、よろしくお願いします。