第8回:カタパルトの発達
ム:ねえねえガンちゃん、今日も戦艦の説明をするんだよねっ。今回は何型だったっけ。
ガ:残念ながら違うわ。第7.x回でやっている[日本の戦艦]シリーズはお休みして、今回は【ヨアケマエ】世界で用いられるカタパルトの説明をしたいと思うの。
ム:なんでまた急に?(理由が分からず混乱している)
ガ:[日本の戦艦]シリーズは1回ごとの労力が大変なのよ。まず荒い設定を考えた後にCGを仕上げ、その画像に沿った設定に修正する必要があるのよね。だから間隔も空くし、作者がへばってしまうという訳。そのインターバルを取るために、他の兵器の紹介を挟んでいこうと考えたらしいの。でも手抜きはしないと作者は言っているし、もしそう思っていても私達がさせない。それに[日本の戦艦]シリーズが終わるまで他の兵器の紹介をしないのなら、いつまで経っても日の目を見ない兵器が沢山出てきそうじゃない。それを防ぐためにも必要な措置なの。分かってくれた?
ム:頭の中には浮かんできても、それを表現するための筆が遅い作者のためだという事は分かった。ホント、アイディアだけはポンポン出てくるんだよねぇ。でも細かいところまで詰めるのは苦手みたいだから、読者のみんなの事を考えれば必要かも。
ガ:本当に困った事だけどムラリンのいう通り。その代わりこういうスタイルを取るのであればアイディアを垂れ流すだけでなく、しっかりとした物に作り込んでもらうからムラリンも協力してね。私達アシスタントなんだから。
ム:(元気良く敬礼ポーズで)りょーかいっ!
ガ:それを読者の皆様へお知らせですが、今後[日本の戦艦]シリーズの途中に他の兵器の紹介が入り込んできます。ですが番号の関係上次の[日本の戦艦]シリーズ回は差し込む形にさせていただきます。というより作者がその練習をしたいというのもありまして。ですので失敗して間違った所へ差し込んでしまう可能性も否定できません。その際には寛大な気持ちで目をつぶっていただけたら幸いです。
ム:よろしくお願いしまーす。
ガ:それでは【ヨアケマエ】世界の日本のカタパルトの説明を始めたいと思います。
ム:って事は日本軍は史実とは違うカタパルトの開発に成功したの? 【ヨアケマエ】世界という事は史実より技術的に進んだものが使われたのだろうけど。
ガ:そう。史実では日本軍は一部を除き『火薬式』カタパルトのみに頼っていたの。ごく一部の例外は主に潜水艦に搭載された『空気式』ね。もちろんその他のタイプも研究開発されていたけど、マイナーだったり実用レベルに達しなかったりなので、無い物として扱った方が早いのよ。早い話、戦争当時最もパワーのあった『油圧式』が開発できなかったから、『火薬式』『空気式』のみ用いられたという表現で良いと思うわ。
ム:でも【ヨアケマエ】世界では違うと?
ガ:でなければ紹介したりしないわ。【ヨアケマエ】世界では日本はイギリスと同盟を結んだままなので、油圧式カタパルトの技術を入手できたのよ。ただ他にも様々な種類のカタパルトが開発されたから、日本としては一番技術的ハードルの高かった『油圧式』はあまり普及しなかったのだけどね。その代わり世界に先駆け『蒸気式』カタパルトを実用化したわ。
※作者注:ドイツには飛行艇を射出するための蒸気式カタパルトを搭載した『カタパルト艦』というものが存在するそうです。就役時期(40年?)からするとそちらの方が早いかも知れません。ただし詳細な情報がないので断言はできませんが。
ガ:などと作者が考えつく限りのカタパルトを実用化してみたみたいなの。史実では米英は保有していても日本にはなかったものから、「本当に技術的に可能なのか?」と言いたくなるようなものまで。でもそれが【ヨアケマエ】世界であり、if戦記の醍醐味じゃないかしら。現実的に考えれば無理なものを「使える」ものにしてしまうのって。
ム:まあ説得力があれば読者さんも面白がってくれるかもね。だけど作者、数学とか物理とか苦手じゃなかったっけ? それなのによく能力とか計算できたねぇ。
ガ:それに関しては全くもって自信がないと、自信たっぷりに断言していたわ。あくまで自分の頭で分かる範囲で射出能力やら必要なエネルギー量を計算しただけだから、物理に詳しい人達が見たら「これは出鱈目だ」「この計算式は間違っている」とバッサリ切ってくれるでしょうね。そういう事ですから読者の皆様にお願いします。以下に紹介するカタパルトの性能等は【ヨアケマエ】世界でのみ通用するものであり、作品内のアイテムとして半ば呆れ半ば面白がりながら見ていただきたいと思います。万が一ご自分の作品に登場させてご自身が批難をされても、当方としては責任は負いかねますので。もちろんアイディアのみ参考にして、ご自身で再計算した後に使用する分には何も問題はございませんし、当方としても考え方の方向性は間違ってなかったのだと認識できますから。
ム:その表現だと作者のアイディアを他の人が使ってもいい、むしろ積極的に使って欲しいと言ってるようにも聞こえるけど。だいじょぶなの? 「二次創作」って禁止なんじゃない?(本気で心配している。他の人の事を)
ガ:作者はギリギリ大丈夫だと考えているわ。ストーリーやキャラクターならアウトでしょうけど、兵器なら別の人の作品に「似たような」ものが登場しても不思議ではないでしょう。作者自身、他の人の作品に出てくる「素晴らしい」「面白い」アイディアは参考にさせてもらっているわ。もちろん自分なりの解釈をした後でね。だから自分の考えた兵器などを他の人が使っても文句は言えないし、評価されたと感じるみたいだから。
ム:ま、if戦記自体が史実の「二次創作」みたいなものだからね(かなりの極論)。
ガ:そういう事(認めるの?)。それではまずは大まかな分類を見ていただいてから個々の説明に入るけど、準備はいい?
ム:はーい(笑顔で右手を挙げて同意している)。
ガ:では始めたいと思います。
■日本のカタパルトの分類
★火薬式
・従来型 史実の「呉式○号○型」と同じ。
・燃焼ガス圧型 高低圧砲の要領で従来のような爆発力ではなく、発生したガスの圧力を利用。史実アメリカの「内燃式」に近い?
・蒸気発生型 燃焼ガス圧型に水を投入し、水蒸気を発生させる事で利用できるガス体積を増やしたもの。
★空気式
・従来型 史実潜水艦用のものと同じ。
・多バレル型 魚雷の気室を利用し、複数の気室から空気を放出させる事で能力向上を図ったもの。
★油圧式
・通常型 イギリスから輸入。あまり普及せず。
★蒸気式
・蒸気圧型 油圧式等の構造に近いもの。短いシリンダに多段動滑車の組み合わせ。
・直結型 史実蒸気式と同じ。戦後まで普及せず。
ム:ホントに大まか、というか大雑把だねぇ。
ガ:これ以上書くと下記の内容と被ってしまうのよ。もちろんまとめてしまう事もできたけど、ゴチャゴチャしてしまう可能性があったから「分類」と「説明」を分けたみたい。それでは個々の細かい説明をするわね。
■各カタパルトの説明
★火薬式・従来型
ガ:これは説明しなくても読者の皆様の方が知っているのではないかしら。分類のところにも記したとおり原理は「史実の『呉式○号○型』と同じ」なのよね。火薬の爆発力を利用してピストンを押し出すというシンプルな方式ね。だから性能とかメリット・デメリットも同じになるの。故に諸元などは敢えて示さないみたいよ。【ヨアケマエ】世界では少しずつ次に説明する『火薬式・燃焼ガス圧型』のものに換装されつつあるから、開戦時にこのタイプを装備している艦は半分程度ではないかしらね。
★火薬式・燃焼ガス圧型
ガ:これは【ヨアケマエ】世界オリジナルのカタパルトね。火薬を用いるのは『従来型』と違いないのだけど、『従来型』が大砲のように爆発力を利用してピストンを動かすのに対し、こちらは発生したガスの圧力でピストンを押し出す所が違うわ。
ム:? 何が違うの? ガスを発生させるには火薬を爆発させる必要がある訳だし、爆発力だって衝撃波だけじゃなく発生したガスが後押ししてくれる分もあるよねぇ。それって区別できるの?(ガンちゃんの説明だけでは分からなかったようだ)
ガ:そう言われると難しいのだけど……(少し考えた後に)ムラリンは『高低圧理論』って知ってる?
ム:低反動砲なんかに使われるものでしょ? 高圧室で火薬を爆発させて、それを低圧室に導いてから砲弾を発射させるやつ。
ガ:そう。それに近い技術で作動させていると考えてもらえればいいかな。これならガスのみでピストンを動かしていると分かるでしょ?
ム:そう…言われればそうだねぇ……(少しずつ納得中)。
ガ:何とか分かってくれて良かったわ。【ヨアケマエ】世界で採用されている実際の形状は、カタパルトの長さに合わせた全長4~8m・直径40㎝のシリンダ部と、全長1m・直径80㎝の低圧燃焼室を直結したものに、ピストンと2つの動滑車にワイヤを組み合わせて、それにカタパルト本体を合体させたものね。まあ燃焼ガスが充満する部分以外は『従来型』と大差ないと思ってもらった方が分かりやすいと思うわ。そして射出する際には無数の穴が空いた薬莢みたいな発射薬を低圧燃焼室に装填する事で準備完了。通常の砲弾に用いられている薬莢って頑丈でしょ? それが高圧室代わりになって機能する訳なの。
ム:という事は発射薬から四方に噴出したガスが低圧燃焼室に一旦充満して、『従来型』よりソフトにピストンを押し出すって理解でいいんだよね?
ガ:ご名答~(パチパチ)。厳密には発生したガスの内1~2割程度は直接シリンダの方へ導かれて初動のエネルギーとなり、残りの8~9割がじわじわと後押しする感じね。そうした方がパワーが持続しそうだと作者が判断したためなんだけど、もしそれでは上手くいかないと思われた方がいたら、どのような形でも良いのでどんどんツッコんでいただきたいと思っております(作者も同意見です)。
ム:物理とかちゃんと分かっている人からの修正を受けられたらいいね~。
ガ:本当に物理考証をしてくれるアシスタントが欲しいわ。私達でもそれは面倒見られないからね……とそれはさておき、この『燃焼ガス圧型』には史実のモデルがあるのよ。アメリカ軍が『蒸気式』の後継として考えていた『内燃式』というものがね。
ム:『内燃式』ってエンジンでも動力源にしたの?(その名前からレシプロエンジンのようなものを想像したようだ)
ガ:そうじゃなくてね、シリンダの後端で燃料か何かを燃やしてガスを発生させ、それをエネルギーにしてピストンを動かしたみたいなの。詳細までは載ってなかったのだけど、某百科事典サイトに書いてあったから存在自体は間違いないわね。性能等も『蒸気式』より良かったみたい。ただし開発された1950年代の時点では安全性が確保できずにお蔵入りになってしまったの。だけどアメリカ軍は諦めきれなかったのか、1990年代に『電磁式』とポスト『蒸気式』の座を争ったみたいよ。でも負けてしまったようだけどね。
ム:なぁんだ。それを見つけた作者が石油系燃料より安全っぽい(制御しやすい)火薬にエネルギー源を換えて、当時の技術に合わせて仕上げただけかぁ。まあ石油を燃やす際、効率を高めようとしたら『酸素魚雷』みたいになるだろうから、危険極まりない事間違いないからね。それを安全にしただけでも作者のアイディア勝ちかぁ(何に対して?)。
ガ:ムラリン、勘違いしないで。作者がこのタイプのアイディアを出したのはネットでその記事を見つけるよりはるか前よ。単純に『火薬式』カタパルトを安全に運用できるよう『低反動砲』の技術を応用して導き出したの。
ム:という事はその記事を見つける前から作者は『燃焼ガス圧型』のアイディアを持っていたんだ。そう考えると作者の発想力って意外とある?
ガ:と言うより安全性を無視すれば誰でも考えつけるって事じゃない?(ホント厳しい) でも【ヨアケマエ】世界ではこのタイプは活躍するだろうから、ムラリンも読者の皆様も覚えておいてね&覚えておいて下さいね。
★火薬式・蒸気発生型
ガ:これは『燃焼ガス圧型』の応用。基本的な構造は『燃焼ガス圧型』と同じだけど、低圧燃焼室の中に一定量の水を発射薬と一緒に入れるのね。そして燃焼ガスの熱で水蒸気に変えて、その圧力でピストンを押すようにしたものなの。
ム:なんでわざわざ一手間加えたの? 『燃焼ガス圧型』でも『従来型』より安全かつ強力なカタパルトだったんでしょ。
※作者注:個々の性能については別述しますので、それまでお待ち下さい。
ガ:1つはより強力なものにするためだけど、それとは別にもう1つ、日本軍は『油圧式』より先にボイラーの蒸気を利用する『蒸気式』の開発を行っていたの。そこで蒸気にどれくらいのパワーがあるか確認するためにこのタイプを作ったみたいなの。だから余計な開発リソースを用いるより、既にあるシステムに組み込んで検証を試みたらしいのよ。
ム:しなくてもいい苦労はしない方がラクでいいよね。でも燃焼ガスより水蒸気の方がそんなに有利なの? それに燃焼ガスの熱だけで充分な水蒸気を作り出せるの? でなければこの方式にする意味ないよね。
ガ:確かにそうだけど疑問に思うのは分かるわ。だから1つ1つ説明するわね。まず水蒸気の方が有利な点について。燃焼ガスの元を火薬をTNTとした場合、完全燃焼すると1㎏あたり730Lのガスが発生するわ。それに対して1㎏の水が全部水蒸気になったとするなら1600~1700Lの水蒸気に変化するわ。単純に2.2倍以上の体積よね。という事は同じシリンダに導かれたら同じだけ圧力を高められる=ピストンを押し出すパワーが強まるとなるし、パワーを強めないのなら水の量を少なくできる。どちらにせよ単純な考えに基づけば水蒸気の方が有利となるわけ。
ム:とりあえず発生する気体の容積が燃焼ガスより大きい事は分かった。
ガ:次に燃焼ガスの熱で水蒸気を作れるのかについて。正直言ってしまうと火薬で熱を得るのって効率が悪いのよね。石油製品と比べてみるとガソリンが1Lあたり約33MJの発熱量があって、これを㎏に直すと約44MJ。これに対してTNT火薬1㎏を爆発させた時に得られる燃焼熱は4,184,000J=約4.2MJと1/10以下しかないのよ。資料によっては14.5MJとするものもあるのだけど、それでもガソリンの1/3程度しかないわね。
※作者注:この値は作者がよく利用させてもらっている某百科事典サイトに書いてあった値なのですが、2011年編集での値と2018年編集の値が上記のように異なっているのです。他のサイトでも両方の値を目にしますので、作者としては判断できずにいます。ですが偶然にも水1gの温度を1℃上げる事ができる熱量が4.184J=1calとTNT火薬の燃焼熱と同じ数字(単位は異なる)が出てきたものですから、当面はこちらの値を使用させていただきます(こちらの値の方が小さいですから確実に得られるでしょうし)。もし14.5MJの方が正しいと分かった時点で修正を行いたいと思ってますが。
ガ:もっとも燃料を燃やして水蒸気を作ろうとするとボイラーが必要となるだろうから、効率が悪くてもほとんど改造せずに使える火薬を用いる方法は変えないみたいだけどね。
ム:まあボイラー使ったらもはや『蒸気式』だしね。
ガ:だからこの『火薬式・蒸気発生型』は『同燃焼ガス圧型』のバージョンアップ型と考えてください。若干能力が向上する代わりに1~2年採用が遅れる、といった感じでしょうか。現時点でスペックを公表できない事が残念ではありますが、こちらも【ヨアケマエ】世界ではよく用いられると思います。簡単に『燃焼ガス圧型』から改造できますので。
★空気式・従来型
ガ:これも紹介する必要はないわね。史実と同じ名前のものは性能も同じと考えていただきたいと思います。
ム:という事は『伊四〇〇』なんかに搭載されていた強力なヤツも存在するの?
ガ:登場時期から考えると【ヨアケマエ】世界では多分開発は行われないわね。それくらいなら次に紹介する『多バレル型』を採用すると思うもの。
★空気式・多バレル型
ム:「たばれる」型って何なの?(漢字すら想像できないらしい)
ガ:銃砲身の事を「ガンバレル」と呼ぶのは知っているわよね。「バレル」とはそういう円筒形の部品を指す言葉よ。元々は「樽」を表す単語だけど、ここでは「魚雷の気室」という意味で使わせてもらっているわ。
ム:意味は分かったけどなんで「多」なの? それに「魚雷の気室」と断定してる理由も知りたいし。
ガ:それは元々『空気式』のカタパルトには大量の空気を溜めておくためのタンクが必要でしょ。それもタンク自体のサイズを小さくするためには高圧の空気を溜めておけるよう頑丈に作る必要もあるし。でもそれって魚雷の気室と同じじゃない? 『九三式(酸素)魚雷』なんて980Lの気室に200bar以上の高圧で酸素を閉じこめている訳だから、単純に考えたら200,000Lの空気が1,000Lの容器に入っている事になるわよね。
ム:物理に詳しい人から「そこまで単純な事ではない」と言われそうだけどね。作者だけじゃなくガンちゃんも物理に弱かったとは…(極まると鋭いムラリンのツッコミ)
ガ:(ちょっとムキになって)それはムラリンも一緒でしょ? 作者が苦手な事は私達も苦手なんだから仕方ないじゃない!
ム:私がおべんきょ苦手なのはキャラで通るけど、ガンちゃんはねぇ~……。まあそんな直接関係ない事は置いといて、魚雷の気室になんでそこまでこだわってるの?
ガ:……それは空気タンクの代わりに魚雷の気室を改造したものを用いるからよ。それも魚雷発射管みたいに何本も並べて使うから『多バレル型』と名前を付けたみたい。
ム:(まだ完全に想像できてないようで)え~っと、もう少し細かく詳しく説明してくれないかな。わざわざ魚雷の気室を使う理由を。
ガ:それはね、射出速度を高めるためよ。
ム:それって飛行機を高速で飛ばすため?(巨大な『?』マークで頭が大きく傾いている)
ガ:(頭を振って)違う違う。それなら「初速を高める」ためと表現するわ。そうでなくて飛行機1機の射出にかかる時間を短縮するためって事! 銃なんかの発射速度と同じよ。
ム:(パンと両手を合わせて)ああそっちの事ぉ。でもそれならタンクと配管の数を増やしても同じじゃない? 供給できる空気の容積が同じなら。
ガ:でもね、『空気式・従来型』カタパルトではその度に空気を充填してあげないといけないのよ。前述の『伊四〇〇』型に搭載されていたものなら1機あたり約4分かかったみたい。だけど『多バレル型』ならタンクが分散している分、数機は再充填しなくても射出可能な上に「カートリッジ」と呼ばれる数本の気室を束ねたものを付けかえれば更に連続射出可能と作者は考えているわ。配管が2系統(以上)あれば換装時間も無視できるでしょ。『九三式(酸素)魚雷』の気室サイズは全長約3.5m、直径61㎝だから4本まとめた「カートリッジ」でも全幅3m、高さ1mを超えないはずよ。それくらいのサイズなら護衛空母でも数個は搭載できるわ。複数系統の配管スペースも確保できるだろうし。
ム:確かにそれならば……でも潜水艦には積めないよね。そんなスペースないもの。
ガ:『伊四〇〇』型だって3機しか『晴嵐』を搭載できないのだから心配する必要はないわ。史実の潜水艦に装備されていた『空気式』カタパルトの気蓄タンクがどれくらいの容量があったか資料がないから分からないけど、充填できる空気量は魚雷のそれより小さいんじゃない? だとしたら『単バレル』でも充分でしょ。
ム:そこまで言われたら納得するしかないかぁ。
ガ:納得してもらえて嬉しいわ。でもここまで説明しておいて何だけど…このタイプを採用する艦は少ないと思うのよね。
ム:なんでぇっ!? こんなに使えそうなものなのにっ!?
ガ:だって【ヨアケマエ】世界ではもっと強力な『蒸気式』カタパルトが多用されるのですもの。この『多バレル型』でもパワーでは勝てないわ。射出速度ならともかく。
ム:もったいないな~。作者だって少しは頭使ったでしょ? これを考えるのに。
ガ:作者の手間より【ヨアケマエ】世界で生きる人達の使い勝手の方が重要でしょ。それに魚雷(の気室)と製造工程の一部を統一できるのは強みだから、全く採用されない訳ではないもの。『多バレル』は無理でも『単バレル』『少バレル』なら潜水艦にも搭載できるだろうしね(珍しくお茶目なポーズでムラリンを宥めている)。
★油圧式・通常型
ガ:これも構造等は説明の必要はないわね。読者の皆様もご存じの構造ですから。分類の所でも示したようにイギリスからの輸入、技術導入により完成した事になっております。もっとも動滑車などのパーツは『空気式』などと同じですけどね。
ム:【ヨアケマエ】世界では史実にないタイプのカタパルトも作ってるよね。それなのに『油圧式』は日本独自に開発できなかったの?
ガ:もちろん開発は行われていたけど、イギリスの方が先に完成させる事ができたのよ。であればその技術をそのまま輸入した方が早く実用化できるじゃない? いくら史実より技術力が高かったとする【ヨアケマエ】世界でも、油圧系の技術は苦手だったのよね。油漏れしないためのパッキンとかは開戦前にようやく欧米に追いつけたんじゃないかしら。この『油圧式』カタパルトの導入によってね。
ム:それじゃあ空母の甲板上にこの『油圧式』カタパルトを積めるね。アメリカの空母みたいに。でもそうしたら『空気式・多バレル型』の必要なくなっちゃうね。ちょっともったいない気もするけど(指を咥えるようなポーズで)。
ガ:それがそんなに簡単な話じゃないのよ(目を閉じ「やれやれ」といった表情で)。今言ったばかりだけど油圧系の技術はようやく使い物になったレベル。あれこれ試行錯誤している内に次に紹介する『蒸気式・蒸気圧型』が完成してしまうわ。そうなればわざわざ不慣れな新技術を使う必要がないのよね。だからあまり使われないのよ、『油圧式』は。
ム:ちょっと待ってよ、ガンちゃんっ!(急に真剣な表情) 油圧の技術ってそんなに新しいものじゃないし、カタパルトに限れば『蒸気式』の方が新技術じゃない?
ガ:そうよね、ちょっと言葉不足だったわ。『油圧式』カタパルトのキモである油を溜めるタンクの構造以外は以前からあるものだしね。そのタンクや高圧に耐えられるバルブなどの技術をここでは「不慣れな新技術」と言ったのよ。普通の油圧系ならポンプを使って油に圧力をかけて送り出すけど、カタパルトのものは圧縮した空気を用いて高圧で油を送り出すのだから、パッキンだってそれまでのものより強化されているはずだしね。
ム:そういう風に言われたら納得するしかないかぁ(腕を組み自分に言い聞かせる感じ)。
ガ:そういう事に決まった、とまで理解してくれたら納得されなくても仕方ない、と作者は考えているみたいよ。自分でも矛盾(折角『油圧式』があるのに使わない)とか無茶な考え(『火薬式』『空気式』での無理設定)を持っているとは分かっているから。
ム:そこまで腹決められたら私達は応援するしかないね。
★蒸気式・蒸気圧型
ム:ガンちゃん、この表現おかしくなぁい?
ガ:(苦笑しながら)確かにね。そもそもカタパルトってごく初期の一部を除き、何らかの圧力をシリンダ内にかける事でピストンを押し出して機体を射出するものだから、この名称だと「蒸気圧」を用いない『蒸気式』って事になりそうね。ただ作者は【ヨアケマエ】世界では『蒸気式』を開発する際、次に紹介する『直結型』とこの『蒸気圧型』が検討されたため、区別するため先に完成していた『火薬式・燃焼ガス圧型』から名前をもらったとしたいみたい。でももっと分かりやすい名前もあるでしょうに。
※作者注:敢えてそういうツッコミを受けるつもりでこの名前としたのです。
ム:まあ名前については置いておくとして…『直結型』と『蒸気圧型』は何が違うの?
ガ:『直結型』は現代空母と同じ方式。後で紹介したいから説明はあっさりにさせてもらうわ。それに対し『蒸気圧型』はこれまでのカタパルト同様短いシリンダと動滑車を組み合わせてワイヤを引っ張る方式というのが大きな違いね。
ム:つまり動力源が「蒸気」に置き換わっただけって事?
ガ:そう。『火薬式・蒸気発生型』なんてこのタイプの試験を兼ねて作られたくらいだから、【ヨアケマエ】世界では『蒸気圧型』にかなり期待していたと考えられるわね。
ム:そんなにすごいものなの、『蒸気圧型』って。
ガ:確かにメリットは多いわ。まず圧力が強い。【ヨアケマエ】世界では『島風』型駆逐艦やその機関が量産されるらしいの。という事は40気圧の蒸気を発生できるボイラーがかなりの数作られるという事になるでしょ。まあそこまで強いものではない、極端に言えばその半分の20気圧だって他のカタパルトより強い力がかかっていると言えるわ。それが持続的に供給されるのだから機体やパイロットに対する負担も小さい。これだけでも採用する価値はあるでしょ。それだけでなく配管が難しいというデメリットはあるけれど、空気や油のタンクが不要になるから割かれるスペース的にはどっこいどっこい。しかもそれらのタンクは構造が複雑なため故障しやすいという欠点があるわ。「蒸気漏れ」にさえ気をつければいい蒸気管に比べれば製造にも整備にも手間がかかってしまうの……そうそう、「蒸気漏れ」といえば『直結型』のようにそれが宿命という事もないしね。この事については後で紹介するけど。
ム:説明を聞いていたら『蒸気圧型』がカタパルトの究極形態のような気がしてくるよ。でもだとしたらなんで現代のカタパルトが『直結型』になってしまったのかが不思議なくらい(本当に不思議でたまらないといった表情)。
ガ:その説明も『直結型』の所でしましょう。でも40年代としてはこの『蒸気圧型』がカタパルトの究極形と言ってしまっても過言じゃないかもね(優しく微笑みながら)。
ム:じゃ早く『直結型』の説明をしてよ(子供のように輝いた瞳でおねだりしてる)。
★蒸気式・直結型
ガ:このタイプの説明も本来は必要なかったのだけど…『蒸気圧型』との比較のために行うわね。ただしただし基本的には現代の『蒸気式』カタパルトと同様の構造です。読者の皆様には説明する事もないくらいに(あらかじめの注意事項)。
ム:でも説明するって言ったぁ(もう待てない様子)。
ガ:(興奮するムラリンを宥めながら)分かってるわよ……それではまず『直結型』の説明を簡単に。【ヨアケマエ】世界で普通の『蒸気式』カタパルトがわざわざ『直結型』と呼ばれているのは、シリンダ内部のピストンと飛行機を引っ張るシャトル部分が直接繋がっているからよ。それまでのカタパルトはピストンとシャトルの間に必ずワイヤや動滑車が存在したから、それらと区別するために『直結型』なんて表現になった訳なの。それこそ『蒸気圧型』だって従来の構造を踏襲しているわ。
ム:なんで従来のスタイルをやめたの? 逆になんで従来のものは直結してなかったの?
ガ:簡単に言ってしまうと真っ直ぐで長いシリンダを作る技術が確立したのと、直接繋がっている方がパワーに無駄がないから『直結型』に移行した訳ね。飛行機の技術が向上したためカタパルトも長くてパワーのあるものが必要だったのよ。現代の艦載機用カタパルトの長さは70~90m程。【ヨアケマエ】世界のメインの舞台は第二次大戦前後で、その頃=初期の『油圧式』カタパルトの長さは30m程度。当時の艦上機はそれくらいの長さでも射出できたけど、反面当時の技術ではそれくらいの長さでもスムースに動き、かつ蒸気ロスのない(少ない)シリンダは作れなかったと思うわ。少なくとも日本の技術ではね。でも理想的なシリンダを作れるようになった大戦後に飛行機の性能が向上、主にジェット&大型化したのもあって、『直結型』に移行せざるを得なかったという訳なの。それにムラリンも読者の皆様も知っているとおり、『直結型』はピストンとシャトルが繋がっているからシリンダにも飛行甲板にも長い溝が絶対に必要でしょ。そこから折角の蒸気が大量に漏れてしまったら意味無いから、それを防ぐためにゴムでシーリングするのだけど、これまたご存じのとおり、それでも蒸気は漏れ出してしまうわ。それも機関出力が低下してしまうくらいにね。
ム:「機関出力の低下」って、そしたらスピード落ちちゃうじゃない。まあ合成風力に頼らなくていいくらい加速されるのだろうけど。
ガ:そうよ。蒸気発生量の多い原子力空母では問題ないみたいだけど、通常のボイラーしか積んでいない空母では連続使用すると速力が低下してしまうわ。それに減ってしまった水を補給する必要もあるから、かなり無駄のある方法であるという事もできるの。その点前述した『蒸気圧型』ではその構造上蒸気のロスは少なく済むわ。細かな説明はいずれ行う事になるけど、ピストンを押し出した後の蒸気は再び戻るよう配管してあるから、水の補給も最低限で済むと思うし。そういった理由から戦争中『直結型』は普及、それどころか正式採用すらされなかったの。その分『蒸気圧型』が空母の飛行甲板上のカタパルトとして活躍する事になったのよ。【ヨアケマエ】世界では。
ム:『油圧式』でも『蒸気式・直結型』でもないタイプが頑張ったんだね~。
ガ:そういう事。ま、この辺は作者のこだわりだと思うから勘弁してあげて。たとえそれが実際には機能しないようなものであっても【ヨアケマエ】世界だけでは存在して、作者が意図するようにその性能を十全に発揮してくれると思うわ。中には失敗作や未完成で終わるものもあるだろうけど、それも現実的な考えに基づくものだし、ね。
■ムラリンとガンちゃんの総括(笑)
ム:【ヨアケマエ】世界のカタパルトって史実のものよりかなり強力だね。
ガ:それはそうでしょ。折角if戦記なのだから、少しくらいはムチャしないと面白くないと思わない?
ム:そうかも知れないけど~。だとしたら名前とか性能とか、少しくらい出してくれてもいいんじゃない? その方が想像しやすいし、読者のみんなにも親切だよぉ。
ガ:まだ性能等の計算できてないのだから仕方ないじゃない。あの作者、いい加減だけど無責任な事はしたくないみたいだから、計算が済んで登場時期などの細かい調整ができたら公表するわよ。だからもう少し待ってあげて。
ム:ガンちゃんは相変わらず作者に甘いんだから~(諦めたようなため息)。でもまあいい加減なデータを出されても困るのは読者のみんなだからね。そしてそれは作者や私達に返ってくる。だったら待つしかないかぁ。そのかわり作者っ(ビシッと指を突き出し)、ちゃんとしたデータを出さなかったら許さないんだからね~っ、主に私がっ!(魂の叫び)
ガ:そこは読者の皆様のためって言いなさいっ。私達はアシスタントなんだから作者と共に読者の皆様の事を第一に考えないといけないんだからねっ(正しいツッコミ)。
ム:それは分かってるけど、私だって楽しみたいもん~~(駄々っ子)。
ガ:(突き放すように)はいはい、分かったからお仕事しましょ? ……相変わらず最後はグダグダになってしまいましたが、今回大まかな説明をした【ヨアケマエ】世界に登場するカタパルトの詳細は別の機会に紹介したいと思います。一部名前の出ているものもありますけど、19/04/21現在、性能は確定しておりませんし、名称も変更になる可能性があります。そのあたりをご理解の上、楽しんで読んでいただけたら幸いです。
ム:みんな~、大人しく待ってようね~。でないとガンちゃんに怒られるぞ~。
ガ:私は読者に怒ったりしないっ!(怒る対象はムラリンと作者だけの模様)
冒頭でガンちゃんが言っていたとおり、連載小説の途中でエピソードの差し込みを練習する事が半分でこの[カタパルトの発達]を書いた次第です。そのため[日本戦艦]シリーズは以後この回の前に差し込んでいこうと思ってます。失敗したら「ごめんなさい」と言うしかありません。
性能や名称も載せてない中途半端なものですが、【ヨアケマエ】世界ではこういうカタパルトが使われている、使われる事になると分かっていただくために書いたものなので、この程度の内容にとどまってしまった事をご容赦いただきたいと思います。
性能が確定次第「第8.x回」の形で公開いたしますので、それまでお待ちいただけたら幸いです。